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目の前の人がとつぜん生理になったら、何ができる? LiLiCoさんと田中俊之先生が語る「性教育と社会」

「スウェーデンでは8歳から性教育を学ぶ」と語るタレントのLiLiCoさん。男女一緒に、出産について知ることで、生理は「命が作られるための大切なもの」と学んだと話します。

そんなLiLiCoさんが、男性学を研究する大正大学の田中俊之先生と対談。パートナーや周囲の人たちと話し合いながら、社会をアップデートするためにはどうすればいいか、本音で語り合いました。


(聞き手・構成:笹川ねこ 写真:豊田和志)

男女が一緒に学ぶスウェーデンの性教育

――LiLiCoさんの母国スウェーデンでは、男女一緒に性教育を学ぶそうですね。

LiLiCo:8歳のときから性教育を学んで、出産の動画を観ましたね。こっち(足側)から撮った動画だったので、「え!」と思いましたし、やっぱり痛そうだなっていうのが最初の印象でしたけど、これはちゃんと考えるべきことだなって思いました。

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10歳になってから、生理を学ぶんです。あと私のお母さんは日本人ですけど、ちゃんと生理のことを教えてくれましたね。

体育の途中で生理になった子がいて、ストレッチしたときに真っ赤なシミが見えたこともありました。男の子たちは「ちょっと……」っていう感じはあったんだけど、私たちは「生理になってるよ」って伝えて。その子の家は学校から近かったから着替えに戻っていましたね。

田中:お話を聞くだけで、日本とは全然違うなと思いますね。僕が小学生のときは、女の子は生理の時期になると、女の子だけ視聴覚室に集められて、動画を観るんです。男の子は「校庭で遊んでなさい」と。終わってから「何のビデオ見てたんだよ?」と聞いても、「それは言えない」というやりとりがあって。

LiLiCo:その話、最近よく聞きます。みんな同じなんですね。

田中:本当に問題だと思います。男の子が動画を見ないだけじゃなくて、逆に言えば、生理は女の子だけの問題で、男の子は考えなくてもいいものだっていうメッセージになっちゃうので。

――田中先生は、大学で学生から相談されることもありますか?

田中:ゼミのような少人数の授業で、「生理がすごく重いので、休んでいいですか?」と僕に言ってきた学生は過去にいます。でも限りなく少ない数なので、それは僕が男性だからなのかもしれない。

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LiLiCo:最初に会ったときに「体調が悪いときも生理でも、何でも言ってね」ってひとこと言うといいのかもしれないですね。

私、この国の一番の問題はコミュニケーション不足だと思うんです。仕事や、結婚や離婚の問題も「言わなくてもわかるでしょ」って。全然わからないから。だから私は夫婦で「何でも言おう」と話しているんですよ。

田中:日本の場合は、性に関わる問題、とくに生殖に関わる問題が、女性まかせにされてきたんですよ。だから男性は育児休業も取らない。男性は仕事に労力をつぎ込める前提になっていたわけで。急に「共働きしましょう」と言っても、男性の育児休業の取得率が全然上がらないのは、そういう背景がありますよね。 

男性だから抱える悩みや葛藤

――田中先生が研究されている「男性学」について、改めて教えていただけますか。

田中:男性学は、男性が男性だから抱える悩みや葛藤を対象にした学問で、日本だと典型的なのは、働きすぎの問題が男性が抱える問題としては大きいですね。

スウェーデンと比べてみると、日本は男女の賃金格差がすごく大きいんですね。スウェーデンは、(所得水準の)男女差が10対9ですけど、日本はまだ10対7。カップルの場合、男が働く方が家計は潤う構造になっているんです。

特に小さい子どもがいる場合、男性が働くほど将来の経済的な不安はなくなるし、相対的に給料が安い女性が、長く育児休業をとったり、復帰した後に時短勤務をしたりする方が、家計にとっては合理的になってしまう。

つまり職場に女性を差別している構造があると、セットで男性は働きすぎにならざるを得ない問題があるんです。

LiLiCo:男性学を研究しようと思ったのは、何歳のときだったんですか?

田中:僕は大学生のときに90年代後半だったんですけども、日本の大学でもジェンダーの授業がだいぶ増えた頃で、ジェンダーについて学ぶ環境があったんです。今も話題を振りまいていますけど、当時は上野千鶴子先生がたくさんご著書を出されていました。他にも社会学者では、江原由美子先生や宮台真司先生の本を読んで、ジェンダーやセクシュアリティについて知識を得ていましたね。

あと90年代はメンズリブ運動というのがあったんですよ。ウーマンリブの男性版で、男性が男性であるがゆえに抱える生きづらさを社会に発信しようという運動で、メンズリブ東京という団体の代表が、ゼミに来て話してくれたこともありました。

でも一番のきっかけは、日本だと、学校を卒業して就職すると40年間働かなきゃいけないという規範がすごく強いんですね。男性は定年まで働くべきって僕はそんなのイヤだと思った。でも誰もその疑問を持たないからそれがすごいなと。男たちに当たり前だと思い込ませた仕組みを研究したいと思って大学院に行くことにしたわけです。

――自治体や企業で講演することもありますか? どんな方が参加されていますか?

田中:ダイバーシティや女性活躍推進の文脈で、男性もこの課題の当事者として考えなきゃいけない、という動きはあるので、企業の研修や、自治体の男女共同参画センターの講演会にはよく呼ばれますね。

自治体の講演会は、やはり時間がある高齢者が多いですが、企業の研修は、男女問わずいろんな世代がいらっしゃいます。基本的には、「考えたことがなかった観点だったから、面白かった」って感想が多いですね。

LiLiCo:上の世代の人は、なかなか男女(格差)の話を認めないところもありますよね。生理の話も「聞きたくもない」って反応されることもあります。

日本は本当に女が下(の立場)に置かれていますよね。日本に来てそういう話を聞いてショックを受けたんですけど、私の周りは理解があったから、(自分自身は)あまり壁にぶつかってないんですよ。逆に今取材を通して知っています。 

世代による、意識の差

――たしかに日本だと、世代によって意識も大きく違いますね。

田中:日本には、もう育っちゃった人の問題があるんですよね。働き方の問題や、コミュニケーション不足の問題も全部そうなんですが。

LiLiCo:そういう人が、電車の中で「おい、そこの女」とか言いますからね。

私すごく忙しい時期に、友人が出演する舞台を観に行きたかったんですよ。なんとかスケジュールを空けて、タクシーに乗って「日生劇場までお願いします」って伝えたら、おじいさんの運転手さんだったんですけど、「女はいいよな。昼間から舞台観てダラダラして。男は働かなきゃいけないから」って。

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思わずLiLiCoスイッチが入って、「すみません。私普段あなたより全然働いてるし、あなたよりたぶん100倍稼げるから、黙ってもらっていいですか?」ってドアを締めました。もちろんお金は払ってね。この国の遅れているところだと思います。でも私は必ず言い返します。

田中:日本だと、女の人が反論してくるだけでたぶんギョッとすると思う。

LiLiCo:そうそう。ギョッとさせたいんですよ(笑)。

田中:LiLiCoさんのように、言い返していった方がいいんでしょうね。

LiLiCo:日本は、誰かが語ると「実は私もそうだった」って言う人が多いですよね。

私は、お母さんと仲が悪くて。もちろん後悔していて、何かできたんじゃないかと思ってるんですけど。お母さんの国に来ているし、強い人だったから尊敬しているけど、やっぱり合わなかったんです。

日本のテレビで最初にそのことを話したら「産んだ人を悪く言っちゃダメだよ」って言われて。「いや悪く言ってるんじゃないし、話聞けよ」って。でもその話をしたことで、テレビや新聞の取材オファーがすごく来たんです。ああ、アイコンみたいな人がいないと、日本人は喋らないんだなと。だから私は今後も言おう、と思いましたね。

田中:性教育もそうなんですけど、みんな責任を取りたくないんです。性教育をした人は、余計なことを教えて若い人がセックスしたらどうするんだ、みたいな叩かれ方をするんですよね。お前の責任で問題が生じたと言われるのが怖いわけですよ。

誰かが言ってくれたら……というのも一緒ですよね。LiLiCoさんが最初に言い出したことだから、乗っかる分は(責任は)問われないから、「実は私もお母さん苦手です」って話ができるんですよ。

LiLiCo:今の話、すごく納得しました。今まで誰も私に教えてくれなかったから。それでいいとは思わないけど、なるほどって勉強になりました。 

社会が変わる前に自分ができること

――そんな社会が、どんなふうに変わっていくといいと思いますか?

LiLiCo:日本だって働き方が9時-5時だったら、家で食卓を囲めるじゃないですか。ちゃんと5時に仕事が終われば、別にわざわざ育休をとらなくても私は正直いいと思う。

でも残業が何なのか、私にとっては謎なんです。仕事の与えすぎなのか、それとも仕事ができないから進まないのか。大きな問題だと思うんですよ。

田中:お金の問題が一因だと思います。先ほども言いましたが、男女の賃金格差が大きいので、男性が多く働いた方が家計が潤ってしまうわけです。あとは、(残業すると)お金が割増で出るんですよ。例えば、家のローンを組むときなどでも、残業代込みで考えている人もいるんですよね。

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LiLiCo:へー! じゃあ余計、育休の話にならない。

田中:9時-5時が仕事の時間とはっきりしているんだったら、逆に育児休業も取れると思うんですよ。コアタイムが10〜12時間になっているから融通が効かない。根本的にそれを当たり前にしないといけないですよね。別に子育てと介護だけの話じゃなくて、5時で帰るのは子どもがいない人にとってもメリットがありますから。

――田中先生は1歳と5歳のお子さんがいます。働き方や時間の使い方は変わりましたか?

田中:変わりました。毎日4時にお迎えで、下の子が育休中で家にいるから(保育も)時短になるんですよ。保育園に預けられる時間が9時4時になるので。今朝も送ってきましたけど、僕が4時に迎えに行く生活なので、いつもギリギリです。仕事もやれることは限られるので、断らざるを得ないものは多いですね。

子ども中心の生活も5年経って、当たり前になりました。家事育児で、妻にばかり負担がかからないようにするのと、大好きな子どもたちどう過ごすか。僕の場合は、子どもが生まれて、自分の過去が肯定できたんです。例えばあのときコンビニに寄って、僕の人生が1秒2秒狂っていたら、この子は生まれてこなかったんだなと思うと、ずいぶん自分の人生を肯定できるようになりましたね。

LiLiCo:What if(もしもここに行かなかったら)だよね。私も純烈のVTRを見て「ヒゲの小田井さんがいいです」って言わなかったら、多分一緒にご飯も行かなかった。私の罠に引っかかった(笑)

田中:まさにそういうことです。やっぱり社会とか組織が変わるのは遅いから、自分の家庭をどうするかってことがすごく重要な気がしますね。自分の家庭をどうするかを、パートナーや家族と話し合えるなら、前に進む気がします。

半径3メートルの雰囲気を変えるコツ

――お話を聞くと、職場も含めて自分の周囲をどうするかが大事なのかなと。どんな心がけをしたら、自分の半径3メートルを変えていけると思いますか?

LiLiCo:こっちがオープンに話せば、変わるんじゃない?

田中:もちろんそうだと思います。

――じつは筆者が以前、LiLiCoさんをインタビューしたときに、取材が終わって腰をあげたら、ソファが真っ赤になっていたことがあって……。

LiLiCo:びっくりした。生理の量にしてはすごくない?って。生理パンツ持ってたから履き古した生理パンツと、持ってたナプキンをあげて。撮影があったからスカートもあげたんですよ。私は衣装のままタクシーでパッと帰る人間なので。

――このスカートをいただいてしまいました。あの場で「これ使う?」ってパンツが出てくることがすごいですよ。本当は頭が真っ白になっていたんですけど、トイレで着替えて5分後には戻ってくることができて。

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LiLiCo:他に2人の女性がいて、ソファもすぐに綺麗になったよね。緑茶でふいたら綺麗になるんじゃないかって、みんなで頭を働かせて。それよりも大丈夫?って。それだけ出血したら倒れちゃうんじゃないかなと思ったら……流産だったんでしょう? 目の前で流産、一生に一度だけの経験ですよ。

田中:ああ…。

――ごく初期の流産だったんですけど、みなさんの気遣いのおかげで、悲しい出来事をポジティブな経験に転換できたんです。オープンに話せる空気や人間関係があることや、自分が今生理じゃなくても差し出せる何かをシェアできるのは大事なことだと思って記事にも書きました。それを社会のスタンダードにしていくためには、どうしたらいいと思いますか? 

田中:オープンさをどう捉えるかだと思うんですけども、コミュニケーション能力が高い人にしかできないとなると、敷居が高くなっちゃいますよね。発話の回数が多い人だけがオープンってことではないと思うんです。

LiLiCo:もちろん。

田中:その場の空気を作れる人もいると思うんですけども、物静かでも、この人には何言っても大丈夫だろうってタイプの人もいる。タイプは違うけど共通しているのは、偏見や先入観を持ってない人だろうなと僕は思うんです。

LiLiCo:私はどんな状況でも客観的に自分を見るんですね。芸能人だからじゃなくて、自分が今まで育った記憶から、20歳のときに何を思っていたとか。今となればバカバカしいことであっても、そのときの自分を恥じないこと。それが客観的に見るということ。

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よく自分は何が嫌だったのか考えるんです。例えば、ホームパーティーに呼ばれたときに、若いときってトイレを借りるのも恥ずかしいじゃないですか。すごく内気だったから「お手洗い借りていいですか?」と言えなくて、1回、友だちの家で漏らしたことがあるんです。だから私はホームパーティのときは、真っ先に「ここがトイレです」って言うんです。

田中:なるほど。

LiLiCo:女の人だったら「生理用品はこの棚に入ってるよ」とか。自分が恥ずかしかったことを先に言おうって。

居酒屋に行くときでも、「靴脱ぐので穴が開いた靴下履いてこないでね」ってLINEに書くと、「ありがとう」って言われます。かっこいい格好してるのに、五本指の靴下を履いてたことがあったから(笑)。自分が嫌だったことをちゃんと覚えておこうって。

田中:それはとてもいい年齢の重ね方だと思うんです。僕は逆に、どうして歳をとった人は、自分が若いときに嫌だったことを覚えてないのかなと不思議に思うことが多くて。

例えば、年配の男性に「若く見えますね」と言うと喜ぶんですよ。自分は若いときにお世辞で言って、おじさんが真に受けていたことを覚えてるんですね。だから、仮に「若いですね」と言われても、気を遣ってくれているんだなってわかるんですけど、たまに「俺が若いのはさ……」みたいに秘訣を語る人、いるじゃないですか。

LiLiCo:ハハハハハ!

田中:若い時に自分がどう思っていたかを覚えていれば、会社でも嫌がらせしないかもしれないですね。上司に言われて嫌だったから自分はやめようとか。

LiLiCo:変わることを恐れないことが大事だと思うんです。例えば、今日先生と話して、いい言葉をいっぱいもらったので、もしかしたら明日、私の言うことが違ってくるかもしれない。たまに「この前言ったことと違うじゃん」って言われることもあるけど、「成長したんだよ!」って思いますもん。

田中:僕がインタビューした事例でも、管理職だった男の人が、(社員に)子どもの運動会や授業参観で休む人が増えた時期があって、最初はなんで子どもの都合で休むんだと違和感しかなかった。でも今はこういう時代だとわかったのと、最終的には「なんで自分は授業参観や運動会に行ってあげなかったんだろう」と思ったそうなんです。 全員が変わるわけじゃないけど、変わる人がいるならば、社会全体が変わっていくのかなって気はしますよね。

生理と性教育、身近な話題を話そう

――生理や性教育のトピックで、何か思い浮かぶことはありますか?

LiLiCo:  #NoBagFoMe プロジェクトに関わって、「夕ごはん時にナプキンのCMをやらないでくれ」ってクレームが来たことがあることを知って。でも男の子だって何のCMか気になるじゃない。そのときに、お母さんやお父さんが話せばいい。「生理があるから生まれてくれるんだよ」とか、命のありがたみを知るといいと思いますね。

エマ・ワトソンさんも「VOGUE」の企画で、バッグの中を見せて、「タンポン入ってますよ。いつなるかわからないから」って言っていましたね。

――田中先生は、性教育についてパートナーとお話されますか? 

田中:子どもの性教育については、清田さんとシオリーヌさんが鼎談していた村瀬幸浩先生が登場する『おうち性教育はじめます』ってコミックエッセイがあって。それを読んで、子どもにちゃんと話そうと、例えば、おっぱいとおちんちんとお尻は他人に触らせちゃいけないとか、そういう話し合いはしましたね。

うちの子どもは、ある時期に睾丸が気になっていたんです。それで「ここに子どもの素が入ってるんだよ」と教えたら、息子は「じゃあ、子どもは2人産まれるんだね」って(笑)。

LiLiCo:可愛い。

田中:睾丸がふたつあるから2人だと思ったみたいです。彼なりに理解したんです。保育園の年中ならそれで十分。また興味持ったときに、その年齢に合わせた話をしてあげればいいなと思いますね。

LiLiCo:今日は生理がテーマだったけど、生理の話だけじゃなかった。ちょっと脱線したところもあると思うんですけど、こういうところから考えないと、生理の話もオープンにできないですよね。全部つながっていると思います。

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