第八章 傷⑧
「ちょっと、何々?」
典子が、ニヤニヤしながら身を乗り出してくる。
「一哉と……付き合ったっていうか何ていうか……」
「え?!あのホストの?!」
「うん」
「マジか!すごおい、やっぱ梨紗!あの一哉とねえ……ほお……」
うんうんと頷きながら、感心しているような顔をする典子。
「典子、服!典子の店に買いに行くわ♪」
「うわあ、マジ最悪。とうとうあたし一人かあ」
恋バナは久しぶりだ。
けれども、あたしばかりが浮いた話でフワフワとしている状況ではない。
鈴。
「ねえ、典子。鈴、あのクラブ結構行ってるのかな?」
「どうだろ。充がよく行ってるから、鈴も行ってるかもね」
「……」
行かなくては。
行かなくちゃ。
鈴に逢いに。
今度こそ、友達の一人くらい助けなくちゃ!
あたしは、あのクラブへと一人やってきた。
ポール&ジョーに。
今日は木曜日だから、お客さんは少ないし鈴もいないかもしれない。
大音量の中、ラウンジへと階段を上がっていく。
「やっぱりいない……か」
ラウンジには、鈴と充の姿はない。
フロアへの階段を引き返そうと思い、フロアを見渡すと……。
「あ!」
鈴と充を発見!
「鈴!」
あたしは、走って鈴の元へと向かう。
「梨紗?!どしたの?」
「梨紗……」
「充、鈴……今日、撮影何で来なかったの?」
「何、それ聞く為にわざわざ逢いに来てくれたん?」
「うん……」
やっぱりラリッてるわ、鈴。
鈴の瞳は、あたしと会話をしながらもあたしを捉えてはいない。
あたしは、確信した。
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