永遠の始まり

 この世に永遠に存在するものはない。それは宇宙でさえ例外ではない。では、存在しないはずの「永遠」という概念や言葉がどうして生まれてくる事ができたのだろう?

ある人物は

「人が『永遠』というものを望んだから」

と言った。

僕は今、その『永遠』とやらを強く欲している事になるだろう。

ーー永遠の若さ

ーー永遠の命

ーー永遠の友情

ーー永遠の愛

『永遠』への憧れ。今この瞬間、残り短い命を擦り減らす彼女をどうにかして救いたい。失う事がどれほど耐え難い苦痛なのか、神は、宇宙は何一つ知らない。傲岸不遜に天に居座るあの太陽を引き摺り下ろしてでも、私は時間を掌握し、運命を犯して、永遠を手にしたい。人生でこれほどまでの欲望を抱いた事はない。

中世にホムンクルスーーフラスコの中の小人ーーが

20世紀末にクローン羊が

51世紀にかけて人類は着々と『生命』を意のままにできるようになった。そして、遂に長年夢見てきた『永遠の命』を我々は手にすることができた。愛する妻を、死の淵から救い出せる時が来たのだ。

何故生物は『病』という呪いにかかるのか。それは我々の身体が『肉の塊』であることに他ならない。おびただしい数の細胞の一つが、遺伝子情報に不備があって人体に悪影響を及ぼす。単細胞生物による利己的な生存本能による攻撃など。我々はこの『肉の呪い』を断ち切らねば『永遠の命』を手にする事はできなかった。神によって作り出されたこの身体は我々のものではない。なら、その身体を我々独自のものに一から作り出せば良い。

私の妻は、世界で初めての『永遠の命』を、機械の身体を手にした。全身機械の彼女は、以前より増して綺麗になった。

ーー愛してるよ

ーーワタシモヨ

そういって彼女は、私やこの病院もろとも火の海と化してこの世を去った。

人類は『永遠』を実現する事はできても

『永遠』を手にする事はできなかった。

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