【書評】ストラテジック・イノベーション 戦略的イノベーターに捧げる10の提言

Vijai Govindarajan、Chris Trimble
翔泳社
2013/08/05

 新規事業案をビジネススクールの講師の方にレビューいただいた際、忘却と借用という概念を教えていただきました。この本に詳しく説明されているとの事で一読。イノベーションのジレンマの内容を踏襲し、それを組織的にどう乗り越えていくのかに論点が置かれています。

 まず忘却。新規事業は資源・プロセス・価値基準が異なるため、既存事業の価値観を忘却する必要があるというもの。壁にぶつかったときになぜうまくいかないのか?どうしたら改善されるのか?こういった行動原理やプロセス変革には、既存事業の価値観や評価基準は邪魔になるということです。短期的な評価期間や既存事業の成功体験から新規事業を評価・ハンドリングすることは、新規事業のプロセスや市場にはマッチしない可能性が高いということですね。なんとかしろー!とか吠える老害役員の姿が目に浮かびます。とはいえ確かに生まれ育ってきた企業風土を簡単に忘れるのは簡単ではなく、意図的にレポートラインや評価基準・予算を変更することが必要になります。既存事業の下部組織なんかに所属させるとうまくいかないので、別組織として切り離す必要がある。さらにちょっとなるほどと思ったのは、シナジーを重視して既存事業と関連性を求めすぎるとNGというものです。せいぜいコアとなる1~3個程度に絞り、あれもこれもつなげようとすると結局忘却が進まず足かせが増えるというのです。特に人事や財務などバックオフィス系は共通化できると思ってやると、実はバリューチェーンとしてかなり企業風土の一翼を担うため、コスト削減効果以上に新規事業の阻害要因になってしまう。これはまんまやろうとしていたのでなるほどーといった感じです。

 そして借用。既存事業のリソースをうまく拝借し、相互依存はほどほどに活用をするのが吉。あれ?さっき忘却って言ったじゃん。最後にシナジー求めすぎるなって言ってたのと背反じゃん。そうなんです。これが厄介な所で、忘却は既存事業の成功体験や組織風土を忘れてしまうべきというもの。借用は既存の有用なリソースは活用すべきというもの。借用が無ければ、自社事業としてやる必要性が低くなりますもんね。感覚的にはアライアンスパートナーくらいの距離感がいいのかなーと思っています。ただし評価が異なるのにリソースは使う、特に新規事業は最初は赤字。となるとやはり軋轢が生まれ、既存事業からはハレーションが生まれます。やつらは赤字を垂れ流して俺たちの稼いだ利益を貪っている! となるとこの接点を調整する役割が必要となります。Dynamic Coordinator(DC)という職能を紹介しており、平たく言うと既存事業の人たちをなだめつつ、ちょっと新規事業を見栄え悪くしないようにバランス保つ人ですね。まぁストレスの多そうな仕事ですこと。

 理論的にはわかりますが、やはりリスクのある事柄、かつ利害関係者が多いと本当に難しいのだろうなと思います。事業案としてペーパーを作ってプレゼンをするのは簡単ですが、言うとやるとでは大違い。プレゼン作りながら、いざやれと言われてたらどうしようと戦々恐々し始めました。


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