見出し画像

DIC川村記念美術館

友人よりかねてより「絶対に行くべき美術館」としてDIC川村記念美術館が話題に上がっていました。
「私が車を出すから、今度東京に来た時に行こう」
そう言われたのにずるずると時間は経ち、ある時、DIC川村記念美術館が休館になるというニュースを見たのです。
友人に、「ここって前から行くべきって言ってたところだよね……?」と連絡すると、「そうなんだよ!!!」と悲痛な叫びが返ってきて、あれよあれよという間に行く計画が立てられたのでした。

決行日は10月2日。
雨や曇りが続いていたのにピッカピカのお天気で、なんなら夏に逆戻りのような暑さ。
東京駅で待ち合わせて、ゆるゆると出発していると着いたのが12時過ぎ。
想像以上の森の中に入っていくと美術館がありました。
平日なのに駐車場は90%くらい埋まっている状態。休日だと大変なことになっていそうな予感がする混み具合。

美術館の外観も可愛いのですが、中に入ると「うわーーー」と感嘆の声を上げてしまうくらい、素敵な空間となっていました。
天井には切り紙のような軽やかな美しい装飾、壁には可愛らしいステンドグラスがあったのです。

まずは特別展「西川勝人 静寂の響き」へ。
モノクロの中にどこか温かさが感じられる作品群。建築に造詣の深いアーティストということで、小さな彫刻作品もどことなく建築物のような、なにか機能を持ってそうな立体物に見えてきました。
メイン会場では、迷路のように低い壁が設置されていて、それが作品をめぐる旅みたいで面白かったです。
そして部屋の光源は窓からの光。そのおかげで太陽の状態によって、部屋が少し暗くなったり、突然明るくなったりしました。この白っぽい世界に自然の力が働いて、どこか神々しいとすら思える雰囲気となっていました。

そこからコレクション展の方へと進んでいきました。
途中にある木漏れ日の部屋は息をのむくらい素敵で、しばらく友人とベンチで佇んでいました。
窓の外にある緑、そして部屋に差し込む光と木々の影。それらが展示されている西川勝人氏の作品と共鳴しているようで見事としか言いようがなかったです。
多くの美術館が閉ざされた空間の中に作品が展示されているのに対して、ここでは自然と建物、そして作品が一体化しているようで、例えばヨーロッパの教会に宗教画が飾られている環境にも似ているような、こういう形の芸術の鑑賞があっていいんだよなと思わせられました。

そして目玉のロスコルーム。
ロスコが大好きな友人には言えなかったのですが、実はロスコってそこまで興味なかったのです。
が、部屋に入った途端に鳥肌がざっと立ちました。
ロスコが意図していた照度と環境に近づけた部屋ということですが、初めてロスコの作品を”正しく”見ることができたんだなと思いました。それくらい、ここに来てやっとロスコの意図が見えた気がしたのです。
部屋に入ってすぐは、ほの暗い中にぼんやりと浮んでくる作品に感動するのですが、ベンチに座ってじっくり見ているうちに、ただの色の塊ではなく、キャンバスの表情が次々に見えてきて、生き生きとした作品に見えてきました。
このロスコルームだけでも来た甲斐があったと思えるくらい素晴らしかったです。

今回の休館騒ぎで、縮小して東京へ引っ越し案に反対する声を多く目にしましたが、行ってみてその気持ちが痛いほど分かりました。
ここは環境、建物込みで芸術作品を楽しむ場所なんだと。
確かにコレクション自体も素晴らしいものだけれども、これが他の美術館のように閉じ込められた空間に設置されるのは残念でならないです。
行こう行こうと言ってなかなか実現させなかった者が言うのもなんですが……。
逆にこれをきっかけに、今まで行ったことがない人たちも訪問して、この美術館の素晴らしさを知って、継続させる力にならないかなぁなんて都合のいいことまで考えてしまったのでした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?