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蕪村の鴉

 リニューアルした京都市京セラ美術館へ、「京都の美術 250年の夢」展を見に行ってきました。コロナ禍がなければ、オープニング企画として大々的に予定されていた展覧会の、ダイジェスト版とも言うべき展覧会だったようですが、どうしても見たい絵があって、その1枚さえ見られればと思い、足を運びました。

 その絵は、与謝蕪村の「鳶・鴉図」。1幅には雪の舞う中、枯れ木に肩を寄せ合ってとまる鴉2羽。もう1幅は風雪の下でも目を見開いて枯れ木にとまり、前を見据える1羽の鳶。北村美術館の所蔵で、何度見たか分からないほど見てきましたが、見るたびにじんわりと、しみじみとした気持ちになれるのです。

 鴉たちは中年の夫婦で、奥に止まっているのが奥さん、手間は旦那さんに見えてきます。寒いのでついつい丸まってしまう肩を寄せ合って、お互いの体温ですこしでも暖をとろうとしているようで、雪の降る寒さを描いた絵なのに、どこかじんわりと温かい。奥さん鴉が「冷えますねぇ・・・。」と旦那さん鴉に話しかけ、旦那さん鴉は「うむ・・・。」とうなずいているような、そんな会話が聞こえてくるような気がします。

 一方、雨風に耐えながらもキッと目を見開いて、前を見つめる鳶。羽がほわっと膨らんだように描かれているところに、キーンとした空気の冷たさが感じられ、蕪村の技量の高さを感じます。鴉のように寄り添う相手はいないけれど、そんなものは端から求めていないとでも言うような、鳶の孤高の強さと美しさがみなぎっています。

 同じ絵を見ても、その時々によって、感じることは変わるもの。今回の私は、2羽の鴉から目が離せませんでした。生きてりゃいろんなこともあるし、心が寒くてたまらない日もあるけれど、そんな時はグチでも言いつつ、なんとか生きていけばいいかな、とでもいうような心持ち。崇高な目標などないし、後世に残るような仕事をしているわけでもないけれど、自分にできることを精一杯やりながら、日々を重ねていけばいいかなとでもいうような、自分に対して肯定的な気持ちにさせてもらうことができました。

 絵は決して変わらない。ただ、見る者の置かれた状況や気持ちによって、いかようにも見えてくる。自分の心の定点観測ができ、じんわりと気持ちを温めてもらえる、私にとって軸となるような大切な絵の1枚です。次にこの絵を見ることができるのはいつだろう、その時はどのように感じるだろうと思いながら、明るく開放的にリニューアルされた美術館を後にしました。

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