連載小説「白鴉」#2 ミカタハダレ?
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連載小説「白鴉」#2 ミカタハダレ?

小説「白鴉」は、リウとタフが登場する少年漫画「GABULI」とは異なる、もう一つの物語

#2 「あなたの味方」


スライド1


*   *   *


倉庫街から飛び乗った路線バスの中で
ミリアムは小刻みに震えていた。

続けざまに起きた信じられない出来事を
どう理解すればいいのか。

サングラスの怪しい男
不吉な夢と同じ白いカラスの壁画
黄色いレインコートを着た幼い女の子──


「みんな私が殺したんだよ」



白と黒に染まっていたミリアムの瞳は
灰色に戻ったが異常なほど熱を帯びている。
彼女は助けを求めて母親セルマの勤める
公立図書館の前でバスを降りた。


*   *   *


「……まあ、ミリアム!」

返却された本を書架に戻していた母親が
職場にやって来た娘を見て驚きの声をあげる。
母親を心配させまいと
無理していつもの態度を装うミリアム。

「ハーイ、ママ」
「どうしたの? 学校は?」
「休講になったからママに会いに来たんだよ」
「顔色が真っ青だわ」
「うん……ちょっと気分が悪くて」
「こっちにいらっしゃい」

ミリアムを長椅子に座らせる母親。
天井のガラス窓から明るい陽光が降り注ぐ。

「いったい何があったの?
お願いだから隠さずに話してちょうだい」
「……実は……」

ためらいつつ打ち明けるミリアム。
子供の頃から繰り返し見る恐ろしい夢のことや
倉庫街での出来事について。


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壁画のカラスに触れた瞬間
ミリアムの灰色の瞳が白と黒に染まる──

白い右眼に映る男。
サングラスの片方に亀裂が走り
呻きながら目元を手で押さえてうずくまる。

黒い左眼に映る幼い女の子。
黄色いレインコートのフードを脱ぎ
露わになった漆黒の瞳で死者たちを眺める。



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あまりに突飛すぎて
どうせ信じてもらえないだろうと思ったが
母親は真剣に耳を傾けてくれた。

「白いカラス……
もっと詳しく聞かせてくれない?」
「でもママ仕事中でしょ」
「早退するわ。あなたのことが心配だもの。
今すぐ一緒に家へ帰りましょう」

タクシーを呼ぶためミリアムのそばを離れて
電話をかけに行こうとする母親。

「ねえ、ママ」
「……ん?」
「サンドイッチ美味しかったよ」

娘の言葉に母親は嬉しそうに微笑んだ。


*   *   *


自宅に到着する頃には
ミリアムはすっかり平静を取り戻していた。

むしろ母親のほうが落ち着かない様子で
リビングの窓枠を指先でコツコツ叩きながら
壁の時計をしきりに眺めている。

「ママ、座りなよ」

ミリアムが声をかけると
母親は一瞬ぎょっとした顔を見せたが
すぐに表情を和らげ娘のいるソファに座った。

「さっき図書館に来たとき
まだ幼い頃のあなたを思い出したの。
私が仕事してる隣でよく絵本を読んでたわね」
「そうだっけ?」
「登場人物のセリフを喋るのが上手だった。
やっぱり女優の才能があったのかしら」

無言で肩をすくめるミリアム。

「それから絵本を読むのに疲れると
私の膝に頭を乗せて眠るの。こんなふうに」

そう言いながら母親は
ミリアムの膝に頭を乗せて身を横たえた。

「やれやれ。今はママのほうが子供だね」
「ふふ……そうね」

ミリアムがあやすように髪を撫でてやると
母親は気持ち良さそうに目を閉じて
そっと娘の手を握りしめる。


「ミリアム、これだけは忘れないで。
この先どんな怪物にあなたが変わろうとも

私はあなたの味方よ」


怪訝そうに母親を見つめるミリアム。
すると玄関のベルが鳴った。

「……来た……」
「えっ、誰が来たの?」

何も答えずソファから立ち上がる母親。
玄関のドアを開けて謎の訪問者を招き入れる。


*   *   *

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「やあ、ミリアム」

母親に案内されて部屋に現れたのは
眼鏡をかけた男性。

「私を覚えてるかい? 君が大人になったら
また会いにくると約束した」

そう言われて記憶がよみがえった。
ミリアムが10歳の誕生日に一度だけ会った
父親かもしれないと考えた人物だ。
撫でつけた髪が当時より薄くなったようだが
優しそうな口調は変わらない。

「ええ、覚えてます」
「良かった。成長した君と再会できるのを
ずっと心待ちにしてたんだよ」

曖昧にうなずくミリアム。
母親がソファを勧めると男性は首を振った。

「折角だが、のんびりしてる暇はない。
もうすぐ迎えの車が到着する。その前に……」

ミリアムに向かって微笑みかける男性。


「白いカラスについて
君が知ってることを話してくれるかい?」



はっと息を呑むミリアム。
娘の動揺を察した母親がおずおず口を開く。

「ミリアム、ごめんね。
私がヨゼフ博士に電話して来ていただいたの。
自宅でゆっくり相談するのが一番だと思って。
あなたの力になってくださるわ」

ヨゼフ博士と呼ばれた男性が言葉を続ける。

「ああ、そうだとも。私が来たのは
君の《秘めた力》が目覚めるよう導くためだ」


「……秘めた力……?」


ミリアムに近づき
灰色の瞳をまっすぐ覗き込む博士。

「女優を目指してるそうだね。
君にしか演じられない重要な役があるから
楽しみにしておくといい」
「えっ……」
「これから君は私と一緒に車に乗って
とある施設へ行き、そこで暮らすことになる」

あまりに唐突で言葉を失うミリアム。
母親も驚いた様子で娘と博士の間に割り込む。

「ヨゼフ博士、約束が違います!
ミリアムは今まで通り私と暮らせるって……」
「君の任務は終わりだよ、セルマ。
あとは私に任せてくれ」
「……何のこと? ねえママ、説明してよ!」

苦渋に満ちた表情で娘を見つめる母親セルマ。
博士が強引にミリアムの腕を掴む。

「安心したまえ。私は君の味方だ。
さあおいで」
「嫌よ、手を離して!」
「ミリアム……逃げなさい!!」

娘を助けようと母親が突進する。
しかし博士はそれをいとも簡単に避けると
逆に彼女を羽交い締めにしてしまう。

「ふん、バカな女め。
私に逆らうとどうなるか忘れたのか?」
「……危ない!」


ミリアムが叫んだ瞬間
博士の隠し持っていた解剖用メスが
母親の喉をスパッと真一文字に切り裂いた。



血飛沫をあげながら
だらりと脱力して床に崩れ落ちる母親。

「ママ……!!」

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慌ててそばに駆け寄るミリアム。
母親は娘に向かって懸命に何か言おうとするが
微かな息が漏れるだけで声にならない。

「ダメ、お願いだから喋らないで」

母親の喉から溢れ出る血を
ミリアムが必死に止めようとしても
彼女の周りにできた血溜まりは広がるばかり。

「……ミ、ミリ……アム……」
「喋っちゃダメだってば!」


「あぁ、可愛い……私の大事な娘……
あなたを……産みたかった……」



最期の言葉を絞り出して息絶える母親。
押し寄せる嗚咽に身を震わせて叫ぶミリアム。

「ママーーーっ!!!」


「そんなに悲しむことはない。
セルマは君の本当の母親じゃないんだから」



悠然として浴びた返り血を拭きながら
ミリアムに告げる博士。

「19年前、私の研究室にいた彼女は
生まれたばかりの君の母親役を演じるという
極秘任務を与えられた」
「……嘘よ……そんなの信じない!」
「セルマの女優ぶりもなかなかのものだ。
当局が用意したアパートの『101号室』で
母親として君を育て、成長過程を記録する。
もちろん図書館司書の職は偽装にすぎない」
「まさか……」
「そして君の力が目覚めつつあることを
彼女は私に報告してくれた。
だが母親役にのめり込みすぎてバカな真似を」

博士が語る真実に打ちのめされるミリアム。
そのとき玄関ドアを蹴破る音がし
何者かが部屋の中へ勢いよく飛び込んできた。

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「……あ、あなたはさっきの……」
「だから言ったろ。オレと一緒に来いって」

ミリアムを守るように立ち塞がる男。
博士がにたりと笑う。

「その顔に見覚えがある。
張燕──国際指名手配中のテロリストが
いったい何の用だ?」
「オレもあんたを知ってるぜ。
人体実験で大勢殺してきたサイコ野郎め」

対峙する張燕を睨み据えて
博士が懐からおもむろに取り出したのは──


両眼をくり抜かれた
禍々しい怪鳥を想わせる異形の物体。



「君も私に殺されたいのかね?」
「まさか。あんたとやり合う気なんかねーよ」
「ではどうする気だ?」
「どうするって……こうすんのさ!」

突然ミリアムを抱き寄せる張燕。
そのまま彼女を連れて勢いよく駆けだし
窓ガラスを突き破って外へ。

「おのれ……!」

追いかけてくる博士を振り切って
ミリアムを抱いた張燕が建物の敷地を抜けると
そこへ薄汚れたオンボロ小型車が急停止する。

「乗って! 早く!」

運転席の窓から顔を覗かせた少年が叫び
ミリアムとともに素早く車に乗り込む張燕。

「心配するな。オレはお前の敵じゃない。
……おい、大丈夫か?」

車が動きだしてから
張燕に声をかけられても反応しないミリアム。
まるで緊張の糸が切れたかのごとく
いつの間にか彼女は後部席で気を失っていた。

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ミリアムと張燕の旅を、今後も見守っていただけると嬉しいです🕊
noteでは、3分で読めるSNS連載小説『白鴉』をつくっています。 そのほか、GABULI-ガブリ-を全てSNS上で見れる「少年漫画」と「MV」で原作づくり中です。 物語・映像・イラストをつくります。あと都市伝説が好きです。