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#08 「52ヘルツのクジラたち」町田そのこ


本屋大賞を受賞されたときから読んでみたくて、でも何だかんだ後回しにしてしまっていた。

けれど、今はこの作品を読んでよかったと心から思う。

この本を読んで、たくさんのことを考えた。


優しさ、強さ、弱さ、愛情、人生、心、身体、性 etc...

人を救うには、優しさと強さの両方が不可欠で、一つでも欠けてしまっていると、それはもうただのエゴにしかならないのではないかということ。

愛情ひとつ取ってみても、その人の全てを受け入れるのが愛情なのか、それともその人の幸せを願って正しいとされている方向に導くことが愛情であるのか。

本を読んでいると、それはその人のためにならないんじゃないかなぁと思うことがある。
けれども、そこに愛情がないわけではないことはわかっている。
だからこそ、難しいと思う。


この一冊は、本当に多くのことを、読者に訴えてかけてくる作品だと思う。

正直、わたしは親からの愛情をふんだんに受けて育ってきたし、その自覚もある。

それ故に、主人公の気持ちに共感すると言ったことはなかった。

主人公の生い立ちを読んでも、そのことを事実としてしか受け止められず、その事実から派生する気持ちには、100%共感はできないし、言葉の意味通り、文字として読んだだけであると思う。


けれど、そんなわたしですら、様々なメッセージを読み取り、多くのことを考えた。


中でも「人というのは初めは貰う側だけど、いずれは与える側にならないといけない」というセリフがすごく刺さった。

主人公も、かつての自分と似た境遇にいる少年と出会ったことで貰う側から与える側になっていったと思う。(そして、その事実に気づきまた感動する)

この言葉は、私自身もすごく考えさせられ、大事にしていきたい言葉になった。


この作品は、題材としては虐待がテーマであると思う。

けれど、最後の一ページは、虐待でなくても、つらい思いをしている人、したことのある人全員に向かって届けられた言葉であると思う。

「つらいときは声をあげて。きっと誰かに届くから」といったような、作者からのあたたかなメッセージ。

わたしもつらくなったとき、声をあげて助けを求めたい。
最後の1ページは、つらくなったときに、何度でも読み返したくなるような、忘れたくない1ページになった。

ラストスパートは涙なしには読めない、顔を不細工にしながら滲む視界で必死に読むのに精一杯だった。

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