見出し画像

[無料記事] Glassdoorの投稿に見る「Amazonの面接では何が訊かれるのか」-1:ソリューションアーキテクト職

前回に続いてソリューションアーキテクト職でAmazonの面接を受けて、オファーをもらったけど蹴った学生による投稿の細部を見ていきます。

前回の記事は上から。

面接の内容を検討する前にまず、ソリューションアーキテクトに求められていることは何なのか、Amazonが掲載しているJD(職務記述書)を見てみましょう。

AWSのソリューションアーキテクト職JD

上は、amazon.jobs で"solutions architect"で検索して出てきた募集中ポジションの中から、先ほどの面接を受けた学生と同じ条件に揃えるため、ニューヨークオフィスで、かつタイトルに"シニア(上級)"が付かない、経験年数5年未満向けと思われるものをピックアップしました。

ソリューションアーキテクト職種概要

まずJDの概要部分を訳してみます(DeepLを使い細部を微修正しています)。

アマゾン ウェブ サービス(AWS)では、深い技術的素養と強力な対人スキルのユニークなバランスを備えた、経験豊富で意欲的な技術者を募集しています。

私たちは、世界最大級の企業顧客と仕事をする、エンタープライズソリューションアーキテクトを募集しています。

ソリューションアーキテクトは、お客様のビジネスドライバーを理解し、アプリケーションポートフォリオを評価し、信頼性とコスト効果の高いクラウドネイティブアーキテクチャを設計するために、お客様と関わりを持ちます。

エンタープライズソリューションアーキテクトとして、お客様、AWSセールス、その他のAWSチームと連携し、お客様のビジネス上の問題を解決するソリューションを作成し、AWSサービスの導入を促進します。また、営業と連携し、幅広い顧客層への売上拡大を推進します。

https://www.amazon.jobs/

ここから分かることは以下です。

  • 技術的な素養が必要であること

  • 顧客と対面する仕事であること

  • 顧客は中小企業ではなく、大企業(エンタープライズ)であること

  • 売上に(多少なりとも)責任を持つこと

続いてポジション概要の詳細部分を見ていきましょう。

ソフトウェア/テクノロジーのセールスまたはコンサルティングの実績があり、自発的に行動できる方が理想的です。また、ビジネス、製品、技術的な課題に対して戦略的に考える能力をお持ちの方です。

私たちは、テクノロジーとビジネスの接点で活躍できる方を求めています。ソリューションアーキテクトは非常に技術的な役割であり、技術の多くの分野(インフラ、セキュリティ、DevOps、データベース、アプリケーション開発、分析)で幅広い能力を持ち、そのうちの少なくとも2つの分野で深い知識を持つ必要があります。

ビジネス面では、テクノロジーを測定可能なビジネス価値に結びつける能力が、ソリューションアーキテクトには欠かせません。

ソリューションアーキテクトは、一日の大半をお客様内部のステークホルダーである開発者、チームリーダー、エンジニアリングディレクター、CxOなどとの対話に費やします。

https://www.amazon.jobs/

ここでは「テクノロジーとビジネスの接点で活躍できる」ことが求められています。時に曖昧模糊としたクライアントの問題を言語化してあげ、その問題に対し自社製品を組み合わせて解決策定を提示する、といった役割が求められるポジションです。

最後のパラグラフにあるように、社内の人間よりもクライアントとのコミュニケーションの方が圧倒的に多いことが示唆されています。

外資ITに勤めた経験があれば皆知っていますが、大企業向けのソフトウェア営業にはドアノック、人脈作り、課題解決、価格交渉とクロージングなどさまざまなファンクションがあります。

人によって人脈作りが好きな人(顧客の社内政治にやたら詳しくなるような人)もいれば、ひたすら課題と解決策にフォーカスしたい人もいます。人によって得手不得手は異なるため、自分の得意な領域に集中して高いパフォーマンスを発揮できるよう、職種は細分化されています。

人脈そのものを作る作業は通常アカウントエグゼクティブ職によって担われます。

ソリューションアーキテクトは、開拓された相手企業の人脈との深い対話を通じて真のビジネス上の課題を炙り出し、自社製品のポートフォリオを組み合わせて解決策を創造するクリエイティビティが求められます。

適正と応募資質

続いて適正と応募資質(required qualifications)を見ていきます。資質といっても大それたものではなく、単に「こういう人に来てほしいです」という希望程度のものと考えれば十分です。

その他、私たちが求めている資質をご紹介します。

  • 一緒に仕事をするのが楽しくて仕方がない人。AWSの信条は「一生懸命働くこと。楽しく働こう。歴史を作ろう。 」という信条があります。この役割において、あなたは自分の仕事を愛し、仕事を楽しくする方法を直感的に知ります。あなたはダイナミックでクリエイティブ、そして大きなインパクトを与えるためにどんなチャレンジも厭いません。

  • 企業顧客との仕事を楽しめる方。多様で困難な要件を抱える企業顧客に対して、クラウドソリューションを教育、トレーニング、設計、構築することに情熱を持って取り組みます。

  • 大規模なコンピューティング・ソリューションに対する強い理解を持っていること。システムエンジニアやサポートエンジニアとしての経験、プリセールスの経験をお持ちの方が理想的です。

  • 既存のテクニカルスキルに磨きをかけ、新しいスキルを身につけ、深いアーキテクチャの議論に強力に貢献することを楽しめる方。

  • AWS上に世界最高水準のソリューションを構築するために、定期的に深く掘り下げる教育セッションや設計演習に参加します。


  • https://www.amazon.jobs/

    要は「前向きである」「対人コミュニケーションが円滑にできる」「上昇志向があり自己研鑽を怠らない」といった一般的な属性が、この職種およびAWSという文脈に沿って簡潔に言語化されています。

    担う役割と責任

    続いて本職種の役割と責任(roles and responsibilities)を見ていきます。"R and R"などとも略されます。


    役割と責任
    - 営業チームと連携し、AWS導入による売上目標を上回るための営業戦略を策定・実行する。
    - ビジネス開発およびセールスチームの主要メンバーとして、AWSプラットフォーム上でのアプリケーション、ソフトウェア、サービスの構築および移行を成功させる。
    - AWSの価値提案についてあらゆる規模の顧客を教育し、深いアーキテクチャの議論に参加し、ソリューションがクラウドへの移行を成功させるように設計されていることを確認する。
    - 1対少数、1対多数のトレーニングセッションを実施し、AWSの使用を検討している、または既に使用しているお客様に知識を伝達する。
    - AWSソリューションアーキテクトコミュニティにおけるベストプラクティスのナレッジを収集し、共有する。
    - ホワイトペーパーやブログ投稿など、AWSの顧客向け出版物への執筆や貢献。
    - 顧客内のシニア技術者と深い関係を構築し、クラウドの支持者になることを確実にする。
    - 顧客、AWS社内サービスエンジニアリングチーム、AWS社内サポート間の技術的な調整係として活動する。
    - 米国内での出張(勤務時間の最大25%)を受け入れる。

    https://www.amazon.jobs/

    求められる責任は広範に及びます。

    「売上目標を上回る」が先頭に来ています。四半期ボーナスで売上連動型報酬の割合が多いことを示唆しています。

    最も重要な仕事はオンプレや競合クラウド(AzureやGCP)からの移行を設計・実行の支援です。これを実行するために社内で類似事例や成功例の情報を収集し、その情報を元に顧客を教育し、顧客の技術リーダーをAWSのファンにすることが求められます。

    顧客の質問や要望によっては、営業部隊だけで解決(回答)できないものも多く出てきます。その際は、(顧客と直接対面しない)社内のサポートチームから回答を得たり、必要に応じて製品を開発するエンジニアに連絡を取って仕様や挙動を確認します。

    既存の機能で対応できないものについてはカスタマイズの要望を挙げたりします。単にカスタム要望を挙げるだけでは優先度やROIが分からないため、顧客や想定される案件の規模から売上インパクトを算出することも求められます。

    またこれらの業務の一環でホワイトペーパーの執筆など、マーケティング作業にも従事することがあるようです。

    応募条件

    さて、どのような経験を持った人が望まれるのでしょうか。予め期待値を明確するために、応募条件も詳細に記載されます。

    ただし、一般論として応募条件は「雇用主が考える理想像」なので、明確に全てを満たしていなくても問題ありません。半分程度あるいはそれ以下しか満たしていなくてもオファーを得られる候補者はありふれています。

    - 2年以上のアプリケーションまたはインフラストラクチャの設計、実装、またはコンサルティングの経験
    - 特定の技術領域(ソフトウェア開発、クラウドコンピューティング、システムエンジニアリング、インフラ、セキュリティ、ネットワーキング、データ&アナリティクスなど)において4年以上の実務経験
    - 3年以上の分散型アプリケーションまたはシステムアーキテクチャの設計、実装、またはコンサルティングの経験
    - インフラストラクチャ・アーキテクチャ、データベース・アーキテクチャ、ネットワーキングに関する3年以上の経験
    - ソフトウェア開発ツールおよび方法論に関する実務的な知識
    - 優れたコミュニケーション能力、プレゼンテーション能力

    https://www.amazon.jobs/

    応募条件は技術的な経験に重点が置かれています。「大規模顧客の案件獲得経験」「売上予算をX期中Y期満たした経験」のようなよりフロント営業よりの要件は、ここでは触れられていません。

    技術素養は即戦力が求められる一方、営業の能力は社内でのトレーニングプログラムなどで補われるのでしょう。

    実際にこういったビッグテック各社の社内研修は非常に充実しています。日本ではまだまだ認知が不足していますが、アメリカでは「営業は練習して伸ばせる能力である」ということが広く理解されており、そのためのトレーニングプログラムも数多く存在しています。

    あればなおよし条件

    最後に「あればなおよし条件」が付けられています。個人的な経験から言えば、こういった高望み条件をすべて満たして応募してくる人はそうそういません。

    ただ、どういった能力や経験が理想像とされているのかを知るための参考にはなります。

    -技術系学位、コンピュータサイエンスまたは数学の学位が望ましい
    - 3年以上の技術/ソフトウェア営業、プリセールス、またはコンサルティングの経
    - AWSソリューションアーキテクトアソシエイトなど、AWSの資格を1つ以上取得していること
    - プリセールスや企業顧客との協働の経験
    - AWS上に構築されたソリューションの設計/運用経験
    - 出版物や講演を通じてのソートリーダーシップの実証

    https://www.amazon.jobs/

    コンピュータサイエンスや数学の学位を取った人の多くは開発者(ソフトウェアエンジニア)を目指します。ソリューションコンサルタントは営業職なので、必ずしもこれらの分野を専攻した人がその職に就いていないケースも多くあります。

    ソートリーダーシップ(thought leadership)は、経営者やマーケター、プロダクトマネジメントにおいては重要なスキルとされていますが、一営業部員にそれを有形の経験(出版物や講演実績)として求めるのは高望みかな、という気もします。

    次回は実際に面接で何を訊かれるのか、Glassdoorの投稿を具体的に見ていきます。

    この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?