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「クリニックのリノベーション」完成プロセス② テナント確定編

テナントの内見の続きです。
今回は2つ目に同行した場所についてです。

まず、場所は前回のように大通りに面している訳ではなく、決して人通りが多い場所ではありません。賑やかな商店街から一本裏に入った通りです。

画像1商店街の様子

近くには大型スーパーがあったり、高層マンションがあったりと地元の方が主に通るような道です。車の制限も時間帯によってはあるため、歩行者や自転車のための道といった印象を受けます。


画像2通りの様子

建物は3階建てで、元々は産婦人科を1、2階でされていました。2年ほど前まではクリニックでしたが、現在は閉業されています。今回1階のみをテナントとして借りて、開業する計画です。建物の築年数は50年近く経っていて最初に見たところよりも古いです。事前に施主からは古い建物なので新しくクリニックとしてリニューアルすることができるかが不安ということを感じていたようです。そのような中でもいくつかの点で可能性を感じました。

画像4待合室

画像3処置室

・元々がクリニックのため、受付やトイレ、診察室などがすでに部屋として別れているため、そのまま使用できそう。
・要望として求められていた専門的な室としてレントゲン室もすでにあり、コスト減が見込める。(放射線が出ないようにするため、これだけで壁や天井、扉などを特殊な仕様にするため数百万の費用)
・待合室も道から目線が隠れている。
・助産施設だったこともあり、いくつかの場所で水道が来ていて、洗面やトイレなどプランの自由がある。
・各室にすでにエアコンがついている。
・天井の高さは適度でエアコン効率や工事費に対して有利に働く。

上記のような点からコストメリットやプランの可能性などを想像しながら、古い建物のポテンシャルをどう活かすか考えながら見学しました。

あとは運営に際して重要な立地と家賃については、大通りに面していないことや築年数から家賃が抑えられることもありました。この点は施主と話しているとネットで検索して来る方がやはり多く、突然飛び込みでくることは稀なようです。確かに私達もクリニックを探すときはまず、ネットで近くの場所を探し、受付時間や評判などから判断しているようにも思います。

商店街や大通りから少し離れていてもさほど影響はないのかと話していました。実際に開業してからも影響はなさそうで、そこで浮いた費用で医療機器、設備、HPやSEO対策、内装費など他に回すことも手なのかもしれません。

画像5廊下と階段

正直なところ、いかにもクリニックと言った佇まいでクリニックらしい無機質な廊下でした。施主が求めていたのは「クリニックらしからぬ雰囲気」ということもありさて、どうするかなと思いを巡らせながら見学。

画像6

既存の間取り

この廊下から各室にアクセスするような間取りで、非常にシンプルなつくりの中廊下型です。ただし、廊下は窓もないため、自然光は入らず、照明頼みです。待合から各室への移動はただ移動するだけのようにも感じます。

そして2件見学後、様々な観点から話し合い、最終的にはここに決められました。施主が気にしていた古さに対して、どう新しい場所へと変えていくかという課題はありますが、無事テナントも決まり設計がスタートすることとなりました。



それ以外に、設計者目線として課題になりそうな点もいくつかあります。

・設備の老朽化が進んでいる箇所もあるため、そこの更新に費用がかかりそう。水道や空調、照明、給湯器、各配管など。
・コンクリート造のため間取りの変更が行いにくい。構造的なことからコンクリート壁を解体することは難しいため、壁があることでそれを活かすことはできるが、大掛かりな変更はおこないにくい。
・部屋が細かく区切られているが使いこなせるか。不要な部屋が出てこないか。
・少ない手数でどう更新するか。先述のようにあまり建物の構造に関わることは積極的には行いにくい中でガラッと変えることができるか。
・クリニックの要素が各所にあるため、それらの活かし方。
などなど

リノベーションのため、何を残し何を変えるかが重要です。それは設計者の腕の見せどころでもあります。既存のクリニックの面影、積み重ねてきた歴史などを残していくことで生まれる魅力を見出すことも大事な仕事で、それはやはり現地を訪れて感じるものです。

何十年と使われてきた建物での記憶、そこにありつづける空間を頼りに模索していくことで、何かに気づくこともあります。内見後に撮影した写真を事務所で眺めたり、既存の図面を読み解きCAD化している時や、オーナーとの会話、町のもつ雰囲気などヒントは至るところに散りばめられています。

この場所の持つポテンシャルを引き出し、変える部分と変えない部分の線引き、それらをどう活かしていくか現地での気付きからアイデアの発想、プランが決まっていく過程などを次回以降で書きます。

三谷








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