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七十二候にまつわるエッセイ

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季節の小分類である七十二候をきっかけにしたエッセイを、ほぼ毎週週末に更新しています。
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記事一覧

第三十二候 蓮始開(はすはじめてひらく)

若葉の柔らかさを、優しい友の手のように感じる。早朝、蓮が花開くこの候、増し土をしたフィカ…

西村二架
3日前
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第三十候 半夏生(はんげしょうず)

「そう考えると、死ぬということも、キノコがまた菌糸に戻るように、「ひとつ」に戻っていくこ…

西村二架
11日前
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第二十九候 菖蒲華(あやめはなさく)

最近、増し土をした若木の枝先から新芽が出てきた。植え替えや増し土、なんとか夏に間に合って…

西村二架
2週間前
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第二十八候 乃東枯(なつかれくさかるる)

夏至。一年の中で最も昼が長く夜が短い日。夏の短夜、夜が短くなるにつれて、人の睡眠時間も短…

西村二架
3週間前
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第二十六候 腐草為螢(くされたるくさほたるとなる)

演奏表現とはいったいなんだろうかと、大学の頃からずっと思う。いま、入梅となり、夏の香がす…

西村二架
1か月前
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第二十五候 蟷螂生(かまきりしょうず)

今年は梅雨の気配が遅いような気がする。紫陽花(あじさい)が好きな身としては、外でゆっくり…

西村二架
1か月前
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第二十四候 麦秋至(むぎのときいたる)

真鴨は春に北へ帰る。 遠く姿を遥(はる)かせる。 どこへ帰るか。 どこに帰り、どこに居るか。 何を見、何を思って暮らすか。 遠く独り*で、私は決められるだろうか。 軽鴨は春に北に帰らない。 近く姿を悠(はる)かせる。 *独り:「そうだ、僕はずっと、ずっと、ずっと、「独り」だった。そのことが体の隅々まで冷たい液体が流れてゆくように僕を満たした。静かだった」梨木香歩『沼地のある森を抜けて』96/100%地点 ーーーーー 第二十四候 麦秋至(むぎのときいたる) 5

第二十二候 蚕起食桑(かいこおきてくわをはむ)

麦の穂が実り、小さく満ちる。卵から孵った蚕が桑を食む。世界が在り、自分がまだ死んでいない…

西村二架
1か月前
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第二十一候 竹笋生(たけのこしょうず)

立夏も末候となり、青葉の耀(かがや)く季節。植物たちの元気さに気押されるような心地もする…

西村二架
1か月前
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第二十候 蚯蚓出(みみずいずる)

初夏の風物を詠んだ詩、2首。 ふと見(まみ)ゆ夏の翠(みどり)に掬われる木苺のようにあな…

西村二架
2か月前
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第十八候 牡丹華(ぼたんはなさく)

夏の足音が聞こえてきた。先日、『贈与論 資本主義を突き抜けるための哲学』第2回の読書会を終…

西村二架
2か月前
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第十七候 霜止出苗(しもやんでなえいずる)

先日、青木海青子さんの『不完全な司書』を読んでいて、目の留まった文章があった。それは、本…

西村二架
2か月前
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第十六候 葭始生(あしはじめてしょうず)

春を契機に浮かんだ詩、3首。 ふと見ゆるひとのやさしさ明日葉のごと 詞書:ふと出逢う、ひ…

西村二架
2か月前
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第十四候 鴻雁北(こうがんかえる)

暖かくなった。雪柳が、真っ白な花を数えきれないほどつけている。春に咲く雪を、清流の上に投げかけている。 日永(ひなが)になった。凡(あら)ゆるものに、えも言われぬ陽光が永く降りそそいでいる。水面(みなも)にも、眩い乱反射となって照り映えている。反射のひとつひとつに心揺れる。 この季節、雁(かり)が飛び、花は咲き、水面は耀(かがや)く。凡(あら)ゆるものが過剰に眩い。悲しみを悲しんで偲ぶことを許されていないような心地もする。けれど、決してそんなことはない。 雁(かり)が北