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同世代の表現者・松永天馬への憧憬

ここ数年、一人でアーバンギャルドの音楽をこっそり聴いてきた。アーバンで繋がれる友人もなく、ただただバンドメンバーへの想い、楽曲への想いが積もり積もって整頓できなくなっていくなか、『水玉自伝』の読書感想文が募集された。渡りに船だ。バンドのために、自分のために書いてみたいと思う。とどのつまりはファンレター、一方通行で上等だ。返書は要らない。コメントも要らない。トラックバックも要らない。というかトラックバックってなんだっけ。

私はアーバンギャルドと出会う前に、シンガーソングライター・浜崎容子と出会っている。2016年『Blue Forest』発売の頃、きっかけは菊地成孔のラジオだった。その歌声、楽曲に一発でノックアウトされ、即座にCDを注文した。

自然と浜崎の母体であるアーバンギャルドにも興味が向き、手始めにベストアルバムをレンタルして聴いた。浜崎のソロとは違いアクの強い楽曲群……浜崎の美声を遮る謎の男性のヴォーカル(笑)……最初は嫌悪感すら覚えたが、聞けば聞くほど癖になり、加速度的にのめり込んだ。バンドの通史も自然と学んでいたが、満を持して発行された本書は私にとって最良の歴史教科書となった。

バンドメンバーの個性は強い。その上、各々の魅力や特長が全く違う。私が思うに、浜崎は艶のある歌声と薫るようなメロディ、おおくぼは緻密なサウンドメイクと豪快なパフォーマンス……これらすべからく愛すべきアーバンギャルドの要素だが、今回の感想文は、創始者である松永天馬に興味を向けて書いてみたいと思う。

彼の魅力・特長を考えたとき、はじめに”言葉”が出てきたが、突き詰めていけば、”松永天馬であるということ”だと思う。

私はアラフォー男性、生まれも育ちも田舎、漫画は好きだが別段サブカルに傾倒しているわけでもない。バンドのファン層とはかけ離れているが、それでも私は彼の世界の虜にされた。動画サイトのコメントにある「あたしのことを歌ってくれている…」というような共感からではない。優れた映画や文芸作品を鑑賞した後のような余韻。それを知る前と後とでは、全く違う自分が居るとまで思う感覚からだ。

これまでの松永の言葉の端々から、恐らく同世代だろうと推察はしていた(実際彼は私と一つ違いだった)。ほぼ同じ時代、同じ時間を生きてきた彼は、何を食べ、何を見て、何を思うてきたのか。どうすればあの詞が書けるのか。どうすれば松永天馬という非現実的な男が出来上がるのか。調べてみても、既出の情報に詳細はない。それもそのはず、松永は「自分のことになるとだんまりを決め込」んで語らずに本書発売に至ったのだから。

私は"地頭がよく、クリエイティビティがあって、幼少よりその才能を発揮して来た変人"という人物像を思い描いていた。そういう意味では彼の父が東大卒のエリート官僚なのは妙に納得する。しかし幼少の頃からのエピソードは想像を超えるものばかりで、生まれながらにして松永天馬だったのだと息を漏らす他ない。

今でこそ言葉の仙人のような風格すら漂ってきているが、まだ何者でもなかった頃は松永にも焦燥や挫折があり、それを乗り越えて今のアーバンへと繋がっていく。その生き様は胸が熱くなった。

私が特に共感したのは、綿矢りさや金原ひとみの登場に抱いた焦りだ。松永に限らず、当時のモノカキ志望の少年少女にそういう子は多かったのではないか。かく言う私もぼんやりと小説家を志し、乱読と執筆に勤しんでいた時期だったので、その気持ちが痛いほど分かる。同世代の天才が綺羅星の如く世間を騒がせている。対して何も成していない自分。まさに地団駄を踏む感じ。

余談だが、その頃読んだ筒井康隆のエッセイに「作家としてデビューするのに30歳は早すぎた」と書いてあったことで溜飲を下げた(事実、早熟の天才は後に苦労したり破滅したりする)。

とは言え、私の小説家志望は早々に終わる。"小難しいSFや古典文学なんかを読んでいる自分"を演出したかっただけで、そんなに小説が好きではないことに、受験勉強中、気がついてしまった。それでも何かしら言葉を表現する世界で生きていきたいと、大学ではいろいろなサークルを見て回った。根暗で人の気持ちが分からない私には(当時は自分が発達障害だなんて思いもしなかった)、映画も演劇も音楽も水が合わず、結果的に一人で創作が出来る漫画を描き始めた。小説に比べれば相当分量が少ないが、言葉も扱う。今もとりあえず漫画で食べられてはいる。

それに引き換え松永は、映画も演劇も音楽も、小説もやる。それらどのジャンルに於いても松永天馬でなければ出来ない表現を追求している姿勢には、同世代の作家としてただただ憧れるのみ。本書を読む限り滅茶苦茶厄介な人物で、一緒に活動する人たちにとっては大変なこと、この上ないのだろうが、艱難辛苦を乗り越えた先にとんでもない絶景が見えるに違いない。そんな松永と同じ情熱を持っていた浜崎。二人の出会いは奇跡としか言えない。

新参ファンとして、まだまだ追いきれていないアーカイブが山積みだ。緊急事態が続くなか新たなコンテンツも産み出されていく。うかうかしてはいられない。この先も松永の、浜崎の、おおくぼの、アーバンギャルドの活動から目が話せない。今もっとも、ライブに行きたいアーティストだ。

最後に本当~にどうでもいい個人的な雑感を。

『都会のアリス』を聞くたび、個人的に大事に思っているアニメのタイトルが脳裏を過ぎる。松永も観ていたのだろうか……? アニメの作中でも印象的に使われる"天使"や"アリス"という単語も、まあメタファーの定番っちゃ定番だし……と、あまり深く考えずいたが、『TOKYOPOP』収録の『ももいろクロニクル(REIWA RAP ver.)』を初見で聞いたとき吹き出した。まさかよこたんにそれ言わせる?!

そのアニメのタイトルは『アイドル天使ようこそようこ』という。

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