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第十四候 鴻雁北(こうがんかえる)

暖かくなった。雪柳が、真っ白な花を数えきれないほどつけている。春に咲く雪を、清流の上に投げかけている。

日永(ひなが)になった。凡(あら)ゆるものに、えも言われぬ陽光が永く降りそそいでいる。水面(みなも)にも、眩い乱反射となって照り映えている。反射のひとつひとつに心揺れる。



この季節、雁(かり)が飛び、花は咲き、水面は耀(かがや)く。凡(あら)ゆるものが過剰に眩い。悲しみを悲しんで偲ぶことを許されていないような心地もする。けれど、決してそんなことはない。

雁(かり)が北に帰ることを憶えながら私は、自らが選ぶものを選び選んでゆく。その人がそこに居ることを慶ぶように自らを慶ぶ。その人が選んだ旅立ちを心から嬉しむように、自らの旅立ちも嬉しんでゆく。知らず知らずに固く握っていたもの、よく観て、少しずつ手放してゆく。わたしを容(かたち)作る日々愛おしいもの、よく観て、忘れないように、いまを覚えてゆく。






参考:山下 景子(2013年)『二十四節気と七十二候の季節手帖』成美堂出版https://www.seibidoshuppan.co.jp/product/9784415314846

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第十四候 鴻雁北(こうがんかえる)
4月10日〜4月19日頃

雁(かり)が北に帰る時期
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(晩春、晴明・次候、第十四候 鴻雁北(こうがんかえる))

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