第十二曲集『百鬼夜想』解説
『百鬼夜想』基本情報
2022年10月30日にリリースされた、
ヴィジュアル系シンガーソングライター「中村椋」の6曲入りCD。
第九曲集『百鬼夜曲』の流れを汲む、妖怪×恋愛シリーズ。
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曲目
一.塵塚怪王
二.雨女
三.屏風闚
四.山颪
五.木魅
六.日の出
楽曲解説
一.塵塚怪王
塵塚怪王とはごみの王様的な妖怪のこと。
徒然草から着想を得られて創作された妖怪。
文車妖妃も同じく徒然草から創作されている。
ということで
・徒然草をモチーフとする
・『百鬼夜曲』収録の「文車妖妃」と関係をもたせる
という指針をもって制作を開始した。
「文車妖妃」で渡した恋文で、その後二人はどうなったのかを描かれている。
1サビは徒然草第二十六段からほぼ丸々引用しているが、その後の「嘘だと知っても捨てられぬ」で全く別の風景を描写しているのが技巧的だ。
2サビはさらに発展させて徒然草第二十六段の元ネタである中国の古典である『蒙求』を引いている。
さらにAメロでは何故か中島みゆきの「糸」をパロっている。
技巧派すぎる歌詞を堪能してほしい。
二.雨女
中国の王様が夢の中で会った女性を愛したが、朝には消えてしまった。
女性は消える際に「朝には雲となり、暮れには雨となり、朝な夕な陽台の下で会いましょう」と言い残した。
というエピソードから創作された妖怪。
吉原遊郭を風刺しているともいわれている。
よく言う"雨女"ではない。
制作方針はこうだ
・”女シリーズ”にふさわしいものであること
さてこの曲も作詞に苦労した。
妖怪”雨女”を主役にしなければならないのだが、エピソードとしての雨女の主人公は中国の王様とやらであり、そのままではあまり美味しくなかった。
そこで一回妖怪雨女としての属性を無視して”女シリーズ”として作詞を始めた。
新宿トー横にたむろする女性たちのニュースを思いながら書いたが実態は知らない。
「聞き分けない私を閉じ込めたベランダ」という歌詞が非常に良いではないか。
中国のエピソードにある「陽台」とはベランダのことだ。
さてこの曲には致命的なミスがある。
ラスサビ前に無音の箇所があると思うが、本来そこにはイントロのようなローファイなジャズフレーズが入っていたのだ。
しかし書き出す段階でミュートしてしまい、そのまま世に出してしまったというわけ。
やっちゃったね。
まぁ現状のものでも成立してるし許して欲しい。
三.屏風闚
見たまんまそのまんま。屏風の上から覗き込んでくる妖怪。
”妻の浮気を覗き込む夫”の歌だが、この構想は「百鬼夜曲」時点ですでにあった。
今回形に出来て荷が下ろせたというところか。
中村椋としては珍しくカッティングのギターが特徴的でオシャレに仕上がっている。
そういう曲が人生に一つくらいあってもいいんじゃないかと思っている。
歌詞については一挙に書き上げたのであまり言うことはないな。
ホント「妻の不貞という演劇を眺めるだけの、書割役者である夫」
それだけ。
この曲にも致命的なミスがある。
歌詞カード等の漢字が間違っている。
正しくは「屏風闚」です。
ごめんね。
四.山颪
ヤマアラシみたいな妖怪。
ということで歌詞も青春真っただ中、いかにもヤマアラシのジレンマを100倍にしたようなものになっている。
もっと荒々しく歌いたかったが自宅でのレコーディングでこれ以上荒ぶると警察沙汰になるのでほどほどの理性を残して歌った。
サビの「桃色の花が色を付けた」は全く意味のない言葉であり何も想定していない。
故に想像は自由だ。
自分だけの桃色の花を見つけてほしい。
アウトロで何か喚いている。
こちらは歌詞カードには載せていないので以下に歌詞を載せておく。
BメロはPPPHのリズムになっている。
ライブでは是非実践してほしい。
五.木魅
100年を経た樹木に宿る神霊。
今作の箸休め的な曲。
とにかくローファイでカスッカスの曲が作りたかった。
鈴木常吉のオマージュでもある。
歌詞の内容としては
「恋人との結婚を両親に認めてもらえず、かといって駆け落ちする甲斐性もなく逃げ出した過去を持つ男が延々と後悔している」というもの。
相席食堂の誰かの回でそんな人が出てきたような記憶をもとに作詞した。
Am Em Dmの3つだけで弾ける超簡単曲なのでチャレンジしてほしい。
六.日の出
妖怪ではなく、ただただ日の出。
『今昔画図続百鬼』の最後に描かれている。
ある理由で恋人を泣かせてしまった男が自暴自棄になり家を飛び出し、ただひたすら夜の道を歩くという曲。
本当は”貴方”を登場させるのは最後の一行だけにしたかったのだが、
それだとあまりに唐突すぎるということで冒頭でも触れている。
この曲も荒々しく歌っている。自暴自棄っぷりを表現したかった。
荒々しい男の声を重ねているので、なんか袋ラーメンのCMを想起させられるのは俺だけだろうか。
とにかくサビが力強いではないか。
しかしその力強さは全て自暴自棄と八つ当たりなのだ。
男の愚かさを笑ってくれ。
ギターソロの後にはブルースハープ吹き散らかしゾーンが待っている。
このためだけにブルースハープをサウンドハウスで購入した。
3000円くらい。思ったより安い。
総評と今後の展望
今回はかなり作詞に手間取ってしまい綱渡りのスケジュールになってしまった。
だから2つも大きいミスをしてしまったんだが。
追い詰められないと歌詞が描けない癖はどうにかせねばなるまい。
今後の展望としては
第十三曲集として中村椋ベストアルバムを考えている。
そしてそれ以降は”曲集”という表現を改めようかな?と思っている。
シングルもミニアルバムもアルバムも全て”曲集”として数えているのが微妙だなーと思い始めたからである。
何にせよ中村椋は今後も邁進する予定であることは確定的である。
振り落とされないで欲しい。