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ある個展での話
私が働いているブックカフェで、五日間、個展が開かれた。
彼女の作品集があちらこちらに展示されている。
普段もよくその場所は個展が開かれたり、展示品を販売していたりと、イベントはぼちぼち行なわれている。
今回の個展はなんだか惹きつけられるというか、何回見てもまた来たくなるようなものだった。
彼女と話をしていると感心することが多く、そして自分にも刺さるような言葉もあり、その存在の強さというか、芯が見てとれた。
絵画から写真、木や植物への装飾、鏡の破片で作ったオブジェ、陶器。なんともさまざまなジャンルで世界観を表現していた。
一つ、壁にかかっている天秤に目が行った。
天秤が妙にいい存在感があり、気になり、話をした。
『天秤がかわいいね、なんかいい』語彙力はさておき、そこから広げたいという気持ちで。
それについて彼女は答えてくれた。
『天秤は私も好きで、これは裏テーマなんです』と。
裏テーマ?
その天秤の均衡を保つということが、彼女の作品に対する表現へのこだわりだということなのだろうか。
確かに、多くの作品は、バランス感覚がすごいと感じるものが多かった。
写真も、モデルの女性と自然とのバランスが抜群で、オブジェの形とか、木から垂れ下がっていた折り鶴の下がり具合とか、数とかがなんとも絶妙。
実は裏テーマというものが自分の中で大きく刺さったものの一つである。
それがあれば、軸がぶれずに済むかもしれないと漠然と感じたからだ。
彼女は、なんとも柔らかい雰囲気で、人間としての魅力が強い女性だと感じた。ただそれ以上に深みというか、ここ最近で形成されたようなものではないと感じる芯の強さも同時に見えた気がした。
どうも芸術家は気難しいとか、ちょっと普通じゃないみたいな見方をされることが多く感じるが、彼女にはそれがない。それなのに、作っているものはとんでもない。
私の良き友人の一人も、芸術は普通じゃないところに踏み込まないといけないのだが、一般社会を生きる上では、一般常識とかその世界に馴染むということが大切なんだと言ってくれていた。
ある意味両極端にある考えというか、真逆の性質を一人の人間の中に備えないといけないというカオスだったりする。
それに飲み込まれて、堕落したり、社会に馴染めずに孤立してしまったりする人も少なくはないと思う。
でも、その両極端に立ち向かい、何かを作り上げていくことに、価値がある。人間的魅力が非常に増すであろうという勝手な分析。
それはそういう人たちに自分が実際にあって感じたものでもあるから、その感覚は大切にしていきたいものでもある。
作っているとわからなくなる時がある。
でもありがたいことに自分の周りには何かを作り上げる達人みたいな人が多い。それを間近で感じることができるこの環境にも、その人たちにもいつも何かをもらっている。
だからこそ何かを作るということに負の感情がなく、生きていけているのかもしれない。
時には全くもって上手くいかないことがあるかもしれない。
でもだからもう無理と思うのか、せっかくここまでみてくれた人がいるのにここで挫折してたまるか!と踏ん張るのか。
素晴らしい個展のおかげで色々な世界が見えたし、その個展からの人との繋がりとか、その影響で今まで近くにいてくれた人たちと、また新しいことについて話せるきっかけにもなるし、やはり芸術の影響力とかパワーいうのは凄まじい。
もっと、知らないといけないことがいっぱいあるんだと途方に暮れそうになったし、むしろ楽しくなってきたというのもある。
人生とはそういうふうに進んでいくのかもしれない。
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