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「生理の血は汚物じゃない」正しい知識を身に付けることが生きやすい社会に繋がる

#NoBagForMe PROJECTが掲げているキャッチコピーは、「話そう、知ろう。生理のこと」。生理や自分自身のカラダのことを、気兼ねなく話せる環境づくりのためには何をすればいいのでしょうか? そのためにはまず、学校や親から学んだ性についての固定観念、価値観を見つめ直す必要があるかもしれません。

今回は、#NoBagForMeのメンバーであるシオリーヌさん(助産師/性教育YouTuber)、清田隆之さん(恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表)のお二人に加えて、性教育の第一人者・村瀬幸浩先生をゲストとしてお迎え。さまざまなアプローチで活動しているお三方に、現代の性の在り方や課題についてお話しいただきました。

(構成:いちじく舞 編集:高野かや 写真:高山諒 聞き手:村山佳奈女 協力:小杉湯となり)

性教育は人権教育。『おうち性教育はじめます』を読んでみて

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性に対する素朴な疑問への答えから、性犯罪の被害者・加害者にならないための言葉かけ、思春期に訪れる男女の心と体の変化まで、親子で一緒に学べる「おうち性教育はじめます」

著者 村瀬 幸浩
東京教育大学を卒業後、保健体育科教諭を25年間務める。その後、25年ほど一橋大学、津田塾大学、東京女子大学の非常勤講師としてジェンダーフリー、や女性学、男性学などをテーマに教鞭をとる。

――村瀬先生とフクチマミさんの共著『おうち性教育はじめます』が話題です。清田さんやシオリーヌさんはどのような感想を持たれましたか?

シオリーヌ 日本では触れづらい、性犯罪や人権教育など、幅広いトピックスをポップに読みやすく書籍に落とし込むことは可能なんだなと思いました。

清田 「事実」と「価値観」を分けて徹底的に語っていく姿勢がとにかく印象的でした。科学的な知識や物理的な現象など、まずは事実を事実として教え、そこに良し悪しなどの価値判断を入れ込まない。そういう姿勢を目の当たりにし、基礎的な知識を身につけた上で自分の価値観を育んでいく、というのが教育なのだと学びました。自分の身体の仕組みを理解することで自分を大切にできるし、そうすれば目の前の他者も大事にできるかもしれない。僕自身もジェンダーを学び、それに関わる発信をしていく中で、性教育とは人権教育とイコールであることを痛感しました。なので、わかりやすい性と人権の本をつくっていただけたことはありがたく思っています。先生の耕してくれた道をさらに広げていかねば!という気持ちですね(笑)

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▲膝痛をお持ちの村瀬先生は、椅子に座られての参加

村瀬 思い込みや偏見ではなく、性を科学的に学ぶことを軸にすすめる考え方を、性教育を始めた46年前から変えずにやってきたという自負が、僕にはありますね。この本を出して嬉しかったのは、女性ばかりでなく男性からの反応があったこと。今まで行ってきた性教育の講演では男性が少なかった。なので一橋大学で男子学生に性教育を教えたのは僕にとって大きな喜びでしたね。僕自身が男子校出身で女性の性についてまともに理解していなかったから。

清田 僕も中高6年間を男子校で過ごし、特に20代までは女性の性について何も知らなかったように思います。お恥ずかしい話、少しずつ知識が身に付いてきたのは、30代でジェンダーに興味を持つようになってからのことでして……。

シオリーヌ 男性は、学校で性教育を十分に受けられないまま大人になると、自分自身で興味を持って学ばない限り女性の性を理解するのは難しいですよね。

妻との不和を解消するため「僕は生理のことがわからないんだ」と切り出した

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――村瀬先生ご自身が、性教育に興味を持ったきっかけは何だったのでしょう。

村瀬 妻との関係ですね。一緒に暮らしだしてはじめて妻が生理痛の重いタイプの女性だということがわかった。仕事を早退したり、しばらく横になっていたりする姿を見て大変そうだなと思っていました。でも、果たしてそんなに辛いものなのか? と疑問を持つこともあった。女性の性に無理解で、月経の辛い時期にうまくいたわることもできませんでした。一方で、戦争で父親を亡くし、母親と二人暮らしだった妻も男性の性の心理や特徴に対して無知だったんです。そんな妻に対して腹が立つこともありました。恋愛中には経験しなかったお互いの性に関する認識のズレが生じる日々が続いたんです。その状況をなんとかしたいと思った。

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――その状況をどうやって解決に導いたのですか?

村瀬 妻に「僕は月経のことがよく分からないんだよ。月経のとき、どんな気持ちなのか、状況も含めて教えてほしい」とお願いしたんです。生理の本も買ってきて「ここにはこう書いてあるけど、実際はどう?」と聞いたりしながら。そうやって理解を深めていくと、今まで嫌な思いをさせてしまったんだなという反省が僕の中に生まれてきました。すると妻からも「私も男性の性について勉強したことがない」と打ち明けられて、お互いの性のことについて勉強し始めたんです。

パートナーと生理事情を共有するための関係づくり

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――相互理解を深めるためには、対話が必要ですよね。清田さんとシオリーヌさんは、パートナーの方とどのようにお話しされてますか? 差し支えのない範囲で教えてください。

清田 今結婚しているパートナーと同棲していた頃、2〜3ヶ月に1回くらいのペースで彼女が謎に帰宅しない日があって。その日は朝から全然口を聞いてくれないんですね。たまに訪れるあれは何なんだろう、と思ってチャンスを伺いながら「何か悪いことした?」と聞いてみたんです。そしたら彼女はPMSの症状が重くて、生理がきたら人との交流を遮断したくなる体質だと話してくれて。そこで初めて月経前症候群(PMS)という症状があることを知りました。それからは自分で「ルナルナ」のアプリを入れて彼女の生理周期を共有し、彼女の要望をくんだコミュニケーションを意識するようになりました。彼女とは出会った頃からジェンダーに関する話をずっとしていたので、それが話し合いやすさにつながっていたと思います。

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シオリーヌ  パートナーが自分の生理のタイミングを把握してくれているのはいいですよね。私の今のパートナーは付き合う前から私のYouTubeチャンネルを見ていたんです。だから、普段から生理についてはオープンに話していますね。私が4ヶ月に1回だけ生理がくる連続内服のピルを飲んでいることも知っているので、「どうしてそうなるの?次はいつくるの?」と質問されたり。私の「次に生理がきたら吸収ショーツの動画を撮る!」というツイートを見て「Twitterで妻の生理の時期を知る時代になったんだね」とも言われました(笑)

清田 すごい(笑)

村瀬 性に対して無知無理解な状態のままでパートナーと心地よく暮らしていくことは難しいですよね。本能だけで自然に異性の性や心のあり様などは分からないのですから。

民間の活動や声が社会を包囲して変えていく

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シオリーヌ 今になって、女性側からも理解してもらおうと歩み寄ることが大事だと分かるんですが、過去を振り返るとそういう努力ができない時期もありました。むしろ学生時代は男子に見つからないようにナプキンを袖に隠しながら受け渡したりして、理解されないための工夫をしてしまっていたり。

村瀬 性に対して不浄観や不潔感を抱く風潮は女性蔑視の宗教の影響もあって深い問題ですよね。例えば今はないと思いますが、トイレの個室にあるゴミ箱を長い間、「汚物入れ」と言ったり、生理の血がつくと「汚れてしまった」という表現を使ったり。そもそも月経の時の出血は子宮内膜が剥がれた際に伴うもの。子宮内膜にばい菌があるわけじゃない。ただ、親や学校から生理や出血に対して不潔だと教えられ続ければ、子どもがそういう意識を持ってしまうのも無理はないですよね。

シオリーヌ 性教育をしっかりすすめるには世論を変えて、文科省が動かざるをえない状況をつくるしかないですね。

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清田 そうですよね。僕の『さよなら、俺たち』という本の中に生理をテーマにしたエッセイが収録されているんですが、そこで脳性麻痺の身体を持ち、「当事者研究」という分野を切り開いている熊谷晋一郎さんの言葉を紹介しているんですね。それは「個人モデル」と「社会モデル」という話で、「障害を持つ個人のほうが社会に合わせて変わるべきだ」と考えるのが個人モデルで、「多様な人たちを包摂するよう社会のほうが変わるべきだ」と考えるのが社会モデルだというわけです。生理の問題にもこれと通じるものを感じていて、環境や制度設計の不備によって女性に不利や苦しみが生じているはずなのに、なぜか女性が自己責任で乗り越えるべしという自己責任論になっていて、それはあまりにディストピアすぎるなって。そこは社会モデル的に考えていくべき問題だと思っています。

村瀬 政治のあり方が変われば、教育や女性の人権問題の扱いなどガラッと変わっていく可能性があるけど、なかなか難しいかもしれませんね。文科省の中に性教育や女性の人権を専門的に取り組んでいる人っているのかな。

シオリーヌ ……ぴえん! ですね。先生、ぴえんって知ってますか?

村瀬 え? なんですか?

シオリーヌ 悲しいことがあったときに使うんです(笑)

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村瀬 初めて聞きました(笑)でも、だからこそ清田さんやシオリーヌさんのような民間の方達の活動や運動が必要になってくるんだと思います。民間の声や運動が社会を包囲して変えていく。そういう声を教育の問題とリンクさせていけたらいいですよね。

性教育のベースは多様性、科学性、関係性。学ぶことで変わる、変わることで幸せになる

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清田 まさにシオリーヌさんはそういう活動の一環として、子ども達が普段から何気なく接しているYouTubeというメディアで性教育の問題を発信してますよね。活動を続けて効果を感じることはありますか?

シオリーヌ YouTubeは去年から始めたんですが、めちゃめちゃ見てもらえてるなと感じますね。やっぱり子ども達は情報を欲しているな、と実感します。視聴者は中高生が多いんですが、「これを学校で知りたかった」なんていうコメントも多いですね。最近私の動画が学校の授業の中で使われていると聞いたときは嬉しかったです。

村瀬 何の時間で流しているんですか? 

シオリーヌ 比較的自由に時間が使える学活や総合の時間に流しているようです。学校の先生達も性教育の必要性は分かっているんですが言葉選びや表現方法に悩んでいるみたいですね。

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村瀬 僕が性教育をする上で考え方のベースにしているのは、多様性、科学性、関係性です。人はひとりひとり多様であることを理解した上で、科学的な根拠のある情報を持ち、相手との関係づくりに取り組んでいく。そうすることで男性や社会も変わっていくと思いますよ。実際に性教育に何年も取り組んできて、意識が変わった男性を何人も知っています。60代の医者の方で「自分がやってきたことはなんだったんだ」と涙を流していた。「今まで女性の性を理解せず妻に無碍な態度をとっていた」と、悔いておられました。初めは難しいことに感じるかもしれないけど、学ぶことで変わるし、変わることで幸せになっていけるんです。

シオリーヌ 希望のある話。そうやって今のヘルジャパンをヘルシージャパンに変えていきたいですね。

まとめ▼
大人になっても、自分の身体に起きている生理や性について理解していないことはまだまだあるのかもしれません。村瀬先生の「学ぶことで変わる。変わることで幸せになる」の言葉にもあったように、まず正しい知識を身につけることで、自分や他者を大切にできる人権尊重の力がつくではないでしょうか。

著書「さよなら、俺たち」清田 隆之(桃山商事)
#NoBagForMe   公式サイト
https://www.sofy.jp/ja/campaign/nobagforme.html

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