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ユングを詠む(031)-『猫物語(白)』(ネタバレあり)

ユング心理学のレンズで見た『猫物語(白)』

 西尾維新原作、新房昭之総監督『化物語』、『猫物語(白)』を一気見してしまったのでその感想をユング心理学のレンズで描いてみた。チョイ見のつもりだったのだが。

 表面的には怪異が次々現れる妖怪ものかオカルトもののようだが、怪異の多くは登場人物の心の中の無意識に巣食うシャドー(のモンスター)、アニマ・アニムス、ペルソナの類を描いた心理劇に見える。

 もう少し踏み込んでいってしまうと、怪異たちはユングが晩年に唱えた広い意味でのコンプレックス(心的複合体)の一種として無意識下にあるペルソナ・人格と拡大解釈した。

 参考にユングの『タイプ論』からペルソナの説明とコンプレックスの説明を文末に付けるので興味のある方はそちらをご参照方。コンプレックスは日本語では“心的複合体”と訳されるが滅多に使われない用語となっている。アドラー心理学の言う劣等感の意味よりはるかに広い内容になる。

 前2回で取り上げた『モモ』と同じようにファンタジーの類と思う。

 話をもどすと『猫物語(白)』の主人公は“羽川翼(はねかわつばさ)”、18歳?女子高校生。

 成績優秀・品行方正で生徒会の委員長?も勤めた模範的な高校生。だだし家庭環境は不遇で片親が死去し“翼”は連子とされて親が再婚。次には肉親の片親が死去してまたもや連子として再婚の憂き目にあう。

 結果として不幸が2回も起きて両親がともに他人に置き換わってしまった。そしてそんな両親からはまともな扱いは受けないD V家庭に暮らすこととなる。

 “翼”を冷遇する法律上の両親に対する恨み辛みは、無意識下のペルソナをシャドーのモンスターまでに育てる。物語では猫の化け物“ブラック羽川”として夜な夜な変身して両親を襲い瀕死の重傷を負わせる。勢い余って第三者まで傷つけるようになる。

 このあたりのエピソードは、『化物語』シリーズを通しての主人公“阿良々木暦(あららぎこよみ)”との関係が説明される総集編で見られる。
 
 “猫の化け物“となるペルソナ・シャドーのモンスターのエネルギーを奪い”翼”を助けるのがシリーズ通しての主人公“阿良々木暦(あららぎこよみ)”と、その影に寄り添う”忍野忍(おしのしのぶ)“という少女。

 "忍”は元々バンパイヤ(吸血鬼)であった女性だが、“阿良々木暦”の影に潜むようになり、この少女も私には“阿良々木暦”のペルソナ・シャドーを感じる。
 
この “阿良々木”と”忍”のエピソードは『傷物語』に詳しいが、私はまだ見ていない。見放題でアニメは見られないのでAudible聴き放題で聞く予定。
 
 恨み辛みのような負の感情を抑圧し顕在意識が無視してしまうようになると、無意識の中で負の感情のエネルギーが蓄積され致命的で爆発的な発露をすることは実際にある。どのような致命的な暴発をするかは人によって違う。さまざまな神経症に至ることが多いようである。

 話をまたもどすと、現実の世界で無意識下の負の感情が化け物に変身すること考えにくい。実際にありそうな挙動としては、人格障害を起こして犯罪を犯すケースだろう。解離性人格障害(DID)もその一つとしてありそう。

 ここでようやく『猫物語(白)』の話に移るが、“羽川翼(はねかわつばさ)”はまた新たなモンスターを育ててしまう。今度は“嫉妬“の感情を抑圧した結果”化け物の虎“を生み出す。”翼“本人は化け猫“ブラック羽川”も”化け虎“も自分の生み出したものという認識はなかった。

 ”化け物の虎“は化け猫“ブラック羽川”よりはるかに強力。実の親ではない両親の家と忍野忍の住まいである廃墟を焼き払う。両親に対しては恨み辛みの捌けの続き。”忍”に対しての行為は、片想いの“阿良々木暦”の中の女性性への嫉妬の感情から来たものと理解できる。
 
 2つの化け物は”翼“が生み出したものと、“阿良々木”や恋敵等に示唆されて知ることとなるが、自覚はない。化け物の虎”苛虎“は自分の嫉妬心が生み出したものではないか? 次は恋敵の自宅を襲うと自身で推理する。

”翼“は恋敵に、「あなたも、阿良々木暦が好きなんでしょう?」と指摘されても自分にそんな感情があることを認識し認めることができなかった。

  顕在意識の”翼“、”彼女の自我は、無意識下の自己である化け猫“ブラック羽川”に書き置きで、これまた無意識下の自己である化け物の虎”苛虎“を実力で止めてくれと依頼する。

 そして、恋敵の自宅の前で“ブラック羽川”と”苛虎“は戦うが、嫉妬のエネルギーは恨み辛みのエネルギーを圧倒し、”苛虎“は“ブラック羽川”にとどめを刺そうとする。その直前に“阿良々木暦”が現れ”苛虎“と“ブラック羽川”のエネルギーを奪いとり、戦いは終息する。

 恨み辛みのエネルギーを失った“ブラック羽川”は“羽川翼”として意識を取り戻し自己として、“ブラック羽川”と”苛虎“をはっきりと認識する。そして受け入れる。その場で“羽川翼”は“阿良々木暦”に気持ちを告白する。
 
 しかし、“阿良々木暦”には別に恋人(=恋敵)がいると打ち分けられる。しかし、それでも自己をしっかり認識できたことでスッキリしたよう描かれる。“分離していた意識の再統合“、"分離していた無意識との共存”というかユングのいう“結合”がなされた瞬間!
 
 “羽川翼”が“ブラック羽川”と”苛虎“に対して私のこころの妹として戻ってきてというセリフが感動的でした。

 ユング心理学的レンズでの感想はここまで。
 
アニメとしての演出でこの作品で驚いたことや気づきを書こう。
 
 主人公は連載開始時、高校生である“阿良々木暦”。エピソードごとに女性ゲストキャラクターが変わるがオープニングアニメーションと音楽がゲストキャラごとに違う。こんな制作費をかけたアニメは見たことがない。
 
 場面の説明、登場人物の心理状態を説明したスライドが読み取れない速さで差し込まれる。サブリミナル手法もどきを使っている。こんな手法も初めて見た。

 大概はモノローグやナレーションを用いるところをこのスライド挿入で尺の節約になっている。現代ではDVDや動画配信サイトでの視聴が多いから、Puaseボタンで止めて読めということのようだ。
 
 モノローグはエコーをかけてわかりやすくしている。
 
 押井守、大友克洋的。サイケ風な背景や小道具が使われる。なぜか数字は当用漢字にない漢字とか、横書きは右から左表示とかされている。
 
 80年代、90年代の作品のパロディを遠慮なく入れている。例えば『美味しんぼ』とか、不二家のキャラクターを使ったりしている。
 
 最近のラノベ・漫画・アニメに、キャラクターデザイン、脚本、演出の面で相当影響を与えている。あの作品ってこの化物語シリーズからの流用って結構今回ルーツのネタバレ感があった。
 
 最後に最近には珍しく製作委員会方式を使っていない。アニプレックス、講談社、シャフトの3社だけで制作していて自由度が大きいのではないかと推察する。

今回はここまで。

以下、ペルソナとコンプレックスの説明について、ユングの『タイプ論』から引用する。

ペルソナ
 人格分裂の可能は正常の範囲に入る人々においても少なくとも前兆としては存在しているようである。事実少し注意深く人間心理を観察してみれば、それほど苦労しなくても、正常人においても性格分裂を少なくとも暗示するような徴候が存在することを確認できる。
 (中略)
 一定の環境は一定の構えを要求するのである。構えは一定の環境に適合するように長い間要求されたり繰り返し要求されたりしていると、しだいに習慣化する。
 インテリ階級出身の人間の非常に多くはたいていの場合、家庭生活と職業生活という二つの全く異なった環境の中で行動しなければならない。この二つの全く異なった環境は二つの全く異なった構えを要求するが、これらの構えは自我がそれぞれの構えと同一化する度合いに応じて二重性格となる。
 社会的性格の方が社会的条件や要請にそって自らを方向づける、すなわち一方では職業的環境から期待や要求に従い、他方では主体の社会的意図や野心に従うのである。
 家庭的性格の方は一般にのんびりとくつろぎたいという主体の要求にそって形成されることが多く、そのため公的生活においてきわめて精力的で大胆で頑固で強情で容赦のない人々が家に戻って家族の中に入ると、善良で優しくて寛大で気弱に見えるものである。
 さてそれではこのどちらが本当の性格であり、真の人格なのであろうか。この問いにはなかなか答えられないのである。
[3] 『タイプ論』https://amzn.asia/d/2t5symt p497-p498

(以上のような簡単な考察ではあったが、これによって)正常人においても性格分裂が全くあり得ないわけであることが示された。したがって人格分裂の問題を正常心理学の問題として扱うことは、十分に正当なことである。
 私(ユング)の考えでは ------右の議論(どちらが本当の性格であり、真の人格なのであろうか)を続けるのなら-------こう答えることができよう。すなわちこうした人間は真の性格を少しも持っていない、すなわち決して個性的[誰とも違うという意味]でなく、集合的[他人やグループと同じようなという意味]である、つまり一般的な状況や一般的な期待に沿っているのである。
もし彼が個性的であれば、構えがいかに変化しようとも同一の性格を持ち続けるはずである。彼は、その時々の構えと同一化したりせず、いかなる状況にお相手も自らの個性が何らかの形で表現されることを阻むことはできないし、また阻もうとはしないであろう。
 実際には彼は、どんな生物でもそうだが、個性的であるけれどもそのことを意識していないのである。[3] 『タイプ論』https://amzn.asia/d/2t5symt p498


彼はその時々の構えと多少なりとも完全に同一化してしまい、このため自らの真の性格について少なくとも他人を・しばしば自分自身さえも・欺いてしまうのである。つまり彼は仮面を被るのであるが、彼はその仮面が一方では自らの意図に添い、他方では環境の要求や意図に沿うものであり、しかも時に応じてこのどちらかの要素が優位に立つことを承知している。この仮面。すなわち《この目的で》前面に出される構え・を私はペルソナと名づける。この語は古代の俳優の仮面を指すものであった。[3] 『タイプ論』https://amzn.asia/d/2t5symt p498

[3]『タイプ論』https://amzn.asia/d/2t5symt

Wikipedia コンプレックス(Komplex)
 この語を最初に持ち込んだのはヨーゼフ・ブロイアーとされる。しかし、この語を有名にしたのはユングである。ユングの定義によれば、コンプレックスとは、何らかの感情によって統合されている心的内容の集まりである。

コンプレックス:
 意識の制御を逃れた心的要素であり、意識から分離して、ゼーレの暗い領域に存する特殊存在を率いており、その領域からいつでも意識的行為を妨害したり促進したりしうるのである。
 コンプレックスの理論をさらに深めると、必然的にコンプレックス生成の問題に行き当たる。これに関しても様々な理論が存在する。それらの理論はさておき、経験によると、コンプレックスが常に何らかの葛藤を含んでいる、あるいは少なくとも葛藤の原因となったり派生することは確かである。いずれにせよ葛藤・驚愕・動揺・苦痛・矛盾・といった性質はコンプレックスに特有のものである。
 (中略)
 それは思い出したくもないし、それ以上に他人のも思い出してもらいたくないものに、しばしばまさに一番困ったときに思い出されるものである。これらは何となく正面から見据えることのできない思い出・願望・恐れていること・義務・避けられないこと・洞察・を常に含んでおり、そのため我々の意識生活の中へいつも妨げとして、たいていは有害なものとして入り込んでくる。出典『タイプ論』p562-p563

コンプレックスの着目点:
 コンプレックスは広い意味におっける一種の劣等性であるが、ただしコンプレックスないしコンプレックスの所有が単純に劣等性を意味するものではない。
 これ意味しているのは単に、両立し得ないもの・同化し得ないもの・対立するもの・が存在するということであり、これはもしかしると障害が、しかしより大きな努力を促すものが、それとともにさらにはもしかすると新しい成果の可能性が存在するということだけである。したがって、コンプレックスはこの意味でまさに心的生活の焦点ないし結節点となる。
出典『タイプ論』p563

[3] 『タイプ論』https://amzn.asia/d/2t5symt

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参考文献[1] MBTIタイプ入門(第6版)https://amzn.asia/d/gYIF9uL

参考文献[2] MBTIタイプ入門 タイプダイナミクスとタイプ発達編https://amzn.asia/d/70n8tG2

参考文献[3] 『タイプ論』https://amzn.asia/d/2t5symt

参考文献[4] ユングのタイプ論に関する研究: 「こころの羅針盤」としての現代的意義 (箱庭療法学モノグラフ第21巻) https://amzn.asia/d/aAROzTI

参考文献[5] 『元型論』https://amzn.asia/d/eyGjgdX

参考文献[6]『ユング――魂の現実性(リアリティー) (岩波現代文庫)』https://amzn.asia/d/cUEvxPS

参考文献[7] <ミヒャエル・エンデ『モモ』 2020年8月 (NHK100分de名著) ムック – 2020/7/22>

参考文献[8] 『ユング心理学入門』https://amzn.asia/d/0gCq7JP9

背景画像:原案:経営をかたるユング研究者 小河節生。
     作画:ChatGTP4o。
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こころざし創研 代表

「コーチやめました」
経営をかたるユング研究者 小河節生

E-mail: info@teal-coach.com
URL: 工事中
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