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三度、泳げば。 〜贈り物を受け取る準備〜

10年以上前、ギリシャにはじめて行った。ヒオス島というところで行われる、ロケット花火を撃ち合う祭の取材が目的だった。祭の本番だけ行ってもあたふたしてしまうから、ロケハン(本番撮影の前の下見。最も豊かな時間ともいう。)に。同道するのはいまは亡くなってしまった、大好きなコーディネーターの景子さん。アテネについてすぐヒオス島に移動し、ちょっと疲れ果てていた僕を、景子さんは港のすぐそばでイワシを食べさせるレストランに連れて行ってくれた。「島のイワシは絶品なのよ」と。給仕の方に「イワシ。オイルで。それと白ワイン!」という注文を5秒くらいで言い終えた景子さん。すこし待つ間に、ご当地の「ことわざ」を教えられた。

エーゲ海の魚をちゃんと味わうには3度泳がせないといけない。
最初はたっぷり海の中。
次はたっぷりオイルの中。
最後はたっぷり、ワインの中。

たぶんギリシャのことわざ

そんな話を聞いていたら届いた料理。きのうまで目の前の「海」を泳いでいたイワシを、「オイル」と塩で焼いただけのシンプルな味付け。だがなんとも香ばしい。骨も気にせずかぶり付いたぼくは、グイっと「白ワイン」をあおった。―――3度泳いだのは魚なのか、それとも僕なのか?渾然一体となったまま、僕はすっかり彼の地の虜となっていた。

3度、泳げば。

僕は今年、初めての体験を3度もした。
アイスショウだ。
正確にいえば、羽生結弦さんのアイスショウだ。

それまで40年以上の人生で1度も参加したことなかったのに。
2022年だけで、5月、6月、11月。
抽選に外れなければあと1回は少なくとも言っていたと思うので、
なんというハマりようである。

ショウを見終えたらすぐに書かずにはいられなかったnoteはたくさんの方にも読んで頂いた。

3度を少し振り返れば、
まさに右も左も知らぬまま「大海」に飛び込むようだった1度目、
自分なりに体験を「煮詰め」られるくらいかみしめた2度目、
そして豊穣な魔法のような表現をそのまま「馥郁と」堪能した3度目。
「ちゃんと味わう」ために必要な3ステップをきっちり踏ませていただき、
おかげで僕はすっかり虜となった。

で、これは抜け出ることはできないな、逆に泳ぎ続けたいな、と思っていた時に、知らせが届いた。とびきりの、「贈り物」の。

東京ドームという、日本でも1、2を争う巨大屋内施設で行われるショウ。
なのに、チケットは争奪戦となった。僕は当選結果が出る前に、電車の中で1度こんな対話を聞いたほどだ。

3度泳いでもうすっかり虜になっているから、
4度目も何としても、という思いはもちろんありつつ、
もし自分が落選したとしても、こういう人たちが当選するのだから、
それは良いことだ、と思っていた。
そこまで思わせるアスリートやアーティストは滅多にいない。

―――そして偶然にも、当選。
2023年、仕事ばかりで埋まった予定のなかで、
燦然と輝く予定が、2月26日に入った。

このnoteは「その日」まで2ヶ月となったいま、
ショウが告知された時の言葉を読み解いておきたいと思って記している。
その言葉とはこれだ。

「そこに幸せはありますか 誰かと繋がっていますか 心は壊れていませんか 大丈夫。大丈夫。 この物語と、プログラムたちは あなたの味方です これはあなたへ あなたの味方の、贈り物」

八戸で表明され、ライブビューイングで見守った数多の人も見たこのメッセージ。
これはまるでショウの告知の言葉ではない。

この先はいつものように有料にさせていただくことをお許し頂きたい。
その分、たっぷり考察したい。
「浸って、泳ぐ者」たちへ、共に泳ごうというメッセージのことを。
まさに3つに分けて、泳いでみたい。


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