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ファンタジーとリアル 


この文章はパソコンではなくスマホで書いているので改行が変かもしれない。それでも「今」「すぐに」書かねば、と思って書いている。
(なお以前書いたようにnoteは思うところあって若者のために使いたいとおもっているので、途中から有料にすることをお許しいただきたいです。)
「今」ぼくは今日(5/27)、初めてアイスショーを観に行った。

幕張に龍があらわれた

場所は幕張メッセ。初めて訪れたのは30年以上前、小学生のとき、恐竜の化石を見に来た。母の運転する車で行ったと思うけれど、小学生のぼくは車酔いしやすく、しかも目指す恐竜展の場所が駐車場からあまりに遠くて、「見ないで帰ろう」と行ったのを覚えている。母と妹になだめすかされて(最初に見にいきたいとお願いしたのは自分なのに、生意気な子どもだ)、訪れた恐竜展の会場は、いかにもバブル期に出来たらしき無機質な建物。以来、何度か訪れてはいるものの、幕張メッセ=無機質な空間というイメージは刷新されることはなかった。
―――今日までは。
 
 仕事を終えて幕張に急ぎ、到着して驚いた。いつもの無機質な建物の周りの、熱気が、すごい。「長蛇の列」とよくいうけれど、この列は「蛇」のひやっとする感覚ではない。背中から炎を発する、しかし暴れることはなく泰然とした「龍」のような、静かにワクワクと燃え上がる熱。ここでずっと行われてきたアイスショー「Fantasy On Ice」の3年ぶりの開催とあって、たくさんのファンの皆さんが入場のための列をなしていた。

  

僕もその列の最後尾に就く。自分も龍の体をなす一員になったような気がして、この「うねり」を会場を熱くする「熱」としよう、という気分にいつしかなっていた。ちなみに龍には9頭の子供がいて、その長男を「贔屓」という。だから「ひいき」と言うのだが、列をなす人にはきっと、ごひいきのスケーターがそれぞれいるはずだ。だが同じ日、幕張メッセで行われていたアニメイベントに集まっていたファンの人々と違い、この列をなす人々は「誰のファンか」をそこまで表には出していない。泰然としている。だから僕ははじめてなのに、すっかりお馴染みのような顔をして列を進むことができた。

16時開場。17時に開演という。この列、一時間で本当にさばけるのか?
なんて不安を抱いたのも束の間、進むと、早い。フィギュアスケートファンはみなさんそうなのだろうか、手早い。係員によるチケットのチェックや検温も極めてスムーズ。あっという間に、会場に、入った。
 
 ここから、写真は、撮影禁止。録音も、もちろん禁止。でも、入場してからおよそ4時間、見たもの、聞いたことは、この先、決して忘れられないものとなった。

 最初に唸らされたのは、お隣の席に座られたご夫婦の「ことば」だった。お二人ともぼくより一回り、いや二回りくらい上。先に座っていた僕は、ご挨拶を受ける。「きょうは宜しくお願いします」―――え、挨拶するの?あまりに自然な挨拶に僕も自然と「ハイ、宜しくお願いします」と応えた。会話は結局、最後までそれっきりだったけれど、普段映画館やスポーツ観戦や劇場ですることのない挨拶を受けたことで、すっかりリラックスしている自分がいた。
 開場まで待つ間、ご夫婦がぽつぽつと会話するのが聞こえてくる。パンフレットを読みながら、「坂本さん」「織田さん」「スガシカオさん」「広瀬香美さん」と、「さん」付けでみなを呼んでいく。その中でただひとり、パンフレットの最後にインタビューの載った“その人”のページだけは、「さん」をつけずに、いや名前も出さずに、じっくり、ゆっくりと読んでいる。「この言葉がいいね」「うん、さすがだね」。ご夫婦は、“その人”の名前を出さぬまま、開演までずっと“その人”の話をし続けていた。
 「3年ぶりに見られるね」「そうだね」「元気だといいね」「元気な姿しか見せないでしょう」・・・もちろん「さん」付けしたみんなを楽しみにしているのだろうけど、“その人”だけは特別。僕も心の中で相槌を打っていた。《そうですね》
《その人は本当に、ショーで見せる以上は元気な姿しか見せない人ですよね》
《その人のことを扱った番組をじつは僕は作ったんですよ》・・・と喉の奥にまで出かかったが、そんなことはもちろんせず、ただ、会場の素晴らしい空気にひたる。

 そして、幕が、開いた。


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