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空飛ぶストレート【ショートショートnote杯】

あちらのお客様からです。
バーカウンターで飲んでいると、
自分の前にサッとウイスキーグラスが滑ってくる。

あれだ。
誰もが憧れるあのシチュエーションこそ、
彼女へのプロポーズにふさわしい。

彼女は何より普通を嫌う人だ。

60年代って渋いよねと語り、撮った写真はモノクロ加工、ハイボールなんてダサいと居酒屋でストレートウイスキーを流し込む。

そのどれもが本や雑誌の受け売りなのだけれど、毎夜本や雑誌を読み漁る、そんな努力を怠らない彼女が好きなのだ。

とはいえ、普通にサッとやったら彼女は怒るだろう。
大事なのは逆張りだ。全ての発想を逆転させること。

バーの逆は突き抜ける青空。
カウンターはベンチにしよう。

決戦は金曜日じゃなくて火曜あたりの朝一番。

通勤途中の彼女を突然呼び止め、無理やりベンチに座らせ、彼女の愛するストレートウイスキーをサッとやり、ドヤ顔。

彼女は泣き崩れ、僕たちは抱き合って祝杯のストレートをカチンと合わせ、雫が小さく空を飛んだ。

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