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第1章 小声で選手宣誓

本屋開業前夜にして、カンダさん(本と羊)の本音がずんと突き刺さる。これを書いている2022年1月27日現在、コロナは第6波を迎えている。オミクロン株がとんでもない感染力を衒っていて、例に漏れず、本屋さんでさえも経営が苦しくなっているようだ。僕以前にも、福岡ではちらほら本屋さんができているらしいけど、少なくとも「本と羊」さんはだいぶくらっているらしい。実は今日初めて「本と羊」さんにお邪魔してご挨拶させていただいたのだが、店主のカンダさんにはとても興味を持っていただけたみたいで、嬉しかった。でも帰ってからTwitterを見てたら、コロナで売れ行きが落ちてて、さすがに本音がこぼれ出ていた。いや、というよりはっきりと、宣言していた。僕自身は、店がどうなるかわからない、ある意味での興奮と不安が、カフェオレくらいの配分の甘さと苦さに満ちていて、ひとと顔を突き合わせてものを売るという仕事の厳しさに高らかに選手宣誓を、しかし小声で呟いている。

なんでこんな時に本屋をやるという決断をしたのか。根源的な理由としてはやっぱり僕が向こうみずでしかないのだが、強いて言えば、今しかないからなんだ。タイミング的な話をすれば、もちろんご縁やチャンスがあったので今と言えば今だが、それらがなかったとしてもおそらく僕は踏み出していた。それは僕の性格と、自身への可能性に賭けてでの決断だった。

まずは、「なぜ本屋なのか」について。僕の本の原体験は…小学1年生あたりに遡るのだが、ここら辺は凡庸なので省略する。一番強烈な体験だったのは、地元宮崎の本屋「ポロポロ書店」である。僕が高校3年生の12月、ポロポロ書店は繁華街(宮崎は”コンパクトシティ”なので繁華街は橘通近辺にしかなく、それゆえ地元民は単に”街”と呼ぶ)の裏道にひっそりとオープンした。店主のしらたきさんは変わった人で、それゆえただでさえ狭い店内を、どこでこんなの見つけてくるんだみたいな変な本でぎゅうぎゅう詰めにしていた。テナントは元々倉庫だったらしく、くの字とさえ言えない、くの下半分と”止め”の部分くらいしかないような店内で、身動きも取れず顔さえ見えない客(店の構造上そうなってしまうので気になる人はとりま一回行ってみてほしい)と接している店主が僕にとっての本屋さんである。僕は完全にこの人に人生を狂わされた。十代で将来像を描ききれてない(今もそうですが)男子高校生は、卒業するまでの数ヶ月間通って、そのパンクな本屋さんのありのままの生き様を、本という知的さを以って体得したいと思っていました。最近お気に入りのZINEで、「B面の歌を聞け」(夜学社)というのがあるんですが、そのいわゆるB面の入口もポロポロだった。

こうして、僕の精神はポロポロの本を通じてB面に接続され、A面での活力を失った。こうなると、もう普通に就職をできる気がしない。世の大学生がしているような就活を、そして社会の(というか会社の)1ピースに収束していく気力がなかった。世界中の働いている人には頭が上がらない。大企業の構成員として、東京のど真ん中で駆け回っている人。地元住民のために、食料品を提供する個人経営の小売店。みんな素晴らしいプロフェッショナルだ。しかしながら同時に、自分の仕事に自信が持てず、好きになれなくて、入社後まもなくやめてしまう人もいる。こう言う状況が何年にも渡って続いていて、それがわかってて会社に飛び込むのは、そっちの方がおかしいんじゃないかとさえ思えてくる。みんな苦しいのに、なんで。仕事の素晴らしさを知ってはいるけれども、どうしても僕は後者のようになる気しかしなくて、というのもやっぱりめんどくさいものは、組織は、苦手なのである。大学生になってやっと気づいた。もう自分に鞭打って、思ってもない成長を掲げること自体に疲れてしまった。こういう人間は、一体どうしたらいいというのか。自分でやるしかない。

思えば新卒の就活という文化も、おかしな話である。大真面目に頑張っている人には申し訳ないけれども、しかも自分がしないという保証もないけれども、自分を誇張して、よくわからない組織に人生を委ねるというのは問題ではないか。もちろん、仕事が人生全てではない。でも大部分を占める。そうだろう?そもそも自分が会社にとってそんなにいい人材なら、ちょっとしたビジネスくらいやってみたらいいじゃないか。自分ではできないと思っているから会社に委ねなければならないなんて悲しい。やってみて厳しさを噛み締めてから就活しても遅くはない。それなら、自分でやるのみだ。

それと、学生なのにという声が聞こえてくるが、あえてとも言わず、「学生だから」というのが正しい。と、僕は思っている。なぜなら、本屋は儲からないからだ(実際のところは知らないが、先輩はみんな口を揃えてこう言う)。僕は学生だから、ランニングコストが低い。守るべきものが何もない。加えて、糸島という土地柄、家賃も安いし食べ物も手に入りやすい。だからこういう時期しかやるタイミングもないのだ。逆に新卒で就職せず、いきなり街中で本屋始めてたりする方がよっぽど頭がおかしい。ご納得いただけただろうか?当然、未成年だから個人事業主であろうと信用がない。例えば事業用クレジットカードが作れない。だがこんなものは地方に住んでる時点で気にすることではない。田舎者ならではの図太さで生きながらえばいいのだ。

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