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◎あなたも生きてた日の日記㊶ 犬から知るかつての子育て


久々に実家に帰ったら、知らない犬がいた。
正確に言うと「まさか本当にいると思わなかった犬」がいた。というのも、数か月前に母から「犬を飼えないかという話があって、迎えるかどうか迷っている」と聞いていたのだ。しかし、私は「やめておいたら」と言った。
家には、もうすでにチワワが一匹いたからだ。

そのチワワは、我が家のペット歴で言うと二代目で、先代のチワワが昨年亡くなった際に、母があまりにも寂しがるので迎え入れた。
チワワと言っても一匹目と二匹目の性格は全然ちがう。
先のチワワは「ごはん・散歩・着替え」が大好きで、その次に人間、と言う感じだった。人間の帰宅時にはしばらく愛想を振りまくが、ある程度撫でると「もういいです」と言わんばかりに自分の持ち場に帰っていた。

しかし、二代目のチワワは「人間・人間・人間」という具合に人間のことが好きだ。帰宅後は人間がほどよく振り切らなければ永遠に「撫でてタイム」が続く。ごはんに目もくれず、人間に自分を愛でることを要求する。同じ犬種でもここまで違うのかと驚いた。

それくらい人間が好きな犬だから、人が家を空ける朝には信じられないくらいぎゃんぎゃん鳴く。逆に帰宅すると、過呼吸になるくらいに歓喜して不安になるほどだ。母曰く「極度の寂しがりチワワ」で、おそらくその指摘は当たっているのだと思う。

そこで母は、「友達が来たら仲良く遊んで淋しくならないんじゃないか」と考えたらしい。
私は「そんなにうまくいくかいな」と思った。
そして、その予感は的中する。

新しく来た犬はミニチュアダックスフントで、黒い毛並みがつやつやな子どもだった。
そして、驚くことにこちらも信じられない人間のことが好きだった。つまり、犬同士の人間の取り合いが勃発していた。自分を撫でてほしい時に間に入ってくるやつは、邪魔だ。つまり2匹ともめちゃくちゃ仲が悪かった。

久しぶりに会った先住の犬は、自分のおもちゃを取られ、人間を取られ、なんだかげっそりしていた。一目見ただけでストレスがかかっているのがわかって、思わず声をかける。若干すねるような顔でふて寝を始めるので、胸が痛んだ。

一方で新入りは大変押しが強く、物おじしない。先住の犬のおもちゃも、ごはんも、水も容赦なく奪う。人間にも体当たりする。す、すごい…。しかしこの子も、新しい環境に来て、奪ってでも愛情を獲得しないといけない状況だもんな…と思い、こちらもなんだかかわいそうに感じた。

2匹はよくケンカしている。ぎゃんぎゃん鳴き合っている。どうするのか、このままでは誰も幸せにならないではないか。
しかし、驚くことに両親は比較的前向きなのだ。

「まあ、最初は合わへんかもしれんけど、そのうち仲良くなるやろう」
「お互いまだ子どもやからなあ、これからやね」

こんな具合なのである。
正直、私にはまったく理解できない。なんでそんなに呑気でいられるのか。前向きなのか。
そう思って数日経った頃、弟がたまたま実家に帰ってきた。そこではっと気づいた。
そうか、両親は、昔人間の子ども(私と弟)で同じ状況を経験しているのだ。

後から来た存在に、先にいた存在は脅かされ、喧嘩し、それでもしばらくしたら仲良くやっていく…。
そうか、私と弟でかつてあった状況は、現在の犬に似ているのかもしれない。だからあんなにどっしり構えてられるのかもしれない…。

その晩、深夜に犬を見に行くと、2匹並んで同じ寝床で寝ていた。
もしかしたら予想が当たる日も、近いのかもしれない。いや、近くあってくれ、と思うのだった。

(あなたも生きてた日の日記㊶ 身体感覚について⑫)

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