見出し画像

In the zone

 体感は、2時間。真っ暗な空間で目を閉じて、仰向けになっている。別に切羽詰まっているわけではない。ただ、眠りたいだけなのだ。確かに僕は、深い眠りに入りかけていた。 
 最初は自分で落とした携帯の音。次は動かした足とシーツの擦れる音。最後は寝返りの枕の音。今では、静寂のなかにある空気の揺れる音も聞こえる。空気の揺れた場所と自分との距離も正確に把握できる。 
 空気の揺れはどこに行って、どこに消えていくのだろうか。さすがに消えいく音までは聞こえない。徐々に音が小さくなっていくような気がする。目を閉じながら空気の揺れを捉え、消えていく音を数える。羊がふわふわの毛を揺らしながら、柵を越えていくようだ。このイメージがあれば、眠れるかもしれない。でも、なんで羊を数えると眠れるのだろうか。 
 部屋の外で空気が揺れた。鳥の鳴き声。カブの音とポストに新聞を落とす音。カーテンの隙間から入ってくる微かな光。 
 僕は静かに目を開けた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?