【番外編】駐日ロシア大使へのインタビュー全文起こし(22/2/23)
現在大変な状況になっているウクライナ情勢。
駐日ロシア大使が語ったインタビュー動画がテレ東BIZさんより出されています。このインタビューに答えているミハイル・ガルージン 駐日ロシア大使は大変日本語がお上手なのですが、それでもやはり日本語を母国語とする私からすると、内容があまり頭に入ってきませんでした。
大事な情報だと思いますので、なるべく原文に忠実に、ただ日本語的におかしいところは一部、私の方で修正を入れさせていただきました。
内容に不備や誤植などあれば教えていただければと思います。
ここで私の考えを述べるつもりはありませんが、一次情報に近い内容、かつ日本語で語っている貴重な情報かと思いますので、全文起こしをしました。
活字を好まれる方は、是非ご活用ください。
インタビュー全文起こし
大江 麻里子 アナ(以下、大江アナ):
プーチン大統領は、ウクライナ東部の新ロシア派地域の独立を承認し、それと同時にその地域に平和維持という名目でロシア軍を派遣するようにという指示を出しています。
これに対して、国際社会は「明らかな国際法違反だ」と非難をしていますが、実際ある国にその国の承認なしに軍隊を派遣する行為というのは、侵攻もしくは侵略ではないんですか?
ミハイル・ガルージン 駐日ロシア大使(以下、ミハイル駐日ロシア大使):
侵攻でも侵略でもないと思います。
昨日、プーチン大統領はルガンスク共和国とドネツク共和国と協力友好相互支援に関する条約にサインしましたが、その前にその2つの共和国を主権独立国家として承認する大統領令にサインしています。
その大統領令にサインした上で、条約もこの2つの共和国の首長とサインしました。
その条約の然るべき条項によると、お互いに防衛協力し、お互いに軍事基地を建設し、お互いに使用する権利を持つ、ということが明記されています。
すでにロシア軍が入り始めているという報道もありますが、それはあくまでも条約に基づいて、主権国家としての協力の一環であると思っております。
そして(質問の先走りをしているかもしれませんが)昨日起きたことの意味・意義を正しく認識・理解するために、昨日までの経緯をよく研究・分析しなければならないと思っております。
ただ単に昨日の出来事だけで、あたかもロシアが正しくないことをしていると決めつけるのは、十分正しいアプローチではないと思います。
滝田 洋一 解説キャスター(以下、滝田キャスター):
東部の2つの独立した国にロシアが兵を送ることになったが、国際社会が一番注目してるのは、兵を送る対象がこの2つの州ないし国に留まるのか。
ウクライナの政府がやっていることは正当ではないからウクライナ全体に対しても介入することをお考えなのか。
そこのところが一番皆さん知りたいと思ってるポイントだと思います。そこを教えていただけますか。
ミハイル駐日ロシア大使:
後者に答えると、それはないということをはっきり言いたいと思います。
大江アナ:
ないですか?
ミハイル駐日ロシア大使:
はい。
しかし昨日発生したことを正しく理解するために、過去についてまた一言申し上げます。
2回の失敗の後(ウクライナ軍が武力制圧に失敗した後)、この地域におけるウクライナの国内の紛争を収拾するためにミンスク合意が結ばれました。
ミンスク合意の当事者は、キエフ政府とドネツクとルガンスクの3つの政府でした。ロシアとOSCE(欧州安保協力機構)が保証国でした。
そしてノルマンディフォーマット、つまりロシア・ドイツ・フランス・ウクライナはミンスク合意の実施を管理するメカニズムとして創設されたわけです。
マスコミはよく間違いを犯しています。ノルマンディーフォーマットはあたかもドイツ・フランスの仲介でロシアとウクライナとの間の対話が行われていると報道されていますが、それは全く不正確な解釈です。
ノルマンディーフォーマットはミンスク合意の実施を管理するメカニズムです。そしてミンスク合意の中核部分は、キエフ政府とドネツクとルガンスクとの直接対話でした。
その直接対話の中でいろんなことについて、お互いにウクライナ国内でどう共存すればいいかということを決めてもらうという目的でした。
その中で、恩赦、捕虜の交換、さらにウクライナ憲法で確認されているドネツクとルガンスクの特別地位、さらにドネツクとルガンスクにおいてOSCEの管理下で選挙を行う、そしてその選挙は正当に行われたということをOSCEが承認した時点で、
ロシアとウクライナとの間の国境に対する管理をキエフ政府がもらうという仕組みでした。
割と複雑な枠組みでしたが、その合意文書をちょうど7年前(2015年2月17日)国連安保理が承認しました。
それにより、ミンスク合意が国際法の一部となりました。
国際安全保障と安定に特別の責任を持つ国連安保理が、国連憲章上の権限に従ってそれを承認したからです。
しかし簡単に言えば、それ以降の7年間にわたり、キエフ政府がミンスク合意の履行を拒んできました。
結局ミンスク合意の履行を拒みながら、先週末3回目の武力制圧を試みたんです。
そしてその7年間にわたり、このドネツクとルガンスクで何が起きていたかというと、ジェノサイド(集団殺戮)です。
OSCEの統計データによると、ここ7年間でウクライナ軍の砲撃によって5,000人の一般市民が亡くなりました。
その中には90人の子供が含まれています。さらに8,000人が負傷しました。1,600人が身体障がい者になりました。
それは明らかにジェノサイドです。
そしてウクライナ政府が、ジェノサイド政策を行いながらミンスク合意の履行を拒んだ以上、ロシアはもう交渉解決ができないということを認識し、大統領令で2つの共和国の独立と主権を認めた上で、両共和国と友好相互支援条約に署名しました。そういう経緯です。
事実上、ロシアは最後の最後までウクライナの領土の一体性を維持するよう努めてきました。
しかしウクライナの政府自体が自国の主権と領土一体性に全く配慮していませんでした。残念ながら。
そういう本当に不思議な事実ではありますが、いずれにしても事実です。
滝田キャスター:
分かりました。
ということは、一言で言うと、ミンスク合意はもう死んでしまった。要するに機能しなくなった、存在しなくなったという理解でよろしいんでしょうか?
ミハイル駐日ロシア大使:
キエフ政府はミンスク合意を履行することを完全に拒否した、ということは正しい理解です。
そのために起きたことを私は先に詳しく説明しました。
大江アナ:
ウクライナがミンスク合意の履行をしない状況なので、ロシアが救いの手を差し伸べたという考え方ということですか?
ミハイル駐日ロシア大使:
救いの手を差し伸べたという言い方は正しいです。
つまりドネツクとルガンスクの国民は、ウクライナ政府、ウクライナ軍によるジェノサイドを受けたわけです。虐待を受けたわけです。
ウクライナ政府がああいう形でミンスク合意の履行を拒否したので、我々は救いの手を差し伸べて両共和国を主権独立国家と認めて、その共和国と国際法の規定に従って条約を結びました。
大江アナ:
国際社会から軍を送るという行為が侵攻と見なされた場合、経済制裁を受ける可能性が高いです。
そうなった時に、ロシア経済は耐えられるものなんでしょうか?
もうすでにロシアの株価急落していますし、通貨のルーブルも下落しているという状況です。耐えられるんでしょうか?
ミハイル駐日ロシア大使:
まず一つ議論したい言葉があります。"国際社会"という言葉。
外交を全く忘れ、いかなる問題に関しても、自分の意見と違う意見を出されるとすぐ制裁を発動するのは、それは国際社会ではなくて、国際社会のごく一部である少数の国々です。
ですから、ジャーナリストの皆さんが"国際社会"という言葉を気軽にお使いにならないようお願いしたいと思います。
経済制裁についていうと、ロシアは何度も経済制裁を発動されています。
歴代のアメリカ大統領の中には、ロシア経済を制裁でボロボロにするという、乱暴な発言をした人間もいました。今その人間は過去の人間となりましたが。
しかしロシア経済は大丈夫でした。経済制裁というものは楽しいことではないけれども、
同時に経済制裁というものは発動された側と発動した側両方にほとんど等しく影響を与えています。
もう一つ大事なポイントは、そもそもなぜ制裁が発動されたか、少なくとも発動する国々の発言からすると、ロシアの外交政策、防衛政策を変えるためです。
例えば2014年にクリミアとの再統合の際に発動された制裁で、ロシアの外交政策が変わりましたか?
一切変わっていません。
ですから、制裁はそもそも無意味です。(非合法的では、もちろん)いくら制裁を発動されても、ロシアの政策が変わっていないからです。今回もそうなります。
大江アナ:
中国とロシアの関係というのも、気になっています。結局、天然ガスを西ヨーロッパに供給することがロシアとしてできなくなったとしても、ロシアと中国の首脳会談での合意もありますから、
中国に天然ガスを持っていけるという意図もあって、中国の後ろ盾があるから大胆な行動ができるのではないか、こういう見方もありますが、どうなんでしょう。
ミハイル駐日ロシア大使:
それは単純な見方です。
まずロシアは、大江さんが国際社会というG7と違って、一度も自分が輸出している天然ガス(LNG)、原油の供給を切ったことはありません。
ウクライナが、前にウクライナを経由しているロシアのパイプラインからガスを盗んだ例はいっぱいあります。
そしてウクライナがガスを盗んだから西欧の消費者が損害を受けた、そういう例が過去に山ほどあるんです。
しかしロシアは、一度も自分が輸出しているガスなどのエネルギー資源の供給を止めたことはありません。
我々は欧州の皆さんが十分賢明だと考えており、ロシアとヨーロッパの間のエネルギー資源に関する協力が途絶えることがないと思っています。
例えばNATOとEUのメンバーの一つであるハンガリーは、つい先ほどロシアとの天然ガスの供給について15年間の長期契約を結びました。
ちなみに参考までに、長期契約に基づいて輸出されるガスの価格はスポットで購入する価格より倍~数倍ほど安価です。
中国との関係は、我々にとって大変重要な関係で、ロシアと中国は戦略的パートナーです。
そして今、露中関係は最善の状態にあります。
その関係はただ単に経済、あるいは防衛を中心にした関係だけではなくて、国際関係の基本的な原則に対する見方を共にしている関係です。
それはどういう原則かというと、内政不干渉、お互いの正当な利益の尊重、対等な対話の3つです。
例えばアメリカのやり方を見ると、内政干渉を容易にやります。対等な相手として他国をほとんど認めていません。さらに他国の正当な利益を全く尊重していない国ですから、露中関係の基礎に据えられている原則は、露中関係を強いものにする主な要因になります。
それに基づいて、経済関係も発展していますし、防衛関係(交流・協力)も発展していますし、文化、教育、科学技術、国境交流、地域間交流などが進められています。
しかし中国と良い関係を持っているからといって、NATOに対して色々提案をしようという相互関連性はありません。
NATOとの関係について言えば、主権国家として自分の安全を守るために提案を出す、あるいは自分の安全を守るため、自分の防衛能力を維持するために演習をやっているとかそういうことです。
直接中国との関係に関連性はありません。
大江アナ:
ロシアと中国は価値観が同じということですか?
ミハイル駐日ロシア大使:
価値観について、我々は共通点がとても多いです。
先に申し上げたように、内政不干渉、あるいは対等な相手としてお互いに見なすこと、正当な利益を尊重することです。
私は質問の背景に何があるかよく分かります。
欧米は自分自身を民主国家と考えて、共通の価値観を共有する民主国家と考えるのに対して、ロシア・中国などの国々を他の価値観を共有する国々として見直しているようです。
私はそういう敵味方的な論理に賛成していません。
本当は西側が価値の話を始める時に私は多くの疑問を抱いています。
先ほどNATOの侵略歴を挙げました。
侵略的な行為、つまり多くの人々の死亡を伴った行為、大きな町の破壊を伴った行為、そして明らかな内政干渉、明らかに国連を無視する行為は、一体何の価値を理由に行われたのでしょうか。
そして人権、自由等々についてNATO側がいつも大きな声で言っていますが、ではなぜ国際関係を民主化したくないのでしょうか。
なぜ違う意見を言う国々に対して外交交渉ではなくて、制裁・侵略などを行っているのでしょうか。それは民主的でしょうか。
決して民主的ではありません。そのため、西側が価値の話を始める時は、それはきっと何かの侵略が計画されているという兆しとして見た方がいいと思っています。
滝田キャスター:
G7の国、もしくはアメリカ、ヨーロッパがロシアに対して経済制裁を加えた場合、確認したいのは1点だけです。
ロシアがヨーロッパに供給しているガスの元栓を締める、つまり供給をやめるということはないですね?
ミハイル駐日ロシア大使:
外交官の仕事は、実際に起こっていない何かを想定した質問に答えることを必ずしも想定していません。
私が言いたいのは、今までロシアが一度も自分が供給しているエネルギー資源の流れを切ったことはないということです。
そしてそれによって、ここ30年間ないし40年間に渡り責任ある、信頼できる協力相手の地位を獲得してきました。
私はNATO側の立場に立って発言することはできません。
つまりNATOが何を、あるいはG7が何を、どういう行動に出るか、私はそもそも分かりません。
そして示唆されたように、ロシアが制裁を発動された場合、反応はしてきました。それは確かにそうです。今まで反応はしてきました。
そして、今回ももし発動されたら、おそらく反応するだろうと思います。
しかし他方、G7などの関係国に、制裁という道具を取り扱う上で、慎重な態度が示されることを個人的に期待したいと思います。
滝田キャスター:
日本との関係について、国際環境が非常にある意味で冷え込んでる、chillyな感じになってると思いますが、
そうした中で日本とロシアの関係、特に経済関係という点については、大使はどういうような見通し・希望をお持ちでしょうか。
ミハイル駐日ロシア大使:
ロシアにとって日本は重要な隣国です。
そして、日露関係がロシアにとって大変大事な関係であると思っています。
もともとロシアにおける日本と日本人に対する態度は極めて暖かいということを強調したいと思います。
素晴らしい日本の文化、文学、芸術など、映画、アニメなどなどがロシアで極めて人気が高いです。
そして、残念ながらコロナ禍の状況ですが、コロナが発生する前からロシアと日本との間に観光交流が増えてまいりまして、
特に2018年から2019年まで行われた日露相互交流年の結果、相互理解、相互認識、相互尊重、相互信頼が深まったと思っております。
そして先月末、コロナのため延期された日露地域交流年の開会式を、雪の積もった札幌市でオンラインの形で行ったなど、コロナ禍でさえ日露交流が途絶えていないということをアピールできたと思っております。
林外務大臣、鈴木貴子外務副大臣そして鈴木北海道知事など日本の皆さんに、私はこの機会を借りて、心から感謝をしたいと思います。
地域間交流年の開会式を素晴らしく行っていただいて、準備していただいたことについて心から感謝をしたいと思っております。
それこそ、日露関係の潜在能力を物語っているということであります。
そして日露両国はお互いに経済、エネルギー、科学技術、教育、文化などの分野において、まさに大規模な協力ができます。
そして先週のプーチン大統領と岸田総理との電話会談の中で、両首脳が経済、貿易関係を含めて日露協力を今までの合意に従って、さらに進めることについて合意しました。
そして我々は日露関係が、人工的な制限なしで順調に自由に発展することを望んでおります。
そしてそのために幸いにコロナが若干。少しだけ後退はしましたが、それにより貿易が活発化し、再び増加に転じました。
日露間の貿易高の去年の実績は、およそ190億ドルになりました。
さらにエネルギー、グリーンエネルギー、デカーボ二ゼーション(脱炭素化)、イノベーションという新たな分野において、日露協力の潜在能力は極めて大きいと思います。
ロシアと日本の両国はお互いに極めて豊かな独特な文化を誇る国々で、さらなる文化交流が両国民にとって極めて貴重な交流であると思っています。
そういう形で、幅広く無理な制限をかけずに、日露関係を発展させる中で、過去から引き継いだ問題、つまり平和条約問題も双方にとって受け入れ可能な解決を見るのではないかと思います。
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