【ゲーム分析】【#ゲーム初心者にオススメ】「すごろく第三帝国」の紹介と分析
はじめに
タイトルの通り、Simulator誌33号の付録ボードゲーム『すごろく第三帝国』(柿崎唯氏デザイン)を紹介します。
本作品は同誌のWW2特集に合わせてつくられたネタ記事の部類であり、一つのゲームとして分析するのはヤボというもの。
と、通常は考えるでしょう。
実際、雑誌の付録ゲームでも一作品として評価する「ボドゲーマ」には、本作品のレビューはありません。
しかし、実際に遊んでみた読者からの評判は良かったのだと思います。
のちに、『SS第三帝国』の名前でリメイクされて、コマンドマガジン誌72号の付録にもなりました。
紹介
おそらくデザイナーの意図は、『ここまで抽象化したらボードゲーム(少なくとも、当時主流のシミュレーション・ウォー・ゲーム)ではないよね』という比喩として「すごろく」という名前を使ったのではないでしょうか。
しかし実際には、その後のボードゲームはどんどん抽象化(と多様化)の方向に進み、21世紀では「すごろく風」であっても十分にボードゲームとして成立しています。
普通の「すごろく」と違うのは、サイコロの目がそのまま進むマスの数を決めるのではなくて、移動先に進めるか(or 後退するか)の判定をすること。
運の要素が100%であることは同じなのですが、ただ先のマスに進むだけではなくて、ちゃんと戦闘をして進撃(撤退)している雰囲気が味わえます。
しかもサイコロの目には補正値が加わり、史実に近い展開に誘導されます。
ゲームの序盤はプラスの補正があって好調に先に進み、途中でイギリスかモスクワに到達すると「あがり」となって勝利。
しかし「あがり」を逃がすと、終盤はマイナスの補正があってどんどん後退する。
最後に「ふりだし」のドイツより後ろのベルリンまで戻ってしまうと、敗北になってしまいます。
分析
分析対象としては、とても良い題材です。選択肢によって確率が変動することがないので、計算がしやすい。
その結果、デザイナーが想定した「ドイツ軍がロンドンやモスクワを占領する確率」を算出することができました。
ゲーム開始~フランスまで
Turn1(1939秋)に、プレイヤーはドイツのマスから開始します。
ゲーム序盤はサイコロにプラスの補正がかかるため、ベルリンに撤退することはなくて、ポーランド、ノルウェー、アルデンヌ、フランスと、順調に進むことができます。
早ければ3ターンでフランスに到着します(27.31%)が、多くのプレイヤーは4ターンでフランスに到着する(42.67%)でしょう。
5ターンでフランスに到着するプレイヤーは21.46%で、バトル・オブ・ブリテンの発生確率は合計91.4%ということになります。
バトル・オブ・ブリテン
1940年冬まで、フランスに存在するプレイヤーにはバトル・オブ・ブリテンを行なう権利があります(最初の1回は強制、2回めと3回めは任意)。
1回行うごとに、1/6の確率で成功(+1補正)、1/6の確率で失敗(-1補正)、4/6の確率で効果なし。
2回成功して補正の累積が+2になればロンドン攻略です!
2回めと3回めには選択の自由がありますが、全く悩む必要はない。1回めに成功していれば継続すべきで、それ以外なら中止すべきです。
2回行なうチャンスがある場合は、そもそも2回連続で成功するしかない。1回めに成功すれば、2回めが成功になる確率は33.3%あるので継続すればよい。
3回行なうチャンスがある場合でも、1回めで成功したかどうかは大きい。
1回めに成功した場合は、残り2回のどちらかで成功すればよく、その確率は55.56%もありますので、当然継続しましょう。
しかし1回めで不成功(影響なし)だと、その後残りの2回連続で成功する確率は5.56%しかないのです。この場合は中止がよいでしょう。
1回めに失敗(-1補正)なら、継続しても絶対に成功しません。
この方針に沿ったときのイギリス攻略の確率は、4.9%になります。
仮に1回めが「影響なし」でも諦めずに継続する場合は、3回チャンスがある場合の5.56%、すなわち1.01%(=27.31%*66.67%*5.56%)が加算されるので、5.91%にまで上がります。
しかし、逆に言えば94.44%は攻略できないわけで、その場合は1~2ターン浪費するのでモスクワ攻略が難しくなります。
実在した某独裁者と同じジレンマを抱えるわけです。
モスクワ攻略戦
イギリス攻略ができなかった場合、次の目標はモスクワです。
しかしチャンスはTurn8(1941夏)とTurn9(1941秋)の2回しかありません。
Turn7(1941春)以前にモスクワの手前のツーラに着く可能性はなく、またTurn10(1941冬)以降はモスクワ攻略に必要な条件(補正+4以上)にならないからです。
Turn8(1941夏)の開始時にツーラにいる確率は6.74%で、その場合にモスクワに進める可能性は、2/6(=33.33%)。
Turn9(1941秋)の開始時にツーラにいる確率は28.76%で、その場合にモスクワに進める可能性は、1/6(=16.67%)。
合計すると、6.74%*33.33%+28.76%*16.67%=7.04%になります。
これが、デザイナーの考える「ドイツ軍がモスクワを攻略できる可能性」ということになります。
イギリス攻略よりは若干高く、なかなかリアルな数字だと思いませんか?
スターリングラード攻防戦
スターリングラード(ボルゴグラード)は、史実同様、激戦地となるでしょう。
Turn13(1942秋)の開始時にスターリングラードにいる確率は26.37%ですが、その後、32.94%(1942冬)=>32.04%(1943春)=>27.32%(1943夏)=>23.74%(1943秋)=>20.99%(1943冬)とじわじわ下がります。
そして、各ターンの開始時にいる確率が最も高いマスが、スターリングラード(1942秋~1943夏)=> ハリコフ(ハルキウ)(1943秋)=> キエフ(キーウ)(1943冬~1944春)=> ミンスク(1944夏~1944秋)と後退していき、ソ連軍の反攻が見事に表現されています。
ゲーム終了
ゲームの敗北条件、つまり1945夏の移動が終わった時点でプレイヤーがベルリンに存在している確率は、18.88%となります。
史実のような負けにはなりにくいが、史実以上の勝利(イギリスかモスクワを攻略する)の確率も低い。
これまた絶妙なバランスを保っているように思います。
ここでクイズです。サイコロの目が悪くて最も進むのが遅い場合は、理論上どのマスまでしか行けないでしょうか?(答えは最後に書きます。)
北アフリカ
Turn16以降の補正が1良くなるか1悪くなるかを試せる選択肢です。
確率だけを見れば、積極策は+1補正が1/6で、変更なしが2/6、-1補正が3/6という分布なので、損と言えます。
だから無条件で消極策(変更なし)を選ぶ人が多いとは思いますが、念のため「+1がどれくらい得で、-1がどれくらい損か」を、計算してみました。
+1の場合、敗北する確率が1.18%に下がる
0の場合は消極策の場合と同じで、18.88%のまま
-1の場合は、62.21%に上がる
平均すると、37.6%に上がる
となって、確かに損にはなりますが、16.67%の確率で「ほぼ負けないことが確実」になるので、賭けてみても面白い。
そしてこの16.67%というのも、消極策の場合に負ける確率18.88%よりやや低いので、そこまでのメリットでもない絶妙なバランスのように思います。
まとめ
第二次世界大戦の欧州戦線を短時間で(特にソロプレイで)再現するのに適した好ゲームです!
余談
唯一残念な点は、「サイコロの目が悪くて最も進むのが遅い場合は、理論上ノルウェーまでしか行けない」ということ。
最も補正が大きい+5のターンで、ポーランドからは抜け出すことができるものの、ノルウェーでは1/6の確率で「ノルウェーにとどまる」の結果になってしまうので。
ただし、これさえもジョークの要素として計算されているなら、恐るべしです。
貴重なお時間を使ってお読みいただき、ありがとうございました。有意義な時間と感じて頂けたら嬉しいです。また別の記事を用意してお待ちしたいと思います。