2023/2/17 『剣客商売』を読み返す

 池波正太郎の『剣客商売』シリーズを読み直している。なにか特別に問題があるわけではないけど、やる気が低下しているときに手を出す本だ。三島由紀夫『葉隠入門』などもこの部類に入る。他人に優しくする余裕がなくなってしまったときは宮沢賢治を読み、少し息を抜きたいときは夏目漱石を読む。

 『剣客商売』には大学生のときに出合った。大学図書館の1階、文庫本の棚にずらりと並んでいた。学術書がずらりと並んだ棚から逃避するように、帰り際に文庫本を物色する。当時、藤田まこと主演の時代劇ドラマをやっていて、水戸黄門みたいなマンネリ化したものと違って、面白く見ていた。

 『剣客商売』の登場人物からは、なんというかカッコいい生き方みたいなものを学んだ気がする。初心者池波フリークとしてもちろん『男の作法』も読んだが、小説から少しずつ「粋」を吸収する方が自分に合っていた。お金の使い方や、食べ物に対するこだわりや、人との接し方、言葉遣いなど。ストイックで、優しくて、それらがうまく混ざり合って「粋」が生まれている。「恐れ入ります」という言葉の使い方や、その時々の季節の味わい方(燕が飛んだら初夏を感じ、雷が鳴ったら梅雨明けを感じる)なんかも、この作品から学んだ。どうしてやる気が出るのかはっきりしないが、たぶん自分の核(理想)のようなものを再認識して、背筋がシャンと伸びるからだろう。確実に自分のからだの一部になっていることを感じている。大学生と違い、齢をとった今、睡眠不足だけが心配である。

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