見出し画像

アメコミと専門書店、漫画との比較


この記事は

Twitterで、アメコミと書店、専門店の関係について書いたところ、予想外に多くの反応をいただいた。
色々な人と、お話して補足説明する内に、最初からまとめて書いておけばわかりやすかったのになと思う点があったので、ここにまとめることにする。

前半は、アメコミと専門店の関係について。最後は、アメコミと漫画の売り上げ比較である。
アメコミって売れてるの?というのが疑問の方は、最後だけ見てもよいかも。

アメコミの売られ方

連載アメコミは、1話ごとに30~40pくらいの薄い冊子として月刊で売られ、『Batman #138』みたいな感じで話数ナンバリングされている。これを日本ではリーフなどという。

このリーフ、実は一般の書店では売っていない。コミックブックストアと呼ばれる専門店に行かないと売っていないのだ。
日本人の感覚からすると、漫画が本屋で売られてないのだから非常に奇妙に感じる。
「売れないから本屋が取らないのではないか」「マニア向けだから隔離されてるのではないか」と思うのは無理ない。

専門店の規模

専門店にしかない、と、言われると、非常に狭い市場に思えるが、実際はどうなのか。
まず数だが、2022年で2500軒程度とのこと(https://www.gamesradar.com/comic-store-shop/

2020年の本屋の数が10000軒くらいだから、本屋の1/4はあるということである。(※2023/10/30 20:58 ラジアクさんにご指摘いただいて、ソースを変更。2021年以降、個人書店ブームが来るので、増えている可能性もあります)。

本屋の数は、電子書籍もあり、減り続けていたが、コロナの巣ごもり需要もあって本が見直され、最近増えたり大きく変化し続けている。専門店のほうも同じような理由で増減が大きい。
なので、これらの数字は来年、再来年にも大きく変わるかもしれないが、ともあれ専門店と言っても、かなり広くアメリカにある、ということはわかると思う。

では、ここまで広い規模の専門店が、なぜアメリカに生まれたのだろうか。

アメコミとドラッグストア

アメコミが専門店に置かれて、一般書店に置かれてないのは、その誕生の歴史に遡らなければいけない。

アメコミは、元々、新聞漫画として始まった。日本でもある新聞連載の4コマ(Comic Strip)である。日曜版だと漫画がいっぱい載ってたりもする。あれがアメコミのご先祖である。
新聞漫画の漫画をまとめて冊子として売るようになったのが始まりで、それに人気が出たため、同じ形式でオリジナルの漫画を売るようになった。
ものすごく初期のアメコミは、だから4コマの連続だったりする。

日本では新聞は本屋ではなく、コンビニとか駅の売店とかで売っている。このへんはアメリカも同じで、新聞はドラッグストアなどの売店で売るものだった。(推測だが)新聞のオマケであったアメコミも、自然と新聞を売ってるドラッグストア等で売られることになったのだろう。

初期のアメコミは、一冊完結の作品がほとんどで、あまり連続性とかはなかった。ドラッグストアの店先に並ぶアメコミは、品揃えも号数も適当だったけど、別に連続して読まなくても支障なかったため、問題なかったと思われる。暇つぶしに買って適当に読む、というスタイルだ。

日本でもスポーツ新聞とかは、駅の売店で買って読んだら、そのまま電車の網棚に置いて帰る、みたいな読み捨てをする人が多かったが、それに似た感じだっただろう。

アメコミと専門店

そんなアメコミも時が経つにつれて段々と洗練され、何号にも渡るストーリーで盛り上げ、キャラクターも深く掘り下げられ、細かな設定もついてくるようになる。こうなると、バックナンバーも揃えて毎号ちゃんと読みたいという読者も出てくる。

こうした読者の需要に応えて、アメコミのバックナンバーを膨大な種類揃える古本屋みたいな店が各地に生まれはじめるのが、1950年代である。
アメコミの中で、一時、衰退していたスーパーヒーロー物が復権し、ストーリーが飛躍的に発展した時代をシルバーエイジと呼ぶが、その始まりの頃でもある。
(※2013/10/31 1:07 小田切様の指摘をいただいて、アメコミ専門店の最初を70年代から50年代に変更。以下も記述を修正。現在、資料取り寄せ中)。

新刊書店ではダメだったのか、と思わなくもないが、取り次ぎ業者が違うので、新刊書店にアメコミを卸すルートがなかったことに加えて、膨大なタイトルをバックナンバー揃えて管理するのは、普通の本屋には負担が大きすぎたからと考えられる(これは現代でもそう)。

アメコミと流通

さて、多くのアメコミファンがドラッグストアじゃなくて古書店で買うようになると、古書店もアメコミを大量に仕入れるようになり、70年代には、こうした古書店に向けた流通業者も生まれる。
こうした流通改革もあり、80年代には、現在のアメコミ専門店および流通のフォーマットが確立され、大きく発展、増加した。

アメコミのリーフが本屋では売られず、ドラッグストアや専門店で買うものになっているのはこういった経緯がある。

どの店で何が売ってるかというのは、国によって色々な習慣、常識があり、合理性だけで語れるものではない。

日本でも、例えば本屋で漫画売るなら、その漫画のアニメDVDとかも置けばいいじゃん、と言うことはできるが、実際には専門店を除いて滅多に置かない。流通が違うので、仕入れたり管理したりするのが大変だからだ。
これは現代のアメリカの一般書店が、リーフを扱わない理由とも重なる。

グラフィックノベル

リーフは本屋には置かれないと書いたが、リーフじゃない形式のアメコミもある。TPBやグラフィックノベルというものである。
TPBは連載アメコミを何話分かまとめて、一冊の本にしたもの。
これらは普通の本の形式なので、専門店にも並ぶし、一般書店にも並ぶ。
ただ、アメコミファンが買う以上、専門店で買われることが多い。

さて、アメコミの物語技術が上がってくると、ずっと続く連載シリーズでない、単体で読めて完成度の高いアメコミもあっていいじゃん、という気運も出てくる。普通の本屋に並び、アメコミファンでない人が読んでも面白い、そんなアメコミがあってもいいはずだ、と。

グラフィックノベルというのは、おおむね、そういう方向を目指したアメコミである。基本、その本単体で読めて完結する、アメコミ長編作品である。書き下ろし長編、あるいは、短期集中連載をまとめた場合が多い。映画化もされた『ウォッチメン』などが、その例である。

TPBやグラフィックノベルは専門店にも置かれ、多くのマニアがそこで買うが、一般書店にも置かれる。

TPBやグラフィックノベル以外にも、本屋で並ぶコミックはある。
例えば児童書の絵本の延長で、漫画形式を取ってる本もあり、そうした作品は、コミックであっても、一般書店に並んでいる。

MANGA

さてご存じの通り、日本の漫画も北米で翻訳され、大きな人気を誇っている。
日本の漫画は、昔はマーケットが小さかったこともあり、マニア向けに専門書店流通で翻訳、販売された。その際は、アメコミファンに馴染み深いように、リーフ形式にして、フルカラーにするなどの工夫も多かった。

当初、日本の漫画はマイナーだったが、様々な努力で少しずつファン層を増やしていった。さらに日本アニメがアメリカで好評を博したことで、アニメファンにも向けた営業が始まる。

アニメファンにとっては、一般書店のほうが原作漫画を手に取りやすいのは言うまでもない。日本の単行本形式なら普通に本屋で管理できる。
結果、日本の単行本とほぼ同じ形式で、一般書店に漫画が並ぶようになっていった。

漫画とアメコミ

さて、アメコミが専門店メインで発展する一方、アニメファンに合わせて一般書店メインで漫画が売られるようになった結果、アメリカの一般書店は、日本漫画が一杯並ぶ一方、アメリカのコミック、アメコミのTPBやグラフィックノベルは、あまり並ばないという、ちょっと奇妙な状況が生まれるに至った。

もしアメリカにいって本屋に行って漫画ばかりで、アメコミが見当たらなくても、そういう理由なので、アメコミが売れてないわけではない。
アメコミを買いたい場合、専門店を探すと良い。

アメコミって売れてないって本当?

アメコミが一般書店にあまり置かれない理由は以上である。

とはいえ、「それはそれとして本屋にも置いてなくてマニア向けの専門店にしかないような本って、本当に売れてるの?」と思う人もいるだろう。
「MANGAが売れた分、アメコミは売れなくなった」「MANGAのほうがアメコミより売れている」あるいは「最近のアメコミはポリコレでつまらなくなったから売れなくなった」といった話もよく聞く。

売れる売れないというのは、程度、比較の問題でもあるが、ひとまずデータを見てみよう。

一般書店、コミックストア両方を含めたセールスは、以下のサイトの棒グラフ通り。一方、ICV2によれば、MANGAの売り上げは、2020,$250M、2021,$575M、2022,$627M。(NOBBON様のツイートの計算を参照した。https://twitter.com/nobnobnobbonbon/status/1714777301232366073

まとめると、こんな感じである。

2020 漫画:259M$ それ以外:1021M$
2021 漫画:575M$ それ以外:1505M$
2022 漫画:627M$ それ以外:1533M$

数字ですが、2021年に激増してるのはコロナの巣ごもり需要。また2020年に大手出版社が、専門店流通のDiamond comic distributorとの専属契約を切って、流通が複数に分かれた結果、データにかなり不安が残る。
「それ以外」は、専門店の売り上げの他、通販や電書、さらにはアメコミ以外の売り上げも入っているが、ひとまず「アメコミの売り上げ」と見なす。

そんなこんなで、ものすごく大雑把な数字だが、概算としてこの数字を参照する限り、漫画が大きく売り上げを伸ばしつつ、専門店も微増で減ってはいない、という感じだろうか。

漫画が売れた分、アメコミは売れなくなった
そんなことはないようだ。

漫画のほうがアメコミより売れている
→今のところアメコミのほうが漫画より2倍以上売れている。もちろん、漫画が外国でこれだけ売れてるのは凄いことだし、将来のことはわからない。

最近のアメコミはポリコレでつまらなくなったから売れなくなった
→つまらないかどうかは人それぞれだが、売れゆきが下がってるわけではないようだ。

最後に

記事では主に、アメコミの専門書店と一般書店の取り扱いの差を歴史的経緯の面から強調して書いたが、一方で、アメコミ側から一般書店に接近する流れも昔からあり、わかりやすさ優先で単純化してる部分もあることはご理解いただきたい。
また、昔はアメコミの売り上げのかなりの部分がリーフだったのだが、近年は書籍(TPBもしくはグラフィックノベル)が増加傾向にあり、書店売りのシェアも大きくなっているようだ(もちろん専門店で書籍アメコミも売ってるが)(※2023/10/30 追記)。

いずれにせよ、本来は、もっときちんと調べなければいけないことも、ざっくりとした印象で書いてしまっている点も多い。修正や追加情報はいつでも歓迎である。どうかお手柔らかに。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?