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企業のAI実績がわかるノート~建設業界/スーパーゼネコン大林組編

はじめに

本シリーズでは各業界の代表企業におけるDX/AIの現状を公開情報を集め分析したものになります。特にAI領域について深掘りをしています。
また、本シリーズでは以下の読者を想定しています。

  • 社内のDX/AI推進を担当しているおり他業界や他社の活動を知りたい方

  • 建設業界にいて業界内のDX/AIの取り組みに興味がある方

  • AIベンダーまたはAIベンダーに興味がある方

どんな会社か

次にスーパーゼネコンの中で唯一「組」を継承している大林組について取り上げたいと思います。
スーパーゼネコンの中での特徴としては以下の通りです。

1936年に設立し、2010年まで大阪を本社にしていましたが、現在は東京に本社が移りました。関西出身という事もあり、特に西日本での実績が多くありますが、東京スカイツリー®など首都圏でも実績があり、都市開発に強みを持ちます。
国内のみならず海外でPFI事業※を行っていて、国内のPFI事業ではトップシェアを占めています。近年は新領域事業として、再生可能エネルギー事業に注力しています。 ※PFI(Private Finance Initiative:プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)のことで、公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して行う手法を指します(内閣府HPより引用)。

建設転職ナビ スーパーゼネコン5社の特徴を解説

スカイツリーを作ったので有名ですね。都市開発が強みとのことなのでその点をどのように強化していくのかにも注目したいと思います。

事業数字について

2022年3月期 決算説明会プレゼンテーション資料

22年度の見込みとしては建設事業では増収増益となっていおり、特に営業利益が大幅に伸びている要因としては21年度に多額の損失引当を行ったためだそうです。
特に海外ではコロナ禍からの回復が進みこちらも大幅増収増益となっているようです。

業界での立ち位置

各社の経営数字(各社の有価証券報告書から抜粋)

売上高としては鹿島建設に次ぐ2番手、営業利益は21年度は最下位ですが、22年度は1000億見込みなので順位としてはこちらも2番手となりそうです。

中長期戦略とDX/AIの位置付け

つづいて中期経営計画と DX/AIの位置付けについてみていきたいと思います。

大林グループ 中期経営計画2022
大林グループ 中期経営計画2022

基本戦略の二つのステージで「建設事業の基盤強化」と「変革事業への取組み」といった記載がありました。ここでの建設事業というのは建築と土木のことを指します。つまりメイン事業でまず営業利益1000億を安定的に維持するということを最優先として取り組むようです。
基本戦略の3つの柱について詳細があったので紹介します。

大林グループ 中期経営計画2022
大林グループ 中期経営計画2022
大林グループ 中期経営計画2022

DXに関する具体的なワードで言うと以下でしょうか。

  • BIM/CIMの実装拡大

  • デジタル技術とロボティクス技術などのイノベーションによる革新的な建設生産システムの構築

革新的な生産システムというのは鹿島建設にも出てきたキーワードなので比較注目したいと思います。

大林グループ 中期経営計画2022

目指す財務指標としては営業利益1000億となっています。22年に1000億円見込みなのでそこを安定化するというのが目標のようです。

大林グループ 中期経営計画2022

デジタル関連の投資計画では4年で700億円で全体の11%を占めており、スーパーゼネコン全体では高い方だと思われます。

大林グループ 中期経営計画2022

DX戦略について具体的な内容がありました。以下が気になるテーマです。

  • BIM生産基盤への完全移行

  • データプラットフォーム整備

  • スマートシティ・デジタルツイン都市

  • ロボット・自動施工技術

CIMには明言しておらずBIMのみ切り取っているため建築事業への注力するという意志が感じれます。

大林組では大成建設・清水建設のようなDX専用のサイトが見当たらなかったので、 DX本部について紹介します。

よくあるDX推進室ではなく本部として新設されているのは珍しいなと感じました。また2022年2月時点で200名ほどいるとのことです。
ただ、実際に書かれていた具体的なキーワードはBIM生産基盤の強化のみでしたので大きな投資はBIM周りのみなのかなといった印象を受けました。
ただ、4年で700億も投資枠を設けているので他にどのようなことに投資するのかが気になります。

AI導入事例について

建築設計の初期段階の作業を効率化する「AiCorb®」を開発

建築設計の初期段階の作業を効率化する「AiCorb®」を開発
建築設計の初期段階の作業を効率化する「AiCorb®」を開発

ラフスケッチやアウトラインからファザードデザイン(建物を正面から見た外観)を AIが自動で生成するいわゆるジェネレーティブデザインの1種だと思われます。
また、 AIが作ったファザードデザインを今度は3Dモデルにまで落とし込んでくれるといった優れものです。
顧客にイメージを提案する上で、初回提案のスピードや変更要望の反映スピードは商談の成功率に大きく影響すると思われるので、個人的にはこの取り組みはとても効果が大きいように感じました。
単純な工数削減というよりは顧客体験の向上といった点の方が効果としては大きいように思います。

MetaMoJiが、大林組、安衛研と安全AIソリューションを共同開発、本日より先行試用企業の募集を開始

MetaMoJiが、大林組、安衛研と安全AIソリューションを共同開発、本日より先行試用企業の募集を開始

鹿島建設でもありましたが、作業現場や作業計画に合わせて関連どの高い安全管理情報を自動で抽出してくれるものになります。
やはり建設現場は常に安全との戦いだと思うので、こういったところは今後も安定して取り組まれるようです。
技術としては日報や作業計画書などの文章情報を自然言語解析を行っているようです。

シールドAI自動方向制御システム

こちらは清水建設でもあった、トンネルのためのシールド工事の自動方向制御システムになります。

シールドAI自動方向制御システム

シールド工事は地質に合わせてひび割れが発生しないように細かい調整が必要らしく熟練の技術が必要のようです。

シールドAI自動方向制御システム

単純な右左のハンドルを回すだけでなく、数10個あるシールドジャッキと適切に調整しながら施工を進めるようで、確かにこれは微妙な調整が必要であり 得意な領域だと感じました。

強化学習を用いることで従来手法を上回る制振効果を確認

AIによる構造物の振動制御技術を開発
AIによる構造物の振動制御技術を開発

ビルの端に取り付ける振動制御機を強化学習で取り組むというものです。
大成建設では進化的アルゴリズムを用いて最適化を行っていたのに対してはこちらは強化学習でやっているようです。
なぜ強化学習なのかというのは明記はありませんでしたが、先に遺伝的アルゴリズムや数理最適化を検討すると思われるのでそちらよりも精度が高かったとのことなのでしょうか。

AIによる画像解析技術を利用したコンクリートのひび割れ自動検出手法を確立

AIによる画像解析技術を利用したコンクリートのひび割れ自動検出手法を確立

鹿島建設であったコンクリートに対しての画像検知と近い領域です。
ただ、鹿島建設は打設仕立てのものをチェックするのに対して、
こちらは高架橋やトンネルなど既に出来上がって運用されているものの維持管理のためのひび割れチェックのようです。
従来は目視で確認されていたとのことですが、高架橋やトンネルほどの規模を目チェックで実現するとかなり大変そうなので確かにこちらは効果が大きそうです。
また富士フィルムと共同開発していることから高性能カメラによって人よりも細かいヒビ検出ができるとのことなのでAI化の価値が非常に高いものだと感じました。

今後のAI導入について

DX本部としてはBIMに注力を上げていることと、ビルのジェネレーティブデザインを既に実施していることから、BIM×ジェネレーティブデザインの事例がどんどん増えてくれように思えます。
柱や鉄筋などをBIM上でジェネレーティブデザインを用いて自動生成し設計工数を大幅短縮するといった取り組みがされるように思えます。
また業界全体に言えることですが、危険予知や目視チェックを画像検知に置き換えるなど属人化している業務や単純作業はまだまだ多くありそうなのでAIにどんどんと置き換わっていくと思います。

まとめ・考察

スーパーゼネコンの一角である大林組について取り上げました。
公開しているDX戦略については、詳細な情報が少なく今後の動きなどは把握が難しかったですが、他ゼネコンで取り組まれているAI事例も軒並み実施しているようです。
また鹿島建設のクワッドアクセルほどの派手なものはないですが、ビルのジェネレーティブデザインなど建築事業に対しての新しい取り組みをしていたので、BIMと組み合わせた最新のジェネレーティブデザインについて今後も注目したいと思います。

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