本屋大賞ノミネート作品全部読んだよという話

こんにちは。書店員です。
タイトルの通り、本屋大賞ノミネート作、10作品全部読みましたよ、というお話です。

これを書いているのは私が二次投票を終えた直後、つまり2月29日23時50分……
ギリギリすぎやしませんか。

というのも、今まで私が読んできたのはあくまで「私が面白そうと思った」本ばかり、なんなら小学校の時の読書感想文も自由選択だったので、
こうやって読む本を指定されるのは実は初めてで…

しかし、約ひと月ちょっとで10冊読むという経験なら学生時代に何度もしたぜ!いけるいける!と息巻いたものの、
実は2月中旬にインフルエンザにかかり5日療養、うち4日は本など読める体調ではなく。

なんとかタイムアップ直前で完走し、さて一息、といった感じです。
(投票後、自分の投票内容を見て、あまりにも大きすぎるミスをしていたことに気づき頭を抱えたのは内緒の話。)


閑話休題。

2024年本屋大賞ノミネート10作、作品名で五十音順にするとこんな感じ。
①『黄色い家』
  川上未映子(著) 中央公論新社
②『君が手にするはずだった黄金について』
  小川哲(著) 新潮社
③『水車小屋のネネ』
  津村記久子(著) 毎日新聞出版
④『スピノザの診察室』
  夏川草介(著) 水鈴社
⑤『存在のすべてを』
  塩田武士(著) 朝日新聞出版
⑥『成瀬は天下を取りにいく』
  宮島未奈(著) 新潮社
⑦『放課後ミステリクラブ 1金魚の泳ぐプール事件』
  知念実希人(著) ライツ社
⑧『星を編む』
  凪良ゆう(著) 講談社
⑨『リカバリー・カバヒコ』
  青山美智子(著) 光文社
⑩『レーエンデ国物語』
  多崎礼(著) 講談社


ここからは、『私が読んだ順番』でさっくりご紹介。

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1冊目 成瀬は天下を取りにいく/宮島未奈 (新潮社)
「膳所から来ましたゼゼカラです、よろしくお願いします」

こういう、「自分の信念を曲げない」タイプのキャラクターが私はとても好きです。
そして、その隣に立ちたいと願い、平然とした顔で隣に立つキャラクターがもっと好きです。
島崎は「成瀬あかり史を見届けたい」と言ったが、
それをいうならわたしは「ゼゼカラ史を見届けたい」と言いたい。
読んだ直後に続編も買ってしまうくらいに、成瀬あかりが、その隣に立つ島崎みゆきがとても魅力的でした。
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2冊目 星を編む/凪良 ゆう(講談社)
「君は愚かです」

『汝、星のごとく』につながる、三遍の物語…なのだけれど。
実はこの時点で前作を読んでいないという...
そんな不勉強な私。
でも、しっかり泣いたし、むしろ前作を読まなきゃ!という強い気持ちを抱き、そして読みました。

〈読んだ話はこちら〉

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3冊目 スピノザの診察室/夏川 草介(水鈴社)
「おおきに、先生」

京都の小さな病院で、人の”生と死”を見つめ続けるマチ先生。
スーパードクターと言って過言では無い彼は、あるいは彼らは、患者のことを考えます。
ただそれでも、救える命ばかりではないですね。
医師はもちろん患者の皆さんも、とても優しい人たちです。
”私、失敗しないので”と手をあげる彼女を思い出しました(あれはあれで面白い)。
ちなみにマチ先生のイメージは完全に吉岡秀隆さん。Dr.コトーの影響がつよい。
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4冊目 放課後ミステリクラブ 1金魚の泳ぐプール事件/知念実希人 (ライツ社)
「ふつうの人が気づかないような、ささいなできごとから真実をみちびいていくのが、名探偵という存在なんだよ」

タイトルを聞いて書店の検索機で調べて売り場に行って実物をみたとき、「えっ、児童文学!?」となりました。
「児童文学」というものを読んだ記憶がほぼ無いので、さてどんなものか、と思い読みましたが、これはよかった。
子供の頃なら本当にワクワクしながら読んだだろうし、
(一応)大人になった今でも、本当に楽しく読めました。
侮るなかれ、児童文学。
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5冊目 君が手にするはずだった黄金について/小川 哲(新潮社)
「だからこそ片桐は、その後の自分の人生の全てを捨ててでも、本物になろうとーー黄金を掴もうとしたのだった。」

小説家である主人公の視点で語られる短編集。
結末が少し苦いものが多い。
だからこそ、自分の人生と照らし合わせて考えてしまいました。
もう思い出したくない思い出が蘇りました。
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6冊目 リカバリー・カバヒコ/青山美智子(光文社)
「先のことじゃなくて、誰かのことじゃなくて、今の自分の気持ちだけを見つめてごらんよ。飴でも舐めながらさ」
人と人は見えないところで繋がっていて、誰かの些細な行動が、他の誰かを救うことがある。
青山先生、デビュー作をつい数ヶ月前に読んだばかりだったのだけれど、それも同じように優しい人たちの繋がりが"えん"を描いて帰ってくる物語でした。
優しい物語は良いですね。
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関係ない話。
前述の通り、2月中旬に体調が悪くなり、病院に行ったらインフルエンザと診断されました。
ちょうど「カバヒコ」を読み始めたあたりだったのですが、診察の待ち時間が2時間以上あり、その間で一気に読み終えてしまいました。
この後4日間ベッドとお友達になった上、読書に手を出せる程度の回復までさらに数日かかった結果、残り10日間に(私にとって)かなりカロリーの高いと思える本が4冊も襲いかかってくるのでした。
体調管理、大事。

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7冊目  存在のすべてを/塩田 武士(朝日新聞出版)
「どうかあの子が幸せな人生を歩めますようにーー」

元刑事である記者が追う、二児誘拐事件の真実。
同級生である彼女が追う、被害者だった画家の現在。
二人の求める真実がある場所で、彼と彼女が幸福であることを願わずにはいられない。
登場人物を整理してもう一度読みたい本NO.1。
最後の最後が一番面白い仕掛けのはずなのに、それに気づくことなく、読んだ直後も「?」となってしまったことが本当に悔しい……
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8冊目 レーエンデ国物語/多崎 礼(講談社)
「ーー取るに足らない、おおよそ無価値な人生でも、僕にとって価値があるなら、それはとても幸せなことなんじゃないかって」

ハリポタとかデルトラクエストとか、小学校の図書室に置いてあるようなファンタジー作品は敬遠してきたわたし。読む前から"ファンタジー...地名も名前もカタカナ..."と苦い顔をしていました。しかしこれはとても読みやすい。読まず嫌い克服。
せっかくなら映画館の大きなスクリーンで観てみたいですね。
最近、MCU作品を見続けている私は、脳内のマーベル色と混ざって読んでいました。
国王のCVは完全に三宅健太さん(マイティー・ソー)。
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9冊目 黄色い家/川上未映子(中央公論新社)
”ーーねえお母さん、生きていくのって難しくない?”

重くて辛い物語。
生い立ちと貧困、つまり現代でいうところの、”親ガチャ”。
彼女には『運がなかった』と言えばそれまでですが、その人生を歩む本人の苦しみは計り知れません。
だからこそ、最後に見つけた希望の光を、どうか手放さないでいてほしいと願います。
しかし重い重い。最後の2冊がこれと「ネネ」だったのもあって、何か一つ違うだけでこんなに人生違うのか……とある種の絶望感を覚えました。
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10冊目 水車小屋のネネ/津村 記久子(毎日新聞出版)
「むしろ彼らや、ここにいる人たちの良心の集合こそが自分なのだという気がした」

不遇な生い立ち、これも”親ガチャ”。
しかし、『黄色い家』と同じような出発点から、対照的に明るい。
律の言葉通り、人の良心がバトンのように優しく渡される暖かい物語です。
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そんな感じで、10冊完走の感想でした。
もう一回読みたい本、前作、続編……
色々ありますが、それも含めて2回目に読んだら、またまとめようと思います。

ご精読、ありがとうございました。
ここまでのお相手は書店員でした。


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