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#BADLUCK_CRACKUP ネタバレ全開の読書感想文&『僕らの彼女が死んでしまうなら手離したくない幸せたちを』あとがき

 こんばんは。名南奈美です。
 このたび競作企画『BADLUCK+CRACK UP』を主催いたしました。

 当日9/22、無事に全参加者の作品投稿が行われました。どれも面白くて、良い企画になってよかったなと思います。参加者の皆様、告知ポスターのキャラクターイラストを担当してくださったおもおもも様に心からの感謝を申し上げます。

 さて、読書感想文とありますように、あいあさん、水喰ずみさん、レファルさんの作品を拝読した個人的な感想を、本稿では申し上げたいと思います。順番は五十音順となります。よろしくお願いいたします。
 その後に私の投稿作品『僕らの彼女が死んでしまうなら手離したくない幸せたちを』についてのあとがきも書いてあります。
 なお、ネタバレへの配慮は行いませんので、未読の方は先に投稿作品をお楽しみいただいてから本稿を閲覧していただければ幸いです。
 各作品↓


●あいあさん『𝒇𝒇𝒇 - Forgotten For Fate -』

以下ネタバレあり






 第一楽章の《入院生活は三ヶ月目を迎え、窓の外はすっかり秋模様となっていた。》、西尾維新の『クビキリサイクル』の《鴉の濡れ羽島での生活もようやく三日目の朝を迎えようとしていた。》オマージュかな? と思ってしまうくらい節々にリスペクト精神を感じつつ、全体としては音楽的な作品でした。
 マジで玉突き事故(物理)が起こっててウケるな~と思いながら読んでいたらめちゃくちゃ好みなポジションの女の子(七方位盧裡)が出てきて盛り上がりました。急に出てきて意味深なこと言って物語のスイッチ押して消える女の子、好き……。あと初対面の女の子に告られて何日もそのこと反芻してる男の子、可愛すぎですね。
 記憶喪失、未来予知、私立探偵、一個下の異性との同居、変な家でのシェアハウス、双子にメイドに遊び人に詐欺師、それから色々な名作海外小説への言及と外連味たっぷりワクワクポイントがガロンガロン繰り出されるのも楽しい。で、そんな風にキャッチ―な装飾音やコード進行、遊びの多い演奏で魅せつつ、あくまでそれらはサブのままで、ぐいっと序盤に提示したモチーフ(つまるところ、七方位盧裡)へ回帰する感じが音楽的だなと感じました。
 モチーフって動機と訳すらしいんですけれど、この小説における動機は五味衛自と七方位盧裡の心の物語なんだろうなと思います。だから記憶喪失後の初対面は夢のなかのようであるべきだった。夢は心ですから。恋心が繋ぎとめる、恋心を繋ぎとめる、というのもモチーフの繰り返しで、動機の繰り返し。犯行動機、みたいな? 小説を書くことを犯行と呼ぶことに私は躊躇いはありませんが、あいあさんもそうだったりするのでしょうか。
 未来予知を駆使して誰にも会わないように頑張る、みたいなのは超能力者のコメディ漫画で読んだことのある発想ですが、それが主人公の知らない間に主人公の暮らす家で行われているというのは純粋に聞いたことなかったので面白かったです。あと探偵が探偵やってるのもよかった。
 盤外戦術だけで将棋に勝つ、なんか将棋界のお偉いさんになって「将棋の世界に敗者は存在しない。なぜならこの素晴らしいゲームを知れるだけで勝ち組だからだ」というルールを追加して自分も相手も勝ちにする、とかですか?

●水喰ずみさん『不運がきらめき飛び散って』

以下ネタバレあり





 水喰さんにこのお題を振ったらどうなるんだろう? ってどきどきしながら企画にお誘いしたのですが、見事な球を、しっとりと美しく青く打ち返してくださりました。好きになってしまったこと自体も不運って視点すごく好きだしそういうことあるよねって思うので、むしろ私自身がそういう話を書いてなかったのが不思議なくらいでした(少年大殺界が近いかもしれないけれどあれは不運ではなく罪なので……)。そんな予定もなかったのに言うのもなんですが、先を越されて悔しいなあ、好きだなあって思いました。
 登場人物で好きなのはミナちゃん先輩で、十四股(十四股!?)している情報が開示されたあとに主人公が先輩に向けていた恋情の纏う風景が、質感を持った《静かな甘やかさ》が描写されたことでただの十四股の人で終わらなくて、その奥行きが素敵だなと感じます。こういう話って読み手もある程度そりゃ恋しちゃうよな~って思える感じのほうが威力出ると思うので、そのあたりすごいな、先輩のこと好きな話をたくさん書いてきてるだけあるな……と感心しました。
 あと今回も言葉選びがすごくしっくりきて、「げたげた」も「テディベア」も「骨の奥に痛みが染みている」も「高揚感に似ていた」も流石でした。楽しかったです。それからオチも可愛くてよかったです。一夫多妻制みたいなのに憧れちゃう男子、まあ馬鹿だと思うけど、そのあんまり深く考えない感じも付き合えば楽しいと思うから……。
 そういえば短め・画像での投稿という形式を選んだのは今回は水喰さんだけで、そのおかげで内容だけでなく見かけ上もよりいっそうバラエティに富んだ企画になったんじゃないかなと思います。ありがとうございました。

●レファルさん『ネバーエンディングストーリー』

以下ネタバレあり





 やばー……。手に汗握らされた……。なんというか、構造が説明されることで解決が見えなくなる話……SFの皮をかぶったホラーというべきでしょうか。こういうシニカルで後味の悪い奇妙な物語、すごく好きなので嬉しいです。冒頭の「猫が嫌いな理由」が同族嫌悪として回収される無駄のなさも素敵ですね。バイトの件も全然気づいていなかったのでミステリ読んでる気持ちでした。
 レファルさんの小説、先入観の利用や伏線の管理・回収が丁寧なうえに感情表現での引き込み方も巧みなので読んでてとても楽しい……。しかも小宮サクラさんの蠱惑のシーンとか、今年いっぱい可愛いシチュエーションボイス作ってる経験が活かされている感じで、どんどん進化していくな、やばいなと思いました。レファルさんの作品を拝読すると毎回、私ももっと頑張らなきゃ、巧いの書けるようになりたいって気持ちにさせられるので好きです。
 『BADLUCK+CRACK UP』として提示された選択肢をすべて使ってこの話を生み出してもらえて、「レファルさん忙しそうだしな……」で遠慮せずに誘ってよかったなあと心から思いました。







●企画全体の感想・主観的評価

以下ネタバレあり









 え、四作品中三作品で記憶喪失が発生するってそんなことある? というのはさておき、個性的なメンバーを集めたのでずいぶん濃い読書体験になってすごくよかったです。男の子の書き方も女の子の書き方も、不運という言葉の捉えかたも人それぞれで嬉しい。自分の企画で素敵な作品が三つも生まれてくれて本当に喜ばしい……。

 それぞれの特色や美点が発揮され、各作品のすごさ面白さがあるというのは大前提として、それでも(たとえ無粋であっても)競作と銘打ったからには競べての評価もするべきなのかなと考えたので、僭越ながら主催側として主観で言及させていただきます。
 物語の仕掛けや展開力はレファルさんの作品が一番好きで、文章の美しさや共感面や後味の可愛さでは水喰ずみさんの作品がいっとう愛しく、出てくるモチーフや設定などのセンス面ではあいあさんの作品がもっとも嗜好に刺さりました。
 そのうえで、やっぱり読んでて手に汗を握っちゃった事実には逆らえないので、個人的なスーパースター(マリオパーティの概念)はレファルさんの『ネバーエンディングストーリー』です。
 ちなみに自分自身の作品については評価が非常にしにくいので、そちらに関しましては皆様の評をお待ちさせていただきます。もちろん最初にお誘いした際のルールに感想を送るも送らないも自由とありますので、建前でなくご自由にお願いいたします。私は基本的に感想や頼みごとを書く際は本音なタイプなので建前だと思わないでください。

 それぞれのスケジュールがあるなかで、時間を割いていただき全力で取り組んでくださったこと心から感謝申し上げます。
 皆様の作品をこれからも拝読していたいので、どうか心身ともに休養を忘れず、これからも巡る季節と年月を越していただけますと幸いです。

 それではこれで読書感想文を終えさせていただきます。ありがとうございました。



●僕らの彼女が死んでしまうなら手離したくない幸せたちを あとがき

 この話は『BADLUCK+CRACK UP』という企画を思いついたあとに「自分が書くならどうしよう」と考えて数十分で思いつきました。だいたい五月くらいです。ポップにやっていきたいという気持ちがずっとあって、じゃあライト文芸っぽい青春小説、あるいは音楽でいう泣きのバラードっぽいのを書こうという気持ちから着想しました。最初はカクヨムでいうところの後編、記憶を失ったところから物語を始めるつもりでしたが、実際に書き始めた夏ごろには気が変わって、やっぱりきちんと愛着や感情の流れを知ってもらってから記憶喪失をやったほうが希と大我の意見の衝突に気持ちを乗せてもらえるかな、と思いそのようにしました。
 寿命七日病という現象は昔から私の世界にあるものでしたが、ナラティブ・アムネシアは書きながら考えたものです。寿命七日病は昔読んだヒロインが死んじゃう病気の作品へのレビューで「あの病気がそんなに進行してる人間がこんな元気に主人公とデートできるわけないだろ、馬鹿にしてるのか(意訳)」的なのを書かれていたことから、架空の病気なら現実の病人や周囲の人を傷つけずに済むかな、という打算により生まれた記憶があります。ナラティブ・アムネシアも同じように現実の外傷による記憶喪失も大変そうだな……と思って生まれたものではあるので、結局なんか理屈つけたがりなのかもしれませんね。ちなみにENMは現実にある概念です。エシカル・ノン・モノガミーの略で、倫理的な責任や同意の上で行われる、一対一ではない交際のことを指します。海外のほうで普及している生き方のようですが、私はそういうのが多様性としてあると知れば入れたくなってしまう性格をしています。あれとかあれとかもそのうちさらっと取り入れたいな。
 で、物語そのものですが、先述の泣きのバラードがどうたらというのに加えて、私以外の参加者の人はどちらかというと捻くれた話を出してくる可能性があるなと思ったのでバランスを取るために素直な話を目指しました。素直な話だからこそ、素直な気持ちをとにかく人物たちから教えてもらうだけで密度のある四万文字を書けたんじゃないかなと思います。ちなみに九月頭に『少年大殺界』を投稿したのは捻くれたの出したい欲の発散でもありました。
 私は『少年大殺界』でもそうだったように、本編開始以前にもう一作くらい書けそうなバックグラウンドストーリーを敷くのが好きです。化物語における傷物語みたいな。でも、きっとこの作風もそのうち変わっていくでしょうし、色々と移り変わる自分というものを記録するためにも小説を書き続けなくてはならないし、だからこそ秋のうちはいったん休んで充電期間に充てようと思います。書きたい話自体はたくさんあるので、不運にも両腕がなくなったりしないよう気をつけて生きていきます。

 最後にはなりますが、本作をお読みくださった皆様、生まれたきっかけである『BADLUCK+CRACK UP』に参加してくださった皆様に、心よりご多幸をお祈り申し上げます。


名南奈美

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