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表が裏で裏が表で......「豊嶋康子 発生法──天地左右の裏表」(東京都現代美術館)

 東京都現代美術館で「豊嶋康子 発生法──天地左右の裏表」を見た。

 初期作品を含む約400点(内覧会で聞いたところ正確には500点を超えるらしい)が集う初の大規模個展。これまでM画廊(栃木)やMaki Fine Arts(東京)などで継続して発表してきた作家の全体像を見ることができる。

 豊嶋さんのシンプルな方法で反復していく作風に惹かれる。木製パネルの裏側に木片を組み合わせてさまざまなパターンをつくる《パネル》シリーズや、口座を開設してキャッシュカードと通帳を展示する《口座開設》など、生きているなかで一度は見たことがあるものや風景に、少しの変化を加えそれを量産する。重要なのはこの「量産」の工程だと勝手に思っている。普通ならば見ようとしない/見ることができないパネルの裏や他人の通帳を、膨大な量をもって見せることでその「意味」を希薄にし、作品として成立させている。会場で並べられた通帳を見た鑑賞者同士が、「この模様かわいいね」「ここの銀行の通帳欲しい」と会話していたのは良かった。

 あと豊嶋さんといえば相撲を思い起こす(文章やSNSなどで良く話題を出している)。大規模な個展ではあるが今回は相撲要素がない……ように思えた。会場の終盤、作家がこれまでに受け取った表彰状や卒業証書を額装した作品《発生法2(表彰状コレクション)》が並ぶなか、同じように額装されたメールのスクリーンショットが。その内容はYouTubeに投稿された動画の削除報告。豊嶋さんが投稿した動画が著作権の関係で削除されたことを示す2016年のメールなのだが、「豊ノ島(ジャンクSPORTS出演_部分)2009 JunkSPORTS20091213_TOYONOSHIMA」「NHKアーカイブス「栃若」3/11」「NHKアーカイブス「栃若」7/11」というように全て相撲関連の動画だったのには笑ってしまった。

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