見出し画像

【映画感想】まなみ100%

※ネタバレ注意※

 良い意味で予想を裏切ってくれる映画だった。序盤は感情移入しにくい主人公の”ボク”に当惑させられながらも、観ている内に、そして観終わってからもじわじわと湧き上がってくる感情に……響いちゃったなぁ。

 男女で感想というか評価が分かれる映画かも?とは思う。それはやっぱり主人公であるボク目線で話が進んでいき、このボクは万人に愛される好青年では決してないから。まなみちゃんに幾度となくプロポーズしながらも、他の女の子にもふらふら愛を振りまき、まなみちゃんへの想いすら本心なのか分からない。平凡を嫌い、自分が特別だと思い込み、青い鳥を追いかけるが如く生きていく。
 
 そう、男は誰にでもこんな時期があるのではないだろうか。いや、今も心のどこかに、こんなボクが棲み続けている大人は多いはずだ。だから、ボクに共感してしまい、物語に引き込まれていく。この物語は川北監督の経験から生まれた自伝的ストーリーということで、ボクの人生には特別な何かが起こるわけではない。誰にでも訪れる出逢い、青春、友情、恋愛、別れ…そんな人生の1ページをめくる様に描かれていく。どれも世界にとってはささいな、でも自分にとっては世紀の大事件を、誰にも理解されないかもしれない不器用な走り方で駆け抜ける。大袈裟に言ってしまえば、どんな人の人生だって映画に出来るくらいの濃密さはきっとある。ただ、それをこのような鮮度で(まさしく真空パックした思い出を開封したように)映画化したことは素晴らしいなと思った。

 あと主演の青木柚くんはやっぱり良い役者さんだ。いつも陰のある役が多くて、それこそモアザンワーズの槙雄とかハマり役だったと思うけど、こういった明るいキャラを演じると、明るさの中に独特な陰影が宿って、人物に奥行が生まれていた。こういったキャラを今後も観てみたい。ヒロインまなみちゃん役を演じた中村守里さんも良かったけど、瀬尾先輩役の伊藤万理華さんには見入ってしまった。もう本当に瀬尾先輩ってこんな先輩なんだろうなっていうのが、当然会ったこともないのに、ありありと想像できてしまって。『サマーフィルムに乗って』は見逃してしまっていたから、見なきゃなぁと。

 まなみちゃんはボクの知らない誰かと結婚して、知らない誰かと人生を歩いていく。ボクの人生とは、きっと、もう交わらない。でも、ボクの人生もまなみちゃんの人生も、これから先も続いていく。ボクはまなみちゃんをふとした瞬間に思い出したり、忘れたりしながら、やっぱり好きだなんて思ったりして。まなみちゃんもそうだといいけど、そんなことは絶対ないんだろうなぁなんて。いや、でも、もしかしたら。
 
 そんな人がいる人生って切ないように思えて、実はすごく幸せなのかもね。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?