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星のあるところに登る人

(相変わらず、noteは若者のために使いたいため、途中から有料にすることをご容赦ください)

午前中、渋谷での仕事。夜、渋谷での仕事。ならば普通昼は渋谷近辺で過ごす。しかし僕は午前中の仕事を終えた途端、タクシーに飛び乗り、そのまま東京駅を目指していた。久しぶりに乗る、こだま号。目指すは、静岡の掛川。

掛川という名前は90年代サッカー好きには響く人が多いと思う。Jリーグの開幕前後して盛り上がったサッカー漫画、その1つ『シュート!』の主人公がいた学校が掛川にあった。『シュート!』の人気をなんと言っても不動にしたのは、主人公が憧れる伝説の選手、久保嘉晴の存在。ネタバレを避けているかわからぬまま言えば、伝説の選手たる久保が見せるある伝説のプレー「11人抜き」は、漫画史上のサッカー伝説のプレイの最高峰だと思う。
そんなことをした選手は、たとえ高校サッカーレベルでも、サッカー史上いないから(管見の限り。いたらごめんなさい)。

さて、そんな漫画クラスの「伝説の選手」が現実にいるか?現役で。
その問いに「いる」と答えられる選手が日本にただ一人だけいる。
大谷翔平選手ではない。彼もとんでもなくすごい選手だが、MLBのMVPは取れど、いまだ「タイトル」が足りない。きっと大谷選手はこの先10年で、タイトルを渇望し、取り、伝説の選手となるだろう。

ぼくが取材してきた松井秀喜さん、吉田沙保里さんは、間違いなく現役時代は「伝説の選手」だった。タイトルも十分。でも、ぼくが取材した時にはお二人ともすでに引退されていた。もちろん引退されたからこそ語れる話があるのだし、そもそも僕はスポーツメディアに属している訳ではないので、現役選手に話を聞くのはなかなか難しい。テーマとするのも、なかなか難しい。

だから、現役で追いかける人は限ろう、と決めていた。
いつか必ずインタビューしたい、でも聞けなくても構わないから現役時代をしっかり見つめて追いかけ続ける人は。

その点で、今のところ、日本のアスリートで、「伝説の選手」と言える人は、現役では一人しかいないと思う。オリンピックを連覇し、誰もやったことのない技、4Aに挑む「あの人」しか。
その人を見るために、僕は渋谷→静岡→渋谷の強行軍に出発した。
 Fantasy on Ice、日本全国を巡ってきた公演の、千秋楽だ。

前日、新幹線の席を取って驚いた。「4A」だ。
あの素晴らしき番組”ねほりんぱほりん”を観てそれがファンの証だということは知っていたけれどあくまで偶然。しかし何か運命づけられたものを勝手に感じて向かったのも事実。「見ることは宿命づけられていた」そういうのは、嫌いではない。ぼくは宿命とか運命とかはいいやつだけ信じるタイプだ。

えきねっとさん、あなたは神の使いですか?

掛川駅について、1台だけいたタクシーに飛び乗り、会場に向かう。
「羽生君ですか?」話しかけるタイプの運転手さん。
「ええ」
「男の方珍しいですね。お一人で?」
「ええ」
実は番組をやったのです、みたいないろんな説明はやろうと思えばできるけれど、掛川駅から会場までの時間が読めないので、微妙に口籠る。でも運転手さんはグイグイきた。
「私もね、実はファンなんですよ。オリンピックの時とか、何もわかってない父親が「転んだ!」とか言うものだから、言ってやったんです。「この人はもう転んでも何してもいいんだ!」って。」
運転手さんと握手することは憚られるが、ディック・バトンさんに紹介したいと思うくらいいい運転手さん。こいつは幸先がいい。
そう思って、ギリギリ、会場に飛び込んだ。

掛川は15年ぶり、エコパははじめて。エコパって言い易く覚え易く良い名前ですね

会場について、席について思う。ぼくはFantasy on Ice初日を見ていたのだけど、その席と比べると、まるで真逆だった。

□A□□□□□□□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□□□□□□□ バ
□□□□□□□□□□□□□□□□□ ン
□□□□□□□□□□□□□□□□□ ド
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
□□□□□□□□□□□□□□□□□□B

前回は上の図で言えばA。原稿用紙目一杯の作文なら、シメの1行が書かれ始める位置。演目に題を授けるバンドを右に、スケーターたちが音を翼として背に受けながら、物語を紡ぐべく左へと滑ってくる、最高の位置だった。
ところが今回は上の図で言えばB。原稿用紙目一杯の作文なら、名前が書かれるところの下の余白くらいの位置。抽選で偶然当ててもらった席とはいえ、前よりはだいぶ、だいぶ遠い。席についた時は、「前回ほどのワクワクは得られないかもな」と思ってしまった。―――しかし、その心配は公演が進むにつれ、見事に裏切られていくこととなる。

オープニング。ひとりひとり、スケーターたちが入場する。
幕張での初日に見てすっかり心奪われたガブリエラ・パパダキス&
ギヨーム・シゼロンのお二人。そして幕張にはいらっしゃらなかった宮原知子さん。ジェイソン・ブラウンさん。ワクワクしながら入場を見る。きょうも楽しそうだ!そう思った時、「その人」が現れた。

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