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400字小説

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400字程度で書かれた小説たち。ライフワークであーる。2024年1月1日午前7時オープン!
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2024年4月の記事一覧

【400字小説】祝福が黄色

【400字小説】祝福が黄色

踏み切り前でプロポーズして良かった。
あなたに出会えて嬉しかった。
あなたを泣かせてすみませんでした。

ずっとね、謝っていたんだよ。
わたしの過ちは許されない。
佐々木希よりも神々しい
あなたの対応に頭が上がらない。

こんな平凡な単語を並べることしかできない。
それでもあなたのわたしへの失望感に比べたら、
指の爪を剥がされたくらいの苦痛で。
あなたの心臓を握り潰そうとしたんだから。

嘘はいけ

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【400字小説】鎖に繋がれた自由

【400字小説】鎖に繋がれた自由

不自由の中に自由があるってよく言うけれど、
実際のところ意味がわからない。
急に駐車場で車の窓をコツコツされて
嫌なあなたが立っていたのに辟易した。
そんなことお構いなしに喋り出すから、
仕方なく窓を開けていた。
無視したって良かった気もする。
嫌いな人には関わらない自分になりたかったんだ。
それが自由な気がしているからさ。

「STAY DREAMいいよ」って
長渕剛の曲を押し付けてきて、うざか

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【400字小説】わたしに執着していない

【400字小説】わたしに執着していない

「自分らしさを追求するってさ、
まだまだだね、きみは」

カチンと来た。
あれ以来、LINEのやりとりは
していない、1年以上。
何度か最後のLINEを開くことはあって、
ブロックされていないから
本当に関係が断ち切れたわけではないと、ホッとしている。

悪かったのはわたしかもって思うことがあって、
「自分も他人もなくて、あるがままに居るだけ」
という悟りのような考えに
少しは理解を示せるようにな

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【400字小説】悪魔はチャンス

【400字小説】悪魔はチャンス

恋はチャンスで、チャンスは恋だってあのバンドが歌ってた。
30年前って自覚がなくて、時間は止まったまま。
記憶なんて置いてきっぱなしだから、
新しい思い出なんか出来ない。
それは白くて四角いか。
知的で素敵な詩を書いてみたい。

井上陽水がすごいことを知った、今さらだよ、50歳。
「ま~あだだよ!」ってあの人が言ったら
秘密基地に帰ろう。
ひとりでに書ける小説なんてないんだよ。
記憶を全動員して書

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【400字小説】心の隙間、何で埋めてる?

【400字小説】心の隙間、何で埋めてる?

加齢で体力も顕著に落ちてきたし、
心にも余裕がなくなって来ていると公言。
その一方で心に虚しさがあることは誰にも言っていない。
それを事細かに言語化するのは不可能だから。

「膝が痛くてさあ」とか「高校生の娘が
学校行けてなくてね」とか
友人に口にする言葉はマイナスなことばかりだと
オムライスを半分食べたところで気づいた。

「ごめん、愚痴しか言ってなくて」
「我々も年ですからネ。
いいことばかり

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【400字小説】無自覚な供給

【400字小説】無自覚な供給

佐藤さんはド*ブスで旦那もブサイクでも、
笑って楽しい毎日だから《幸せ》でいいんだろう。
雑草がもりもり育ってきている
わたしのうちの庭は、荒れ放題。
向かいの佐藤さんちの庭は整備されている。

2週間に1回はきちんと夫婦で
草刈りをしているのを見かける。
こんにちはって明るく声を掛けてくれるから
悪い気はしないが、蔑み、嫉妬して、
挨拶を返していた。

ある日、空き巣が佐藤さん宅に侵入して、

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【400字小説】集中力は30分

【400字小説】集中力は30分

夕食前に素振りをするのが日課で、
去年もドラフト会議に俺の名前は
呼ばれるわけなかった。
大学まで野球を本気でやって、
一度もレギュラーになれなかった。

生涯打率1割5分。
ホームラン1本だけというのが誇りだ。
大谷翔平には興味がない!
それは嘘でそんなふりをしている。
嫉妬で今にもバットをへし折ってしまいそうだ。

自慢できることはひとつ。
俺は社会人5年目になっても
野球を辞めていないし(お

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【400字小説】寝ても寝てもやって来ない朝

【400字小説】寝ても寝てもやって来ない朝

わたしのギターヒーローが急逝して、夜に。
0時をまわった頃にスマホに着弾。
嘘だろって記事を開くと間違いなく、亡くなっていた。
だからといって旧ツイッターで嘆いたり出来ない。
硬派な音楽しか聴かないと
認識されているわたしだから、
ダサい商業バンドのギターヒーローが好きだったなんて、
今さら打ち明けられない。

わたしだとわからないアカウントを
持っておけば良かったと後悔しても泣ききれない。
てゆ

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【400字小説】決まり手は上手投げ

【400字小説】決まり手は上手投げ

誰もいないはずの駅に一人、ベンチで座ってたら、
向こう側のホームに変な女が立っていた。
鼻の穴の両方にキュウリをぶっ込んでいる長い髪の女。
片手によれよれのレジ袋。
よ~く見るとフライドポテトだった。
多分、冷凍庫から出してきたばかりの。
もう片方の手には開封されていない味噌を。

わたしは彼女と酒を酌み交わしたいと思い、叫んだ。

「おネエさん、奢るから酒でも飲んで、
嫌なこと忘れちゃおうぜ」

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【400字小説】杖をついている人を突き倒すくらいの怖さ

【400字小説】杖をついている人を突き倒すくらいの怖さ

去年の秋から転職して働き始めた職場が
居心地良すぎて、何か怖かった。
15人ほどの同僚はみんないい人だし、
仕事ができる人ばかりで、やさしくもあり、
ゾッとするくらいなんだよね。

年末の新人歓迎会の飲み会も愉快すぎた。
社長は丁寧な言葉選びをする人で、
誰にでも敬語で話す。
だからこそ怖くて、悪いことに見舞われる予感しかない。
そろそろ変な宗教に勧誘されるんじゃないかとか、
いよいよ経営が行き詰

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【400字小説】ポールvsリンゴ

【400字小説】ポールvsリンゴ

【400字小説】ポールvsリンゴ

「ジョンの了承なしでリリースされたことに
憤慨ですヨ」と我妻さんは語尾こそ
《ヨ》にふさわしかったが、静かに怒っていた。

『NOW AND THEN』が発売されたのは
去年の秋だったのに、
春になった今でもしつこく怒っている。
「そもそもジョージがいないじゃんかヨ」って
居酒屋のBOSEのスピーカーにガンを飛ばし、
流れている『NOW AND THEN』に

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【400字小説】きみはどうしたいか

【400字小説】きみはどうしたいか

娘がフライドポテトばかり食べていて、将来が心配。
母親だからわたしが健康的な
献立を考えなきゃいけないのにね。
「ポテト食べたい!」って言われると、
かわいそうになって、
冷凍のを揚げたりしてしまうのです。

思春期真っ盛りの彼女、
成長期まっしぐらの中学生。
(今は良い、取り返せるから……)って
意味不明な理由から、
乱れた食生活を許している。

つまり、わたし自身を許してるってこと。
ダメな母

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【400字小説】恐れのフライパン返し

【400字小説】恐れのフライパン返し

音楽好きなら一度はチバユウスケになりたいと
憧れたんじゃないだろうか。
でも、なれはしないし、きみはきみで……、
って言わせんなよ。

「うまくひっくり返す自信がない」と
鉄板のお好み焼きを前にして弓香が。
ビールを早くも2杯飲んでいた俺だから、
こちらの方こそ自信がなくて
「ダメならダメでいいじゃん」と
いい加減なことを言って逃げた。
自信を持つって大事で、
持てただけでパフォーマンスは
格段に

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【400字小説】囚われの実

【400字小説】囚われの実

小説が世に受け入れられればbest?
成功はしたくないんだ。
自分のしたいことがわからずにいる。
美容院の女性に恋するくらい
明確でわかりやすくはないみたい。

《自分らしく》に囚われて迷宮入り。
そんなことで足踏みしているようじゃ
芸術家にはなれない。
いや、ただ在る。
そうありたい。
生きてるって叫ぶ必要もないじゃないか。
世界にひとつだけの花じゃないさ。
宇宙を見渡しても、わたしはわたしで在

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