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プレティーンのロールモデル

前回の記事は、子どもたちにも読んでもらった。正期産で生まれた娘が自分のことが出てこないと不満に思うのではないかと軽く心配したが、同性の先輩の物語として神妙に読んでくれたようである。「元からメンタル強かったんじゃないんだ」との感想をもらえて嬉しい。

昔話

今の娘と同じプレティーンの頃の私が影響を受けた同性の大人は、中学の校長先生たちだ。ウォレス財団の調査によれば、アメリカの公立学校の校長の女性比率は上昇傾向にある。1988年に25%だったのが2016年には54%と倍増している。

私は1学年250人中で日本人が1〜2人の現地中学校に進んだ。校長先生は、6年生のときがイタリア系の白人女性で、7〜8年生のときが黒人女性だった。どちらの校長先生も、先生や生徒から慕われ尊敬されていた。そして、ありがたいことに少数派の私を常に気にかけてくれていた。

校長先生の今

ジャネッティ先生は当時、旦那さんの海外転勤で退任されたけれども、あれから30年経つ今もお元気そうである。
ご自身が移民2世として英語を話せない児童だった、当時の先生もクラスメートも接し方に困って支援級に入れられたという話をSpotifyで聞いて、涙が出た。ジャネッティ先生も、私の前回のnote記事で言う「辛かったときに自分が必要とした人」を体現されていたのだ。

私が校長になった理由は、子どもたちを尊重し、情けない思いをさせたくなかったからです。私の学校では、自分を見失う子どもも出したくなかったのです。特に低年齢では、環境に抗う強さを持ち得ない子どもがいます。子どもたちには支えになりつつ、先生たちにとっては生徒を導く模範としてありたかった。だから、今も教育現場にいるのです。

Coffee and Contemplation with Susan Dunlop
Episode 58

もう1人のアンドリーズ先生は、校長として勤めながら博士号を取り、呼称がMrs.からDr.に変わった。私が帰国した後、日本出張の折に会いたいと連絡をくださり、高校に視察にいらしたのも良い思い出だ。

私が彼女から知ったのは、働きながら学ぶことができるということだった。今でこそ当たり前の考え方なのかもしれないが、中学生のときにその可能性を見せてもらったことは、私の人生設計の参考になった。
まず、私の社会人としてのキャリアは、人材育成企業から始まった。新入社員からシニア級まで、必要なスキルを効率的・効果的に学んでもらうことに試行錯誤しながら取り組んだ。私自身も数々の社内研修で恩恵を受けつつ、社外では2つ目の大学で学んで社会福祉士の資格を取得し、さらに転職してスタートアップで働くことになったのをきっかけに通信のビジネススクールでも学ぶことになった。

アンドリーズ先生は学区の教育長まで務め上げられた後、2012年に退任されている。定年までキャリアアップされていったことをネットで知ることができるなんて、良い時代に生まれた。この人をロールモデルとさせてもらえたことを幸運に、誇らしく思う。

そして、自分の子どもたちを取り巻く環境にはたと気づく。

ロールモデル

日本の小中学校だと、校長先生といったら年配の男性というイメージが根強いのではなかろうか。

公立校の校長の女性比率は小学校で約25%、特別支援学校で約28%なのに対し、中高では1割に満たない。

朝日新聞デジタル 2023年3月22日
少なすぎる女性校長、公立中高は1割未満 識者「女の子の翼を折る」

「お母さんは中学校3年間ずっと校長先生が女の人だったんだよね」と子どもたちは驚く。一瞬小学校で女性の校長先生がやって来たが、任期が来ると再び男性が配属されてしまった。
また、校長先生と生徒の距離の近さも羨ましがられた。私が6年生のとき、授業中に親指を縦に数cm切る怪我をしたことがある。一人職員室に入って受付で「指を怪我しました」と見せたら、事務員さんは怯んだが、ジャネッティ先生が奥からダッシュで飛んで来て「まあ、気の毒に」と絆創膏を巻いてくれた。仕組みとして日本の学校のように養護教諭がいなかったにせよ、校長先生自ら。

息子にとって校長先生の性別はどっちでも良くて、全校を見守ってくれているのがわかる存在であってほしいらしい。廊下で気軽に挨拶できるとか。
娘はおとなしいので教員陣に物申すことはないものの、親の私としては上の記事のタイトルにもあった「女の子の翼を折る」ことを危惧している。私にとって当たり前だった女性校長が、娘にとっては珍しい。「海外はそうかもしれないけど、ここ日本だし」と言う静かな諦めにつながってほしくない。

そして、最近こんな記事まで出てきた。

入り口の母数が少なくなれば、校長のなり手だって少なくなる。

先の記事の挿絵にある「せきにんをおうのがいやだから」「女の人は家の事でせいいっぱいだから」「女性がとちゅうで結婚や育児などを理由に仕事をやめてしまうから」、本当にそうなのだろうか。

能力、適性、信念のある人が、必要とされるポジションに就けるようにしたい。さらに欲を言えば、まだ先のキャリアがある40代前後で、校長がゴール地点でない人。卒業して何十年も経ってから当時の校長先生たちの活躍を追えるのって、嬉しいんだから。

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