君に贈る火星の【ショートショートnote杯】
お父さんは火星にいるの。
それは、君の母さんが咄嗟についた嘘だった。
彼女の嘘に乗じて、僕は君に手紙を出した。窓に鉄格子のついたこの部屋を、宇宙船に見立てて。
君が「かせいあて」に返事をくれたときは、涙が出るほどうれしかった。
片手で抱き上げられた君が、もう平仮名を覚えたんだ、と思えば、次の手紙では逆上がりができるようになっていた。
学校のこと。母さんに内緒のいたずら。初めての恋。空で言えるほど読み返した。
最後の手紙は、15年前。
「お父さんのこと話したら、みんなが嘘つきって。本当は刑務所にいるくせにって。そんなの嘘!お父さんは火星にいるのよね?」
君のそばにいてやれない自分を、あれほど悔やんだことはない。例え僕の無実が証明されようと、君の心の傷は、なかったことにはならないのだから。
結婚すること、母さんから聞いたよ。
僕はまだしばらく帰れそうにないから、せめて花を贈ります。
火星の花は、そう。
地球の折り紙と、よく似ているんだ。
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