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10年越しに『何者』を完結させた。

基本的にホラーには強い。フィクションであればグロ耐性もある。
でもあまりにも怖くて、グロくて、読み切ることができなかった小説がある。
それが朝井リョウの『何者』だ。

いろいろなところで『何者』の話をしてきたから、私のことを良く知る人は「こいつすげぇ『何者』好きじゃん」と思ってるかもしれないけど、実は読み切っていなかった。申し訳ない。
何度読み始めても大手広告代理店の試験を受けた後に拓人と瑞月が電車で帰るあたりで中断してしまう。
まぁまぁ大人になった今ようやく読み切ることができたので、ここでご報告したい。

noteでは何度も話をしているが、私はまともに就活が出来なかった。
それは未だに残るコンプレックスであり、トラウマだ。
何が好きなのか、何になりたいのか、何ができるのか。
他人のことは妙にわかるのに、自分のことがわからない。
合同説明会の違和感、集団面接やグルディスの気持ち悪さ、エントリーシートを前にした時の絶望、そして化けの皮がはがれていく人間関係。
未だに生々しく思い出す。

大手企業の一般職に受かった友人を陰で「だけどさ、あの子、一般職だもんね」と言い合った友人が内定を取った会社が「ブラック企業」で係争中であることに安堵した。他人の幸せを祈れない己の心の狭さに辟易して意図的に友人関係を希薄にしていたあの時期は黒歴史だ。

レコード会社の中で学生レーベルを立ち上げてインターンのことを「仕事」と呼んでいた私は隆良のことを笑えないし、肩書ばっかり並べた薄っぺらなESしか書けなかった私は理香のことを笑えないし、上手くいかない就活から逃げてこのシステムの在り方を観察者づらして批判していた私は拓人のことを笑えない。
ルールに従うことはダサいかもしれないけど、ルールの中で勝負して勝てない奴はもっとダサい。ルールに従えないヤツは論外だ。

光の存在で終わると思っていた光太郎が「就活が上手いだけだった」と話すシーン、めちゃくちゃ朝井リョウだなぁと思った。
本当にその仕事に就きたくて「採用試験に受かる準備ができる人」と、「採用試験に受かる準備ができない人」と、その仕事への志望度が高くなくても「採用試験に受かる準備ができる人」がいる。
やりたいことがあって、それをやるためにどう行動すればいいのかわかってる人は凄いなと思う。
それが作家「にのみやたくと」や、ステージで歌う光太郎、そして飲み会で率先して代金を集めてた女の子に向けてた瑞月の目線なのかもしれないけど。

世の中の人がどう感じてるのかわからないけど、個人的には就活と社会人としての生活は全然地続きじゃないと思ってる。
もし、就活の時の経験が社会人になってからも根幹にあるんだったら、あの時頑張ったことも、負った傷も無駄じゃないと思うけど「就活」という行動だけが私の人生の中で浮いている。
就活の時に学んだことを全て「就活のためのスキル」でしかない、と思うのは私が就活というシステムを上手く活かせなかったからなのかもしれない。
もちろん結び付けようと思えばいくらでも結び付けられると思うんだけど、別に結びつかなくてもいいか、とも思っている。
嘘だ。
結びつけてなんか、やるもんか、と思ってる。
そんなひねくれたイタいヤツだから私は就活がへたくそだったんだ。

社会人になってから気づいたのは
「●●は好きだけど、多分食べていけないし、間口が狭いからなれっこない」という諦めた時点で負けだったということだ。
例えば音楽が好きだからといって、レコード会社に入らなくてももっと音楽に関わる仕事は沢山ある。
絵が得意だけどデザインじゃ食ってけないと全然違う仕事を探すこともあるだろうけど、絵を描く仕事なんてイラストレーターやデザイナーだけじゃない。
でも学生が知っている「お仕事一覧」の中にはそんな仕事はない。

結局誰が悪いかって、学生じゃなくて会社員だと思う。
自分達がやっている仕事が本当は何なのか、何が必要なのか、それを言語化することも発信することもせずに、ぼんやりした言葉で覆い隠して、心理戦みたいな面接をする。ふるいにかけておいて、その基準は教えてあげない。
大人の狡さに気が付いたのは自分が面接官側になってからだった。

自分が面接をする時、どうしても「就活が不得意そうな子」に肩入れしてしまうのは、良くないなと思っている。
「就活が得意そうな子」と「就活が不得意そうな子」を平等にスペックで天秤にかけるのは色々な意味でとても難しい。
面接官が私のような人間だと、より一層。

就活でよく言われる「自己分析」ってやつは、結局「自分のイタさと」向き合うことなんだと思う。
大人になればなるほど、自分のイタさを直視する恐怖は増していく。
だから20歳を越えてすぐ、世の中に出る前に強制的に向き合わせる就活という仕組みは理にかなってるのかもしれない。


ただ、人生やり直すことがあったとしても、私は二度と就活なんてしない。

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