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仔猫を保護したがダメだった話。

まず、このたびの台風19号により被害を受けられたすべての皆様に
心からお見舞い申し上げます。皆様の安全な生活と、
一日も早い復旧をお祈り申し上げます。



台風19号が来た日。すでに買い出しや備蓄も万端だったのでその日はずっと引きこもっているつもりだったのだけど、南大阪では思ったより早く雨風が収まったので居てもたってもいられず晩飯は近所の王将に行くことに。

その帰り道、ご近所さんの敷地内から仔猫のか細い声が聞こえて来るのに気づき、奥さんと2人、アワアワしながら覗き込むも暗くて何がなんだかよく見えない。でもそこに居るのは確か。一瞬、親猫が現れるのを待つか?との考えが過ぎったが、台風の影響でかなり気温が低いし、雨で地面もびしょびしょになっている。

躊躇している場合ではないのでは、との思いが勝ち、塀の上からスマホのライトを点けながら何枚か写真を撮って位置を確認。

いた!それに想像していたよりも小さい。生まれたてか?

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すぐにご近所さんの許可をもらって保護に成功。どうやらまだ目も開いていないようだ。びしょ濡れ泥まみれ、動きも緩慢で体温をだいぶ失っている。くるんだタオルがすぐに泥水を吸って、手のひらに冷たい感触が広がる。

ひとまず湯で身体を綺麗にしてドライヤーで乾かしてやると、白黒の綺麗なハチワレ♂であることが解った。外傷は無いようでひとまず安堵。奥さんは傍でテキパキと温水ペットボトルとホットカーペットの準備を済ませてくれていた。

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しかし保護したまでは良いものの、次の手が判らない。保温を続けつつ近所の動物病院に電話するも診療時間外で不通。とりあえず餌か。仔猫が飲めるようなものを買ってこなければ。ということで逸る気持ちを抑えてググりまくって知を得、自転車で家を飛び出たところ、往診から帰ってきた近所の動物病院の先生と丁度鉢合わせた。なんというタイミングか。事情を伝えると、時間外にも関わらず診察してもらえることに。

先生曰く

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状況からすると、残念ながら元々体が弱いとか先天的な疾患があり、親猫に見捨てられた可能性が高いこと。

もしそうではないとしても、ミルクを自力で飲む力も無いようなので、とにかく厳しい状態であるということ。

ぼくらに出来ることは、保温して、とにかく1時間くらいおきに少しづつでもミルクを飲ませること。

もし自力で飲み込めるようになったら少しは期待ができるかもだが、結局はこの猫の身体次第であること。

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また、もし容体が急変したとしても、せめてもう少し成長した状態でないと治療は出来ないということも告げられた。帰りに子猫用ミルクとシリンジ一式をご好意で持たせていただき、2人ともしんみりとなって帰宅。

保温しつつ、指示通りミルクを与えるも、やはり飲み込もうとはしてくれない。時々ピーと鳴くが、どんどん元気がなくなっているように思える。ぐったりと横たわっているお腹が不規則に、小刻みに痙攣しては息が止まる。声をかけて撫でるとまたヒクヒクと動き、呼吸を再開する。やっぱりこいつはもうダメなのかもしれないね、とお互い少し諦めたような気持ちになる。

そんなことを一晩中繰り返し、いつの間にか明け方になっていた。交代で仮眠を取り、少しづつ少しづつミルクを与えていると、なんか急に喉を動かしてコクコクと飲み下すようになった。呼吸も、まだ少し速い気がするものの、幾分安定してきているようだ。その次の授乳ではチュッチュチュッチュと音を立て、プランジャが勝手に動くぐらいの吸引力を見せた。ものすごい回復。生命力。

急に動きも活発になり、血色も抜群に良くなった。寝ている姿も今までとはなにか雰囲気が違う。ぐったり感が無くなっている。そして長ーい便も出た。この便の量、ひょっとしたら、生まれてから初めての排便だったのでは。そして便が出るということは、母乳を一回でも飲んだということなのか?これは期待が持てるのかもしれない。

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先住猫の又八♂は、気になるようでじりじりと距離を縮めはじめる。仔猫のほうも、又八の気配を感じるとそちらへ動き出す。

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指先で撫でると気持ちよさそうに身体をくねらせ、あくびをして手足をぐんと伸ばしたり、タオルをギュッと掴んだりしながらスヤスヤと眠る。手のひらで包むと、母猫と勘違いするのか指や掌を吸う。一度目を覚ますと、ひと時も目を離していられないぐらいぐんぐん這いずって歩いてゆくので、確保して引き戻すという、新しい作業が生まれた。

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1つ。
急きょ、夕飯を外食に変更することにした。これは予定外の行動。その帰り道での保護であったこと。

2つ。
これ以上無いのではというドンズバ?なタイミングで獣医師と鉢合わせ、良いアドバイスを得られたこと。

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なにか細い糸が繋がった感じがするような、この出会いと偶然。それは、この仔猫は間違いなく元気になるのだ。とぼくらが思い込むには十分だった。

来るべくしてうちに来た。そういう運命だったのだ。目が開いたらどんな顔になるんだろうね。大きくなったら目の色は何色になるのかな。カギ尻尾だし、なんか又八にすごい似てるし近所だし(又八も元は近所の野良)、ひょっとしたら血脈のモノかもしれんね。やっぱ縁があるに違いないね。

ああ、でもまたあんな子猫の大暴れの相手をせなあかんのか。しんどいなあ。等と言いながらも、2人して寝顔を覗き込んではニヨニヨしていた。

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連れてきた当初は、情が移るから写真はあんまり撮らないでおこうとか、名前は考えないでおこうとか言っていたくせに、この頃になるともう辛抱たまらずカシャカシャ取りまくっていた。

動画も撮った。名前も考えなければということで、台風とともにやってきたので19号とかハギビスとか又三郎とか、そんな感じでテキトーな案を出し合う。そして初日とは打って変わって、安堵に包まれた2日目が終わった。

しかし、世界はそんなに甘くなかった。明け方ごろ、仔猫の容体が急激に悪化。動きも緩慢になり、ミルクも自ら飲まなくなった。尿もあまり出ない。ぐったりしてひどく苦しそうだ。仮眠中だった奥さんを起こして2人で見守る。もう少ししたら病院が開く。ダメ元で電話してみたが、やはり繋がらなかった。そして一昨日聞いた先生の言葉が頭の中をグルグル回る。

「少し成長した状態でないと治療は出来ない。」

多分ダメなんだろうけども、病院が開いたらワンチャン診てもらおうか。診てもらうべきなのか。そうこうしているうちに、大きめの声でピーと鳴き始め、何度も頭を掻き毟るような、頭を抱えるようにも見える仕草を見せ始めた。

まさか、元気になってきた?!と、少しの希望に心が揺さぶられたが、すぐにそういうものではない事を思い知った。これは多分、断末魔なのだ。

お腹が不規則に、小刻みに痙攣しては息が止まる。そして十数秒後に呼吸が再開する。その都度、口を大きく開けてピーと鳴くが、その声もどんどん弱く、力を失ってゆく。そうして、呼吸が止まっている間隔がどんどん長くなる。

せめてもっと楽に旅立たせることは出来ないのか。小さい手足が冷たくなってきたので声をかけ、背中をさすり、手のひらで包んで温めてみるが、ひょっとしてこうした行為が彼の苦しさを無駄に伸ばす行為になるのでは、と逡巡する。

奥さんが嗚咽を漏らしながら、どうやったら楽にしてあげられるんやろうと呟く。その状態が2時間ほど続いただろうか。そのまま彼の呼吸はさらに間隔を広げ、次第に弱まり、朝7時頃、帰らぬネコとなった。

ちょうど良い大きさの箱があったのでタオルを詰め、亡骸を置く。こんなちっちゃいのによく頑張ったねと、頭や背中を撫でる。そこにはまだ暖かさが残っている。「このままでは可哀想だ」と、奥さんが近所の花屋でお花を見繕ってきてくれたので、ふたりでそれを周りに詰めた。そして簡単な祭壇のようなものを拵えて手を合わせる。

あんな寂しくて冷たいところで、親に見捨てられ、風雨に晒されて、たった独りの最後を迎えるよりは、せめて暖かいところで、誰かに見守られて最後を迎えられて良かったんだよな。と思いたいのは山々なんだけども、あのまま保護せず放置しておいたら、こいつはもっと楽に、眠るように死ねたのではないか。こんなに苦しい最後にはならなかったのでは。

そもそも、保護してからの自分の対応に不備はなかったのか。実はとんでもないミスをしていて、そのせいでこんなに苦しい思いをさせてしまったのではないか。だとしたら。

手を合わせながら、そんなことばかり考えていた。

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一週間経った今も、そういう思いは消えるどころか一層強くなってきている。たった2日のことだったけども、この仔猫の死はずっとずっと自分の中で引きずってゆくんだろう。それを思うと、お医者さんってやっぱすごいなとも思う。曰く「慣れだ」とはおっしゃるけども。

その後、ペット葬儀の担当の方に促されて初めてこいつがまだ無名であったことに気づき、火葬手続き書類の名前欄へ反射的に「ハギビス」と書いてしまって自分でびっくりした。ちゃんと決めておけばよかった。

命名 : ハギビス

台風19号の名前でもあるが、フィリピンの言葉で「素早い」という意味らしい。
長生きさせてあげられなかったうえに、変な名前までつけてしまって本当にすまない。ハギー。どうか、どうか安らかに。

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