閃き💡劇場⑳

「宮崎さん今日もよろしくね」
要領のいい同僚が今日も私に仕事を押し付けていく。
「あ、はいわかりました。」
私は力なくそう言うと足取り軽く帰っていくその同僚の姿を肩を落として見ていた。

私の名前は宮崎幸代。学生時代から地味で大人しく、要領が悪い。学校の先生はそれを実直で真面目だと言ってくれたが、社会人になってからはその性質をみんなにいいように利用されている。
会社の業績は良いがその分仕事量が多い。皆あまり残業にならないように一生懸命頑張っているが、中にはさっきみたいな人もいる、気が弱い私は反論ができずただそれを受け入れているだけ。だから必然的に残業も多く、私の疲れもピークに達していた。だがそれに気付かず残業の日々を送っていたためある日事件がおこる。

「なんだか頭が痛いなぁ、目が疲れたかな？」
普段は感じない不調に思わず声を出していた。
「え？大丈夫？宮崎さん、残業続いてるし、今日は早く帰ってもいいんじゃない？」
理解ある同僚がそう声をかけると、
「あら？好きでしてるんじゃないの？」といつもの要領のいい同僚が口を挟んだ
「え？」
さすがに私も他の同僚も顔色が変わった。
「だって嫌なら断ればいいでしょ、何で断らないの？」
「そ、それは…」
(以前断ったらさらに厄介な仕事を押し付けられたことがあったから仕方なく引き受けてるだけなのに…。)
「何？文句ある？」
「私は！うっ。」
我慢の限界がきた私は立ち上がり文句を言おうとしたら頭に強い痛みを感じ、その場で倒れてしまった。
「宮崎さん大丈夫？！誰か救急車！」
同僚達のその声を最後に意識を失ってしまった。

「…あれ？」気が付くと私は見覚えのない部屋で寝ていた。腕にチューブがついている。点滴だろうか？
(ってことはここは病院？あぁそうかさっき気を失って救急車呼ばれたのかな)と考えていると
「宮崎さん、気が付いた？」
そこには上司と崎山さんという事情を知っている同僚がいた。
「課長、崎山さん。申し訳ありませんご迷惑をおかけして」
私は起き上がりそういうと
「あ、いいからいいから」と二人とも起き上がろうとする私を制止する。
「話は皆からだいたい聞いたよ、皆宮前の尻拭いをさせられていたけどなかでも宮崎が一番酷い扱いを受けていたって」
宮前とは要領の良い同僚のことだ。
「仰る通りです。この１ヶ月は特に酷かったでした。」
「何故断らなかった？俺や崎山に相談しても良かっただろう？」
「一度断った時にさらに厄介な仕事を押し付けられたことがあったからと、私のように地味で真面目なだけの人間はそうするのが当然だと言われた事があったからです。」
と言うと
「え？！そんなこと言われたの？！何故言ってくれなかったの！」
と崎山さんが怒りを露にした。
「そうするとさらに厄介な仕事を押し付けられると思ったからです」
「宮崎大変だったな、酷いこと言われて倒れるまで仕事して、本当に申し訳ない俺の責任だ」と課長は頭を下げる。
「課長、頭を上げてください。実際宮前さんのいうように何の取り柄もないし…」と私は言うと。
「宮崎怒るぞ。」と課長は低い声で言った。
「え？」
「真面目で実直な人間ってのは本当に素晴らしいんだ、人の幸せのために頑張れる人間ということだからだ」
「課長…」
「確かに要領は悪いかも知れないが、宮崎は仕事が丁寧だ誰よりも見やすく資料を作ったり、誰よりも皆が仕事をしやすいように心配りをしていると皆がいっている。お前は自分が思っている以上に価値のある人間だ。もっと自信を持て！」
気付くと課長は涙を浮かべながら私の手を握っていた。
崎山さんもうっすら泣いている。
「皆が心配してるよ、だからゆっくり休んで早く良くなって」
「課長、崎山さん…ありがとう。」私は２人の言葉に涙を流していた。

それから１ヶ月休養したのち、仕事復帰した。
職場の皆も温かく迎えてくれた。
宮前さんはというと、以前の私のように皆ができない仕事を全部押し付けられていて、中々大変そうだ。
「大丈夫なんですか？」こっそり崎山さんに聞くと
「様子を見ながらやるって、宮崎さんや皆がどんなに大変だったか体感させてやると課長が言ってた」
「そうなんですね」
(課長がそういうなら仕方がない、いつかわかり合えるかな)
そう思った。
そして復帰してから数日後。
ふと宮前さんの様子を見ると赤い顔をしてぼんやりしている。熱がありそうだ。
周りは皆知らんぷりしている。
私は見てられず、課長に相談し、許可を貰い、宮前に声をかけた
「宮前さん、大丈夫？熱があるんじゃない？後は私がやるから帰っていいですよ」
「…どうしてあんたはそうなのよ」
「え？」
「どうせあんたも皆もいい気味って思ってるんでしょ？」
「宮前それは違うぞ」
「課長」
「宮崎がいない間お前が代わりに作った資料は最初は本当に酷かった。何度も怒ったよな、でもそれを要領良く学びに変えていたのも知っている。その要領の良さを良い方向に使って欲しいんだ。宮崎みたいに無理はしなくていい。俺は皆の個性を良い方向に使って欲しいだけだ、お客様のために、だから今日は早く帰れ」
「…ごめんなさい、皆、宮崎さん。私も思い違いをしていた。自分が楽する事しか考えてなかった。辛いのは皆同じなのに。本当にごめんなさい」
宮前さんは涙を流しながら頭を下げて謝った
「大丈夫！一緒に頑張りましょう」
私はそう言うと宮前さんは何度も頷いていた。

一連の出来事でさらに結束を深めた私達はさらに業績を伸ばし、皆で楽しく仕事をしている。

私は自分に価値がないと思っていた。けど、私のような人間にも価値があると言ってくれる人がいる。お互いに個性を認め合い、価値を見いだすことでさらに世界は平和になるのでは？最近そう思っている。
だから私は幸せだ。