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3分小説「白鴉」#5 白と黒

小説「白鴉」は、リウとタフが登場する少年漫画「GABULI」とは異なる、もう一つの物語

#5 「白と黒」


白と黒が織りなす遊戯。
盤上の駒たちが覇権を争いせめぎ合う。

「ところで、[å鴉Çrëõa族]の娘はどうした?」
「ヨゼフが管理してたけど逃げられたらしい」
「まったく役立たずめ」

ポーンを進めて中央を支配し
ナイトとビショップを展開させていく。

「[õ獅子L£©Ë族]の与太者が娘を連れ去った」
「[î狼ëWõÿ族]の坊やも仲間みたいよ」
「あの連中は昔からわしらの邪魔ばかりする」

ルークで相手を牽制しつつ
クイーンによる熾烈な攻撃で追い込む。

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「[å鴉Çrëõa族] [õ獅子L£©Ë族] [î狼ëWõÿ族]
白の3支族が揃いましたね」
「あいつらを嬲り殺すのが楽しみで仕方ない」
「黒の10支族に逆らう者は死あるのみ」

キングは絶対的存在だ。
天上に君臨する神々しき太陽のごとく。


「白いカラスと黒い太陽が1つに重なるとき
世界は音もなく狂いだす──」



ひとりチェスを指す首領が唐突に口を開いて
ほか9支族の長たちは静まり返った。

そこへ伝令がやって来る。
先ほどハイウェイで巡査に扮していた若者だ。

「サイラス様、ただいま戻りました」
「……どうだった?」
「計画通り張燕たちを捕らえず泳がせました。
ミリアムはNoIDsと接触したようです」
「やはりそうか」
「発信機付きのライターを仕込んだので
奴らのアジトが見つかるのも時間の問題かと」
「よくやった、ユーリイ」

覇王の異名を持つサイラスの言葉に
恭しく頭を下げる若き暗殺者ユーリイ。

「さっそくNoIDsどもの拠点を叩き
白鴉を捕獲するとしよう。
我ら黒の10支族こそ神民の正統な末裔なり」


*   *   *


「ずっと会いたかった……
でも残念ながら、あなたを処刑します」



張燕の妹であり革命組織NoIDsを率いる張玲は
ミリアムを銃殺すると宣告した。

「おい、何言ってんだよ」
「どうして彼女を殺さなきゃいけないのさ」

反発する張燕とゼヴに首を振る張玲。

「そうするしかないの。
世界政府が求める古代兵器の起動を止めるには
このまま彼女を生かしてはおけない」

張玲を見つめるミリアム。
おさげ髪の少女も灰色の瞳を見つめ返し
それから不意に手を握ってきた。


「処刑は明日執り行います。
あなたの死が安らかなものでありますよう」


そう言い残して立ち去る張玲。
張獅やほかの男たちもぞろぞろ出ていき
不穏な空気に怯えた鶏が右往左往する。

「なあどうすんのさ」
「オレに聞いても知らねぇよ。
妹は頑固だから翻意させるのは難しいし……」

ミリアムが手を開くと
なんと小型ナイフが握られている。
張玲が周囲の目を盗み手渡してくれたのだ。

「あなたの妹さん
ただの頑固者じゃなさそうね」

ぽかんとする張燕とゼヴに
ナイフで縄を切り解いてみせるミリアム。


*   *   *


こっそり納屋を抜け出し
農場の裏手にある森の中へ入って身を隠す。
だがすぐに悟られてしまったのか
NoIDs陣営の動きが急に慌ただしくなった。

「……なんか変だな……」

張燕が違和感を口にした直後
大きな爆発音が轟き納屋から火の手が上がる。

「あ、危ない!」
「いったい何が起きてるの?」
「さあな。ちょっと様子を見てくるから
お前らは先に逃げろ」

再び農場へ走り戻っていく張燕。
ミリアムも行こうとしてゼヴに止められた。

「キミは戻っちゃダメだ。
張燕の言う通りここから早く逃げなきゃ」

素直にうなずくミリアム。
森へ目を移すと奥に広がるのは深い闇。
あの向こうに果たして光が見えるのだろうか。


突然、耳をつんざく鋭い声が響いた。


ミリアムは思わず身をすくませ
それに気づいたゼヴが不思議そうに尋ねる。

「どうかしたの?」
「いまカラスの鳴き声が……」
「えっ、ボクには何も聞こえなかったけど」

いや確かに聞こえた。
森の奥に潜む禍々しい気配を感じる。

「とにかく行きましょう」
「……ちょ、ちょっと待ちなよ」

ゼヴを置いてどんどん森の中を進むミリアム。

「なあ待ちなってば」
「しーっ」
「またカラスの声が聞こえた?」
「そうじゃない……あそこに誰かいる!」


*   *   *


張燕が戻ってみると
NoIDsの拠点は破壊し尽くされ
殺された同胞たちが無惨に転がっていた。

「畜生……酷いことしやがる……」

さらに見回すと張獅の姿があり
燃え盛る納屋へ飛び込もうとしている。

「バカ何やってんだよ!」
「離せ! 張玲が中にいるんだ!」
「……えっ……」

瞬く間に勢いを増す炎。
このままでは納屋が焼け落ちてしまう。

「張玲ーーーっ!」

真っ先に火の海へ飛び込む張燕。
黒煙に巻かれた妹が立ち尽くしている。

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「いま助けてやるからな」
「私なら大丈夫。それよりミリアムは無事?」
「ああ。お前の機転のお陰だよ」
「皆の前では処刑すると言うしかなかったけど
彼女は貴重な存在だから……ゴホッゴホッ」
「さあ丸焼けになる前に逃げるぞ」

外へ出ようとする張燕と張玲。
しかし炎がまるで生き物のように触手を伸ばし
逃げ道を塞がれてしまう。

「くそっ……」

そのとき納屋の壁がぶち破られ
張獅が2人を外へ連れ出してくれた。

「やるじゃないか兄貴」
「妹が無事ならお前はどうでもいい」
「はいはい。で、何があったのか話してくれ」
「いきなり敵が襲ってきたんだ。
でも奴らなぜか森のほうへ向かって……」

はっと息を呑む張燕。

「しまった! ミリアムが危ない!!」

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