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ダイムラーとBMW: モビリティ事業の新会社設立記者会見で何が語られたか?(前編)

Mobility as a Service(MaaS)のプラットフォーマーを目指した競争が激しくなる中、ドイツの大手自動車メーカーのダイムラーとBMWが、競争していたモビリティ領域で事業統合に踏み切ると発表したのが2018年9月のことだった。そしてこの2月22日の記者会見で、モビリティ関連5事業に10億ユーロを出資すると発表された。この記事では、両社のCEOが出席したその記者会見で何が語られたか、詳細にレポートする。(後編はこちら

記者会見の概要

記者会見は2月22日にベルリン市内にて、ダイムラーのCEOディーター・ツェッチェ氏とBMWのCEOハラルト・クリューガー氏により行われ、司会はテクノロジー(IT)分野のアメリカのジャーナリスト、ローリー・シーガル氏だった。約30分の3名による会見の後、20分の質疑応答の時間が設けられた。

シーガルは冒頭、「10年近く前のキャリアスタート時がちょうどテクノロジー分野の”クレイジー時代” で、起業家たちの語るビジョンに、そんなの実現するわけがない、と思っていた。」と語り、UberのCEOにインタビューした時のエピソードを紹介。「携帯で呼ぶと知らない人が車で迎えに来てその車に乗る時代が来る、というCEOの話にあり得ないと思っていた。でも時代が変わり、今それが本当になった。」(5:24)

「今、自動車会社がテクノロジーの会社に、テクノロジーの会社が自動車会社になっているのがおもしろい」と続ける。「人々は移動手段について多様な選択肢を求めている。しかもデジタル世代の現代人はそれをスマートフォン上で素早く、かつ効率的に選びたい。」

時代が変化したとは言え「ダイムラーとBMWが協業するという事実にまだ慣れない」としつつ、「10年テクノロジーの発展を追ってきて1つ言いたいのは、今テクノロジー分野が信用問題で危機に直面しているということ。プライバシーの問題など、人々はテクノロジーの力が大きくなり過ぎていると感じていて、安全性、信頼性が大きなテーマとなっている」と強調し、新会社のプロモーションビデオを紹介。(9:18)

上映されたビデオは、新事業を紹介するWebページで見ることが出来る。

プロモーションビデオは約1分半。男性のアナウンスで
「あなたは今、歴史的瞬間を目の当たりにしている。自動車業界の2大巨頭、世界中の人々に自由をもたらしたBMWとダイムラーが、今また世界中の人々に自由をもたらすために協業する。」との言葉で始まる。

ワンクリックで
 ・ 30都市以上、23,000台の車へアクセス可
 ・ 1,000カ所以上の充電ポイントへアクセス可
 ・世界中の駐車場にチケットレス・キャッシュレスで駐車可
 ・ モビリティーバジェットのMaaSプラットフォーム
 ・ 世界中のドライバーに繋がる
とサービスを紹介。この多様なモビリティ(移動)サービスを「モビリティエコシステム」と呼び、「都市のモビリティの新しい形」と位置付ける。

最後はCAR2GO, moovel, ParkNow, ReachNowなど、両社の14の既存モビリティサービスのロゴが現れ、 “パーソナルフリーダムを今一度、あなたに。” の声と共にそれらがFREENOW, SHARENOW, REACHNOW, PARKNOW, CHARGENOWの5つの新サービスのロゴに変わる。(10:51)

ダイムラー・BMW両CEOが登場

続いて司会のシーガルに呼ばれダイムラーのCEOディーター・ツェッチェ氏とBMWのCEOハラルト・クリューガー氏が登壇。シーガル司会者の質問に答える。
(以下ツ=ダイムラーCEO ツェッチェ氏、ク=BMW CEO クリューガー氏)

Q. 競合2社がどのようにして協業することになったのか? (11:20)

ツ: 我々は競合することで切磋琢磨してきた。それは両社にとってもユーザにとっても良いことでこれからも変わらないが、同時に時代が変わり自動車の所有に興味のない人たちも出てきた。モビリティオンデマンドについては2社が別々にやるよりも一緒にやる方が良い、というところから始まった。

ク: 一番になるために互いの強みを持ち寄り合わせることにした。協業のためにはそれぞれの社内で同意を得る必要があり、簡単ではなかったが、新しい精神、新しいチーム、新しい課題を持って新会社を始めるのにベルリンは最高の場所だ。

Q. 新会社の具体的なプランは? (14:24)

ツ: 全てのモビリティサービスを提供するユニークな会社。
2社はそれぞれに強みがある。自動車から始まって充電事業、駐車場、ライドヘイリング [訳注: 日本語でライドシェアのこと]、カーシェアリングなどサービスを広げている。さらに既存顧客は2社合わせてヨーロッパ市場ではトップの6億人。そうした基盤を元に可能性は無限だ。

ク: 例えばシーガル記者がカリフォルニアからここベルリンまでの移動で、空港までの車、航空券の予約、現地でのカーシェアリング、充電など、モビリティ(移動)に関して総合的にサービスを提供し、ユーザに自由を与える。もちろん感動的で素晴らしい製品(車)とともに。

Q. どちらの会社が何を担当するのか? (16:10)

ツ: これまではBMWが充電事業や駐車場事業、ダイムラーがライドヘイリング事業、など別々に強みを持っていたが、今はもう1つの会社。1つの目的に向かって顧客に最高のサービスを提供していく。5つの事業からなる新会社に10億ユーロ投資する。6億人の既存顧客とともにあらゆる分野でトップを目指していく。

ク: 5事業はそれぞれに独立のビジネス。本部からトップダウンで経営するのではなく、5事業それぞれの社長やCEOに経営の自由・権限を持たせることで、できるだけスピーディーに会社を大きくしたい。
モビリティソリューションのビジネスで成功するためにはスピードと規模の拡大が鍵となる。拡大可能なオペレーションと基準が必要で、新会社にはそうした気風を持ってもらいたい。一方で、我々のオペレーションはすでに世界中に行き渡っている。

Q. どうマネジメントしていくのか?意思決定など。 (18:33)

ツ: 5事業のCEOたちは共同経営者。我々は枠組みと財源を与え、CEOたちがビジネスを成功させる。我々は経営に干渉しない。困難があっても5事業が良い答えを出してくれる。

ク: スピードを重視するため、明確な枠組みを示したうえで5事業をできるだけ自由にさせる。本部が支配してスピードダウンすることがあってはならない。それぞれの起業家精神を損ないたくない。

ツ: まだ誰もこの5つのビジネス全てを1つの会社に持っていない。5事業はそれぞれ独立しているが、将来融合し、変革をけん引していく。今日がその始まり。

Q. 自動車メーカーとしてテクノロジー企業より有利な点は? (21:53)

ツ: 2社とも100年以上の歴史を持ち、顧客に対して長年蓄積した経験を持つ。これが大きな信用の根拠となってきた。我々の自動車の安全性への信用は、つまりデータへの信用である。テクノロジー企業は歴史が浅く信用の根拠を持っていない。将来自動運転が実現すれば、信用が何より重要になる。一度車に乗ったらプライバシーがなくなるのだから。そのサービスを誰が提供するのか、というのが重要になる。

ク: それから我々は強いブランド力と素晴らしい製品も顧客に提供できる。例えばよく晴れた日にはオープンカーに乗りたくなるもの。それを他のどの会社が提供できるか?そして長年の知識の積み重ね。我々は安全な車を設計する方法を知っている。それがテクノロジーとともに今必要な知識。

ツ: デジタル化は音楽産業など、様々なビジネスを根本的に変えた。しかし自動車産業の場合は違う。ある場所から別の場所へ移動するためには物理的な入れ物が必要だ。我々の強みはそこにある。

ク: 両社はこれまでも革新をもたらしてきた。これからもこの2社から革新を生み出す。

Q. Uberなどが苦戦しているが、政府や自治体などとどのようにうまくやっていくか。 (25:44)

ク: 1つ目に、我々は市や町に対し総合的に新たなモビリティのあり方を提供できる。総合的なソリューションを提供できることが、ただ1つのサービスを提供する他社とは異なる。
2つ目に我々には信用がある。我々はこれまでも政府や自治体と緊密な関係を築いてきた。これは世界のどこでも必要。

ツ: こういったモビリティサービスというのは都市部のコミュニティへの提供が中心。我々のバス事業は長年地域と連携してきており、公共交通の経験を積んできた。そこで自治体が求めるものとUberが提供できるものは異なる。

Q. このビジネスの将来像について (27:52)

ツ: このビジネスは拡大が肝。まず世界中で規模を拡大し5事業がトップのシェアを取っていく。そして5事業が1つに融合し、将来は例えば地上だけでなく空中のモビリティも事業の一部になりうる。包括的・統合的なモビリティオンデマンドサービスを提供する。

ク: 顧客が満足できるようなプレミアムな製品と感動的なサービスを提供する。
わくわくするような未来、モビリティの未来を提供する。

Q. 主要事業への影響は? (29:48)

ツ: 変化の時にはいつでも失うことを恐れるが、変化を無視することはできない。我々は主導権を持ってこの変化をデザインする側でありたい。既存のビジネスモデルがどのように新しいビジネスを支えられるか分からないが、我々は未来を設計する側でありたい。我々は開拓者であるべきで、傍観者となるべきでない。

ク: 主要事業に注力しながらも、10年後に振り返ったらこの日が未来のモビリティにとって重要な日となると確信している。
自動車技術と未来のモビリティサービスは両輪で、デジタルトランスフォーメーションを乗り切るにはその両方が必要。

Q. 歴史ある大企業のリーダーとして、(新ビジネスを行うのに)気持ちの切り替えは必要だった? (31:38)

ツ: 長年のライバルと協業することについては、そもそもライバルは敵ではなく、協力することに矛盾はない。高級車分野では互いに競争しつつ、モビリティサービスでは協力して他社と競争していくことは両立可能。
既存事業からモビリティサービスへの拡大は、両社にとってチャレンジ。この分野では協力した方が良いと即座に判断した。

ク: 競争は己を強くする。他社から学ぶことがたくさんある。
しかしモビリティサービスにおいては十分な規模が必要で、拡大可能なビジネスである必要がある。2社が協力すれば他を打倒しトップになれる。また我々にはトップになれる組織的基盤があり、新たな仕組みもある。
今日のビジネスは厳しい競争をいかに勝ち抜くかが重要で、戦略的協業は理にかなっている。ウィン-ウィンだ。

Q. ライバル会社の車に乗れる? (34:02)

ツ: もちろん。もし車を呼んでBMWが来たら社員の前で「私の車だ」と言って乗るよ(会場笑)

後編では質疑応答をレポートする。

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