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手を叩く音楽

 昨年のある日、遠方にいる恩師から「ハンドクラップを含む日本の曲をおしえて」という「宿題」をもらった。あんまり思い浮かばなさそうだから数曲でおさまるだろうなとプレイリストをつくり始めた、ら、結構ぽんぽん思い出して止まらなくなった。ずっと大好きな曲もあれば、ラジオやテレビで聞いていただけなのに何故かたまにふと頭で流れる曲もあって、ランダムに追加していくと90年代ヒッツ!+α みたいな内容になってしまった。反則だがハンドクラップじゃなくてタンバリンやカスタネット、拍手が入っているとか、聞いていると手を叩きたくなるとか、休憩に挟みたいとか、そういう理由で選んだものもある。

90年代にまつわる覚書き

 90年代は当然小室サウンドを浴びた。以前、臨床心理士・研究者の東畑開人さんによる『夕闇の心理学―河合隼雄と小室哲哉』という記事を読んだのだが、以下の部分が特に興味深かった。

「太陽が沈んでいくときの喪失と孤独こそが、河合隼雄の心理学の場所なのだ。
 [...] 光あふれる時代に、影を語ろうとしていたのだ。彼はそういうタイプのスーパースターだった。
 ああ、小室哲哉のサウンドも、よく聞けばそうだったではないか。アップテンポの躁的なビートは、次の瞬間にメランコリックなメロディに転調する。それが彼の音楽性であり、あの頃の時代精神であった。」

 あの頃のわたしの記憶もなんとなく明るくて暗い。それは自分が思春期だったからだと思っていたが、なるほど「時代精神」と捉えることもできるのか。当時は TRF も安室ちゃんもいっぱい聞いたが、大人になってからも頭で流れる頻度がいちばん高いのは H jungle with t の《Wow War Tonight 〜時には起こせよムーヴメント〜》かもしれない(*)。今改めて聞くとちょっと泣ける。そしてこれも「躁的なビート」と「メランコリックなメロディ」が混在する1曲だったことに気づかされる。

 プレイリストには小室氏ではなく教授がプロデュースしたダウンタウンを入れておいた。当時の3人のかけ合いは中学生のわたしにとってめちゃくちゃ面白かった。HEY! HEY! HEY! で Geisha Girls のパフォーマンスを見たときは子どもながらに海外から見た「ゲイシャ像」をいじったらこんなことになるんかなと思った。
 同時期に発表された KOJI 1200(今田耕司ソロプロジェクト、テイ・トーワによるプロデュース)の曲もなぜか忘れられない。ちなみに今田氏は80年代のニュー・ロマンティック、特に Duran Duran に影響を受けたそうだ。これまた HEY! HEY! HEY! 出演時に語っている映像を見つけていろいろと合点がいった。リアルタイムで見ていたはずだが、中学生のわたしは何も理解していなかったのでトーク部分の記憶は消えていた。

*おまけ
この曲については他にも印象深かった記事(ライター中前結花さんのエッセイ)がある。タイツのくだりから最後まで共感の連続だった。

イエローモンキーにまつわる覚書き

 イエローモンキーの曲は《FINE FINE FINE》《Suck of Life》《DANDAN》も思いついたし、手拍子関係なく単に好きだから《Rainbow Man》や《天国旅行》《見てないようで見てる》とかも強引に入れようとしたが、それではイエモンのプレイリストになってしまうので我慢した。《プライマル。》は2001年活動休止前に出した最後のシングルだったので今でも切なく聞こえるが、数々のグラムロック名盤を手がけてきた Tony Visconti がプロデュースしたこともあり、とても特別な1枚である。そしてわたしに David Bowie や T. Rex をおしえてくれたのは吉井和哉氏の言葉、音楽、姿だったので長年イエモンはグラムだと思い込んでいたのだが、その後いろんな音楽を聞くようになって個人的には
イエローモンキー = 昭和歌謡 × ハードロック × グラムロック
という解釈に落ち着いた。 

エトセトラ

 オザケンはアルバムを聞いたことがないのだが中学時代に流行ったシングル曲はぜんぶ好きだった。そしてそこに結構な割合でハンドクラップが入っていることに気づいた(バランス的に90年代からは1曲に絞った)。近年ラジオで聞いてお! と思った《ウルトラマン・ゼンブ》にも入っていたので、今も昔もよく手を叩いていらっしゃるのかもしれない。
 また、小1くらいのとき身内の影響で宍戸留美のアルバムを聞きまくっていたのだが今聞いても全然古く感じないのでびっくりした。特に好きだった《Panic in my room》からは「ほふくぜんしん」という言葉と「河口湖」という場所について学んだ。当時「河口湖のお土産は見るも無残」は「見るも無じゃん」と聞こえていたが、そんなことより、その直前に「BGMは当然 Pistols」と歌われていた……。このアルバムには「地球の危機」とか「宇宙の危機」を荒唐無稽にうたうスケール感と、いち女子のちょっとやさぐれた日常が混ざっていて、その遊び心が面白かった。今は個人的に女性の「かわいい」声が少し苦手なのだけれど、彼女の歌にパンクの要素があったことを知ると感慨深い。
 「かわいい」と言えば CHAI も選曲した。彼女たちが逆説的に唱える「NEO(ニュー・エキサイティング・オンナ)かわいい」にも思うところがある。CHAI の音楽はかわいいだけじゃなくてかっこいい。個人的にはもっと地声に近い声で歌われたらどんなふうになるかも聞いてみたいのだけれど、あのかっこいい音とある種のアイドルっぽさが掛け合わさった部分もバンドの志向/嗜好なのかもしれない。
 CHAI に加えて同時代の「好き」を含めたいと思い、最後の方にくるりの《潮風のアリア》を選んだ。たぶんこの曲に手拍子は入っていないが、音の層が厚いので聞きこぼしているだけで実はうっすら入っているんじゃないかと思ったり、ドラムがめちゃくちゃ力強いので合わせて手を叩きたくもなったり、という理由でテーマにこじつけた。

Another Playlist

 恩師が返信してくれたプレイリストがなんだかとてもクールだったので、自分が送った日本の「90年代」ぶりが少し恥ずかしくなったが、恥じては失礼ではないか。いろいろ聞き直してみて昔なんとなく好きだった曲の多くを今も好きだということに気づくと、純粋に「好き」という感覚を大事にしようと思った。


 



最後まで読んでくださり多謝申し上げます。貴方のひとみは一万ヴォルト。