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閃き💡劇場⑤

今日私は結婚する。夫はとても優しい人でどんな時も私を包みこんでくれる。そばにいるだけで、幸せホルモンが出るくらいの癒し系の人だ。
ウェディングドレス姿の私を見て、式が始まる前なのに感動のあまり泣き出す夫。両親より泣いている。そのせいか、控え室の場はとても和やかだった。
その夫の涙を見て、私は5年前を思い出していた。
まだ夫に出会う前、私には生涯一緒にいたいと願っていた男性がいた。
彼はとても頭がよく、色々な事を知っていた。
まだお互い大学生だった頃。ある日私はバイト先で店長に愛想が悪いとこっぴどく叱られ落ち込んでいた。バイト終わりに彼と会う約束をしていたが、テンションが上がらない。どうしようと思いながら彼と会った。開口一番口が悪い彼はこう言った。
『お前、なんでそんな辛気臭い顔してんだ?』
『そ、そう?気のせいだよ。』そう言うも私はすでに泣きそうだった。
『気のせいなわけねーだろ、話してみろ聞いてやるから』
こうして私達は公園のベンチで座って話をすることになった。
私は、バイト先のコンビニの店長に愛想が悪いと店長にこっぴどく叱られた事、それが凄く私にとって傷ついた事を話した。
『…なるほどね、まぁ、言い方ってやつだよな』
『そう。もっと穏やかな言い方があると思う。』
そう言いながら私は泣きそうになった。
『あー、仕方がねぇ、こっちこい、胸貸してやるから』
と彼は私を抱き寄せた。
『感情によって涙が流れるとな、脳から分泌されるホルモンやストレス物質が涙と一緒に体外に流れ出るんだ、だから思う存分泣け』
『何かロマンチックじゃないよ』
『うるさい、四の五の言わずに泣いてスッキリしろ!我慢するより体にいいんだぞ、俺はお前の心配をしてるんだ、ストレスは溜めると心だけでなく体にも悪いんだ、だから泣いてスッキリしろ』
とぶっきらぼうに彼は言った。
ロマンチックじゃないけど、彼の愛情を感じ私は思いっきり泣いた。

そうしてしばらくして落ち着いた私は彼に笑顔でお礼を言った。
『ありがとう』
『なんだ笑えるじゃないか』
『何その言い方。』若干私はムッとすると
『笑いはな、脳内ホルモン、エンドルフィンを分泌するといわれてるんだ。エンドルフィンは、幸福感を感じさせるんだ。それに、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を抑えることから、笑いにはストレスを軽減する効果もある。
それに、脳内の神経細胞ネットワーク、ミラーニューロンの働きで、目の前の相手の行動に反応し、自分も同じ行動をしたり、同じような感情に感化されてしまうミラー効果ってのがあるんだ。だからスタッフが笑顔でいると客もつられて笑顔になる。あながち店長の言うのも正しいんだ。だから、作り笑顔でもいい笑っとけ、そうすりゃお前も客もいい気分になる』
『…話が難しいよ』
と私が言うと
『とにかく、いつでも笑っとけ。今言ったように心と体は繋がってる。ポジティブな事をしてれば心身ともに健康でいられる』
『今日みたいに泣きたくなったらどうすればいいの?』
と私が聞くと
『そうだな、俺の前で泣けばいい。また胸貸してやる、泣きたいとき泣いて、笑いたい時に笑えそのほうが体にもいいしな』
そう言う彼の顔は赤くなっていた。
『…ありがとう』
思いがけずまたじんときてしまった。

しかし、その一年後彼は交通事故に遭い突然亡くなってしまった。
『泣きたいときに胸貸してくれるって言ったじゃない。なんで死んじゃうのよバカ!』
彼のお墓の前で泣きながら私はそう言った。

あれから立ち直るのに時間がかかったが、私は今幸せだ。彼とは違うが、ありのままの私を出しても夫は優しく受け止めてくれる。
『ごめんな、こんな新郎カッコ悪いよな』泣きながらそう言う夫に私はこう言った。
『泣きたい時に泣いて、笑いたい時に笑えばいいんだよ。その方が体にもいいんだよ、そんなあなたの事が大好きだから』
そう言ったその時声が聞こえた。
『幸せになれよ』
『え?』
『どうした?』
夫が心配そうに言う。
『ううん、大丈夫。そっちこそ大丈夫?そろそろ時間だよ』
『大丈夫だよ』
『じゃ、行きますか』
私は夫にとびきりの笑顔で言った。
大丈夫。幸せになる。そう心で呟きながら。

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