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#09 「逃亡者」中村文則


中村文則さんの作品との出会いは『王国』だった。


主人公が女の人で、物語の世界にすごく引き込まれた印象が残っている。

『王国』は少し希望が感じられる終わり方だった気がするが、『逃亡者』は希望もないし、読了後の爽快感も全くない。


あるのは絶望と理不尽さだけ。


何とも言えない感情だけを残して終わる、いい意味で体力と気力の要る小説だ。



第一章、第二章、第三章とあり、正直言って第二章はそれなりの知識も必要とされ、あまり描写的にも心地の良いものでもなく、読み進めるのがしんどかった。

しかし、そこを超えた先、つまり第三章からラストにかけての畳みかけは圧巻。


しんどい思いをした第二章の伏線が繋がる度に、何度も「うわっここで(つながるの)!!!」という気持ちになった。

エピローグは映画のように、ありありとその光景が映像として浮かび上がり、個人的ではあるが、終わり方が好きすぎるくらいだった。

作家自身のルーツということもあるだろうが、この小説を書くにあたって、様々なことを綿密に調べている印象を受けた。

その膨大な量や思いを受け止められるだけの体力と気力が、小説を読むにあたって必要だと感じる。

当たり前だが、その大半が全く知らないで生きてきたので、読み終えた後は長崎に行って、この目で色々なことを見てみたいという気持ちになった。


文庫版を読むのであれば、「文庫解説にかえて」までが一つの作品であり、必読。


前述した通り、この作品は、なんとも言えない感情になり、あるのは絶望だけである。

しかし不思議と不快感はなかった。

絶望を、不快感だけで終わらせないように、絶妙に描ける技術は流石としか言いようがない。(すごい)

そして、その技術こそが、この作家の小説の特徴でもあり味だと思う。


過去には、『銃』や『掏摸』、『去年の冬、きみと別れ』なども読んだことがあるが、読む度に、自身の中で唯一無二の作家になる。

上記以外にもおすすめがあれば、コメントお待ちしております。


なんだか映像化されそうな終わり方だなと思いながら、本を閉じた。


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