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リズム


 最初は、あの人の声が好きなのだと思っていた。
 そう、それは現代文の時間。先生はなぜか生徒に文章を朗読させることを大切にしていた。大人になった今だから、何となく先生の考えていたことや、その意図もちょっとだけ理解できる。
 あの人は授業中、朗読するために積極的に挙手する人だった。たしか「スーホーの白い馬」や「スイミー」、「やまなし」だったりの朗読だったと思う。もっと文章はたくさん教科書に載っていたような気がするけど、あの人を意識していたのはそんな時期だった。
 ある時、家で好きな作家の文章を大きな声で読んだ。誰もいない静かな空間と時間。「、」の時にはちょっと休んで、「。」の時に止まる。好きな作家の文章の前だと、素直になれる性格なのだろうか。目で捉える全ての情報を声に出した。妙な高揚感に包まれると同時に、あの人への興味は薄れた。
 そこから私は、ドラムに心躍るようになった。
 

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