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『帝範』の「求賢・審官」を読む

帝範の「求賢・審官」を読んでみましょう。

求賢の内容を簡潔に表すとすれば、
「天子は道理を守り、広い心と深い愛情で民を導き、揺るぎない信頼と尊敬を得るべきです」
また、審官の内容を簡潔に表すとすれば、
「天子は、一人で広大な国を治めるのは難しいので、親戚や一族に協力してもらい、力を合わせて国を守るべきです」
となります。

無料部分では、書き下し文をご紹介します。


書き下し文

求賢

夫れ国の匡輔は、必ず忠良に待つ。任使其の人を得れば、天下自ら治まる。故に堯は四岳に命じ、舜は八元を挙げて、以て恭己の隆を成し、用て欽明の道に賛せしむ。

士の世に居り、賢の身を立つるや、翼を戢め鱗を隠して、風雲の運を俟ち、奇を懐き異を蘊みて、会遇の秋を思はざる莫し。是を以て明君は傍く俊乂を求め、博く英才を訪い、仄陋を捜揚す。卑を以て用いずんばあらず、辱を以て尊ばずんばあらず。

昔、伊尹は有莘の媵臣、呂望は渭浜の賤老、夷吾は縲紲に困しみ、韓信は逃亡に弊る。然れども商湯は鼎爼を以て羞と為さず、姫文は屠釣を以て恥と為さず。卒に能く規を景毫に献じて、光に殷朝を啓き、旄を牧野に執りて、周室を会昌す。斉の一匡の業を成すは、実に仲父の謀に資り、漢の六合を以て家と為すは、寔に淮陰の策に頼る。

故に舟航の海を絶るや、必ず橈檝の功に仮り、鴻鶴の雲を凌ぐや、必ず羽翮の用に因り、帝王の国を治むるや、必ず匡弼の資に籍る。故に之を求めて斯に労し、之に任ずれば則ち逸し。

照車十二、黄金千を累ぬと雖も、豈に多士の隆なる、一賢の重きに如かんや。此れ人を求むるの貴きなり。

審官

夫れ官を設け職を分つは、化を闡き風を宣ぶる所以なり。故に明王の人を任ずるは、巧匠の木を制するが如し。直き者は以て轅と為し、曲れる者は以て輪と為し、長き者は以て棟梁と為し、短き者は以て栱桷と為す。曲直長短と無く、各々施す所有り。

明王の人を任ずるも、亦た猶お是の如きなり。智者には其の謀を取り、愚者には其の力を取り、勇者には其の威を取り、怯者には其の慎を取る。愚智勇怯と無く、兼て之を用う。

故に良匠に棄材無く、明君に棄士無し。一悪を以て其の善を忘れず、小瑕を以て其の功を掩う勿れ。政を割き機を分ち、其の有する所を尽す。

然れば則ち、牛を涵すの鼎は、処いて以て鶏を烹る可からず。鼠を捕うるの狸は、之をして獣を搏たしむ可からず。一釣の器は、容るるに江漢の流れを以てする能わず、百石の車は、満たすに斗筲の粟を以てす可からず。

何となれば則ち、大は小の量に非ず、軽は重の宜に非ざればなり。今、人の智に長短有り、能に巨細有り。或いは百に充てて尚お小とし、或いは一を統べて已に多しとす。軽材有る者には、委ぬるに重任を以てす可からず、劣智有る者には、責むるに大功を以てす可からず。君は臣を択びて官を授け、臣は己れを量りて職を受くるときは、則ち任を委ねて成るを責め、労せずして化せん。此れ官を設くるの審かなるなり。

求賢・審官のまとめ

斯の二者は治乱の源なり。国を立て人を制するは、股肱に資りて以て徳を合せ、風を宣べ俗を導くは、賢明に俟ちて心を寄す。是を以て列宿天に騰りて、陰光の夕照を助け、百川地を決きて、溟渤の深源に添う。海月の凝朗を以て、猶お物に仮りて大を為す。

況や人に君たりて下を御し、極を統べて時を理むるをや。独り方寸の心を運らして、以て九区の内を括らんには、衆力に資らずして、何を以てか功を成さん。必ず須らく職を明らかにして賢を審からにし、才を択びて祿を分るべし。

其の人を得れば、則ち風行なはれ化洽く、其の用を失なえば、則ち教えを虧き民を傷る。書に曰く、則ち哲、唯れ難し、と。良に慎む可きなり。


有料部分では、書き下し文から意訳した意訳文と元となる漢文を掲載しています。

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