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パキスタンの漆工芸

レイキ・カ・カーム(Lacquer work)と呼ばれる漆細工は、パキスタンで伝統的に受け継がれている工芸技法のひとつです。漆工芸は約 2000 年前に中国で生まれ、アジア全土に広がり、インド亜大陸にも到達しました。ムガル帝国時代、アクバル皇帝の治世中にペルシャ職人によって導入され、王族や貴族の宮廷や家を飾りました。そして、漆細工の伝統は亜大陸にしっかりと根付いていきました。

漆細工

漆細工は、とくにパキスタン北部地域で知られる芸術の一つです。パンジャーブ州のムルタニ・レイキ・カ・カーム、シンド州のシンディ・レイキ・カ・カームが有名ですが、カイバル・パクトゥンクワ州やバローチスターン州でも製造されています。

この職人技の極みである漆細工は、さまざまな木製の部品を装飾し、キャンディー入れ、テーブルランプ、宝石箱、ティッシュ箱、装飾品などのオブジェクトに美しいデザインを施していきます。幾何学模様、花柄、動物などパキスタン文化に深く根ざしたデザインや模様が使われます。

完成品を作るには、大変な手順と複雑な色付け作業が必要です。漆細工のプロセスは、木地整形、樹脂塗装、彫刻という3段階から成り立ちます。

まずは木地整形。木材を水に浸し、その後、丸1 日乾燥させ、木材を回転させる機械をつかって壺や箱のかたちに整形し、サンドペーパーで仕上げていきます。

それから樹脂塗装。木材の表面に、黄色、赤色、黒色など3色以上の異なる色の漆(樹脂)を塗布していき、色の層をつくっていきます。さいごに、表面を研磨して光沢のある仕上げにしていきます。

これらのプロセスが完了した後、漆塗りの表面を削ることにより、さまざまなデザインが多色で彫刻されます。掘り進むと、漆の色合いが現れ、製品に虹色の効果を加えます。

パキスタン北部を訪れる観光客はこれらの漆細工を購入することはもちろん、漆細工職人の屋台も見逃せません。木製の作品に漆細工を施す職人のこだわりにただただ驚かされます。この複雑な伝統芸能を実現できる職人はほんの一握りであり、現在ではとても希少な専門分野となっています。

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