閃き💡劇場④

私の名前は小早川緑。
俗にいう婚活中のアラサーだ。2年前に交通事後に遭い、それ以来私にはこの世にはいない人の声が聞こえるようになってしまった。
それからというもの、毎日特定の幽霊が私にちょっかいを出してくるようになった。

『なー、何か高い肉食わせろよー。』
『うるさい、私にはそんなお金ありません。』
『そうだよなーうだつが上がらないグズなアラサーだもんなぁ、俺達のがいい人間だよなぁ』
『そうよねぇ、こんなグズより私のがいい女よ』
『そうよね、私達あんたよりなんでもできるわよ』
いつもなら聞き流すのだか、この日は虫の居所が悪かったのかぶちギレてしまった。
『そんなに言うなら、何かいいことしてみれば？こんなとこでくだ巻いてないで』
『はぁ？なにそれ』
『そうね…例えば』
私はTVのニュースを見た。
ニュースは海外の紛争について放送していた。我々の主張を認めないなら核兵器を使うとか言っている。物騒だなとそう思った時。物凄い閃きがきた。

『…そんなに自分達がいい人っていうならあいつ説得してみて。』
『は？』
『あいつって？』
『今のニュースに出てた独裁者。あいつを世界を平和にする活動に邁進するような政治家に変えてみて』
『はぁ？！お前何いってんだよ！』
『そうよ、そんな大それたことできないわよ！』
『…、あんたたち。私より何でもできるのよね。』
『え？』
『それなら、あの独裁者の説得もできるわよね』
『な、何言ってるんだお前は、頭おかしくなったのか？』
『幽霊ならセキュリティにひっかかることもないし、簡単にあいつの寝床にたどり着けるわよ。そうしたら説得できるでしょ』
『え？いやでも言葉が…。』
『あんたたち、私よりいい人よね、ならならやれるわよね、こういうこと。私、中々本気よ。』
『え…。』
いよいよ追い詰められた幽霊達は何も言えなくなってしまった。
『所詮あんたたちは匿名でネットで有名人叩きしてる連中と同じなのよ、口先だけ』
『な、そこまで言うか！いいだろうやってやるよ！説得すればいいんだろ？俺達がいい人間だと証明してやる！』
『ならとっと行けば？』
『あぁ、行ってやる！今に見てろよ！』
その言葉を最後に私には一切声が聞こえなくなり、それから程なくして、友人の紹介で知り合った男性と結婚。すぐに子供もでき、私は幸せな生活を送っていた。
そして、5年が経った。

『しかし凄いよなぁ。』
ニュースを見ながら夫は感慨にふけっている。
『何が？』
私は洗い物をしながら尋ねた。
『5年前は核戦争を匂わせたのに、今は世界中の指導者が集まって、全世界を一つの国にしようとしてるんだからさ』
『確かにそうね、これからどうなるのかしら？』
そう答えた時、私は5年前の事を思い出した。
『まさかね…』
とつぶやいた時。
『その、まさかだ、ばーか』
と声が聞こえた。
『え？』
『お前の望み通り、あいつを、世界を変えてやったぜ。言いたい事は山ほどあるが、時間がない。
次はお前だ。お前も世界を変えてみろ、生きてるお前らの番だ。じゃあな』
『え…』
私は絶句した。次の瞬間あいつらが一生懸命あの独裁者を説得し、世界中を駆けずり回っている光景が目に浮かんだ。
『本当にやったんだ…。』
『どうかしたか？緑。』
様子がおかしい私を心配したのか夫が声をかけてきた。
『大丈夫よ』
私はそう答えると再び洗い物をはじめた。
(本当にやったんだ、あんなゴロツキ
だったのに。)
そう思うと私は感動してしまった。
(私も人の事は言えない、あいつらみたいな事はできないが、もっと家族に、周りに誠実に生きてみよう。私が死んだ時胸張ってあいつらに会えるように)
私はそう気持ちを新たに生きることを決めた。