見出し画像

『大増殖天使のキス』(毎週ショートショートnote)

閑静な住宅街にあるこの小さな川は
昔この辺りが農地だった名残で元は用水路として
少し離れた一級河川から水を引いた人工の川である。
以前は田畑の間を流れる何の変哲もない川であったが
住宅地として整備される際に川幅を広げてコンクリートで固め
川の両側には花木を植えたことにより散歩やジョギングを楽しむ
憩いの場となっている。

その現象が見られるのは夕方から日没にかかるわずかな時間で、
川の上を小鳥のように小さな羽根を持つ天使が
必ずペアで人間の目を気にする様子もなく
つかず離れず飛びながらたまにお互いの口のあたりを
ちょんとキスをするように触れるのだという。

1つ2つのペアで飛んでいた頃は多くの人が訪れ
地元のテレビにも取り上げられて話題になったが
2桁3桁とその数が増えていくにつれ
気味悪がって誰もその時間に
川に近づくものはいなくなってしまった。

最近では家の網戸に追突したり
ベランダに転がっている天使が目撃されたりと
住民の悩みの種となっている。

(410文字)

<あとがき>
大増殖する天使のキス
ぱっと見、書きやすいお題だと思いましたが
メルヘンやファンタジーが苦手な私には
かなり手ごわいお題でした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?