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青春が終わり新たな人生が始まる

この映画を見る前の藤井道人という監督に対する評価

2019年に公開された「新聞記者」という映画があります。東京新聞の望月何某記者の著作を映画化したもので、政権が全知全能を使って記者を潰すというトンデモ物語で映画としては褒めるところがあまりなかったのだが、この人は暗闇の描写がやたらに上手い印象がありました。もう5年前の映画だけど、日本の公安が暗い部屋で政権批判の記事をひたすら人力で検索しているというシーンばかりが印象に残っています。
その後、余命十年という映画が公開されました。これまた原作あり、難病を患った主人公がタイトルにあるとおり余命十年をどう生きるかという話であり、これが難病ものの涙頂戴かよと思って冷ややかな気持ちで見始めると、これが期待以上に良かった。本当は誰にとっても生きるとは死に向かうことなのだけど、死までの期間が明確に見えている主人公をやたらに大袈裟にしないところと小松菜奈というスター女優を悪目立ちさせない抑えた演出が良かった。

この作品はというと

一言で言うと、好きな映画。後で触れますが、原作が持つロードムービー感とか、台湾も日本も地域性を活かした舞台がガッツリ抜け落ちてる点はどうかなと思いつつも、この映画を観終わった後の感覚は、殺さない彼と死なない彼女をみた時と似たような感動を持ちました。こちらの方がもっとシンプルな話だし、日台合作で観光映画という側面も強いのですが、観る前の予想をいい意味で裏切る作品。
あちらは最初のうちは描写がだるいのですね、当時量産されていたキラキラ映画みたいな演出だったし。ところが、徐々に彼と彼女が心を交わすようになると、別のカップルに切り替わる、今度はこっちのカップルが、というこの間が絶妙。物語の後半はえ?そこでそうなるという展開から複数のカップルが時間を隔ていた時系列と複数の事件がつながり、最後は不幸もあるけど幸せな気持ちになれる独特の感じ。
本筋からはずれましたが、この映画も観終わった後の感覚が同じ。原作が気になったので、原作も読んでみました。

原作との比較

原作のタイトルは「青春.18 x 2 日本慢車流浪記」で日本をゆっくりと放浪する記録で、ミュージシャンとして行き詰まったジミーが青春18切符を使ってアミの地元に行くという話なのですね。タイトルの18はこの青春18切符とも掛けている。ジミーの十八歳の時の日記、アミが残した手紙、現在の描写が行ったり来たりする中で、ジミーが現実と向き合って生きていくという展開なので、これそのまま映画にしてもいいのではと思う作り方なのですね。ただ、原作のアミは台湾を出た後でも旅を続けているので、これを映画にするのは難しい。中国やロシア通るし。いずれにせよ、これは原作がより旅という要素が目立つのに対して、映画は君へと続く道と割と直線的にはなっています。

映画の脚色化で良かった点

逆に映画はジミーの職業をゲームプログラマーにしたという点は良い。役者がミュージシャンを演じるのは結構難しいのですよね。変にライブとかの映像を作るとなると、それだけでも作るの大変ですし、ここに重点を置かずにサラッとした表現にしたのは正解。
あとは、ミスチルの歌が実際に聞こえるというのも映画ならではだし、なぜか鎌倉
とか、台南の小高い丘とか十份のランタン上げとかも映画ならでは。

逆に映画ならではをもっと生かしてほしかった点

ほとんどの場面はジミーの視点から語られているのですが、もっとメリハリをつけて、後半はアミの視点から語ってほしかった。あと、時系列が現在と18歳の時を行ったり来たりするのですが、ただ単に行ったり来たりするだけで、なんかこう、あの時のアレが実はこれでみたいな、伏線をもう少し張ってほしかった。いや、冒頭の寺院のシーンとかアミが電話で誰かに怒鳴っているシーンとかで十分だよというのも否定はしないのですけど、でもね、だったら最後の絵本のシーンとか、今の描き方だと唐突じゃねーかと文句言いたくなってしまうのですね。これは下手に人生を重ねて中年になったせいかもしれませんが。

総論

文句を言いつつも、好きな映画なので、ぜひ劇場へいって観てみてください。


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